第二話「クロイノ大地に立つ!」②
……なお、グラドドドスは全く気付いてない。
「頭と首が弱点なんだよなぁ……確か」
こいつは、要するに火吹き亀……それ以上でも以下でもない。
甲羅の部分はくっそ硬いから、基本的に何やっても効かない。
特大ハンマーでぶん殴っても、ガキーンって弾き返されるのがオチ。
ブレスもあまり広がらないのだけど、火力はあって射程もやたらある。
要するに、固定砲台のようなもんだ。
飛び道具系もほぼ効かないので、一見相性悪そうなんだけど。
スナイプ系のボウガンとかで、頭部狙撃なら動きも鈍いから、一方的に殺れたりする。
なお、御主人様は、大盾と槍のナイトランス系装備。
正面から殴り合うしか無かったってのも解らなくもない。
常勝無敗の歴戦の猛者だったんだけど、人間誰しも寄る年波には勝てない……。
まぁ、それは嘆いててもしょうがない。
しっぽ薙ぎ払いがあるから、後ろからの攻撃は危険。
側面も手足以外は、有効打が殆ど入らない。
近接系なら、重装系装備揃えて、消耗戦覚悟で真正面から殴り合って、削り殺すか、甲羅に飛び乗って、取り付いての首筋狙いが有効。
攻略法としては、こんな感じかな。
いずれにせよ、接近してしまえばそこまで怖い相手でもない。
俺の場合、後者一択。
けど、こんなちっぽけな短剣でブッ刺した所で……効くかなぁ。
スケール的には、一寸法師が針持って、鬼と戦うのと大差ないぞ?
けど、やれるだけやるしかねぇ。
サビーネの即席毒をたっぷりと短剣に振りかける。
適当にすり潰して混ぜただけっぽかったけど、結構ヤバい毒らしい。
もう色や匂いからしてヤバい……混ぜるな危険。
毒ヤバい……毒短剣とか、掠っただけで普通の人間とか余裕で死ぬ。
ナックルは毒耐性があるらしいけど、限度ってもんがあるだろうよ。
グラドドドスは、御主人様にトドメを刺すべく、ドッカンドッカン蹴りまくってたんだが、唐突に動きが止まった。
激しく呼吸してるみたいで、上下に派手に揺れている。
なんだそりゃ……息切れかよっ!
まぁ、生き物なんだからスタミナにも限度があるわな。
今がチャーンス! キラーン!
アマリリス達に合図を送ると、軽くジャンプ!
……と思ったら、軽く天井近くまで飛び上がってた!
「と、飛びスギィッ! なにこれっ!」
……いや、自分が思ってたよりめっちゃ飛んでた。
猫の瞬発力って半端ないけど、ナックルもおっそろしく身軽らしい。
まぁ、いずれにせよ……このままやるしか無い。
両手で毒短剣を構えて、そのまままっしぐらにグラドドドスの首の後ろに全体重を短剣に乗せて、勢いよく自由落下アタック!
「うらぁ! ぶっささりなっ!」
……ドブシュっと半分くらいまで刺さった!
これは効いただろ。
うまい具合に鱗の隙間にぶっ刺さってるんでやんの!
更にグリグリと押し込むと柄までズッポリ入った。
グラドドドスが一瞬ビクンとすると、固まったようになる。
「こいつは逝ったろ! 人間だったら軽く10人くらい殺れるって言ってたからな! おら、死ね! すぐ死ね!」
短剣の柄をガツンと蹴り飛ばして追い打ち! なんか硬いのに当たってる感じがするけど、骨かな?
次の瞬間、グラドドドスの首がぐにゃんとこっちを向き、目が合う。
「うげっ! そんなフクロウみたいな……」
とっさに、真横に大ジャンプしてすっとぶ!
……直後、俺が居た空間を炎が焼いていく。
自分の甲羅や尻尾も巻き込む、後先考えないブレスアタック!
さらに、すげぇ勢いで方向転換して、今度は猛烈な勢いでの突進!
「うひひ……サーセン。どうやら、めっちゃ効いたみたいだな! けど、そんな闇雲な突進……食らうわけがないぜ!」
解ってきた……この身体、反応速度が半端ねぇ。
例えば、障害物を飛び越えたりする際、目測で距離を測ったり、力加減を調整したり、半ば無意識でやってるんだけど、その計算や調整の速度が尋常じゃない。
避けようと思った直後にすでに最適な回避行動に移ってる。
なんかもう、思考のほうが後から追従してる感じで考えるのが追っついて行ってない。
「な、なんだこれ! 俺、覚醒した?」
やっぱり、考えるよりも早く、にゃんぱらりーんと、突っ込んでくるグラドドドスの足元の影に向かってダイブ!
するっと潜って、そのまま背後まで抜けて、影から飛び出して四足ダッシュ!
綺麗にすれ違い回避……おおぅ! エクセレーンツ!
「すれ違うのもまた人生よ! あばよーっ! ドンガメッ!」
いやぁ、マジ……回避余裕でした。
いや、これちょっとやられる気がしないわー。
普通に、俺ってば回避の鬼じゃん……パリィパリナー、パリエスト!
ついでに、たまたま地面に転がってた俺の盾っぽいのをゲットする。
ちらっと見ると、アマリリスは御主人様の所に到着して、転移宝玉を起動中。
なんかキラキラしてて、超目立つんだが。
ドンガメには、気付かれてない。
とにかく、俺に注目を集めて、時間を稼がないと……なんだが。
この調子なら余裕だろ……つか、圧倒的ではないか、この俺様!
当たらなければ、どうということもないって、赤い三倍の人も言ってるからな。
このまま、ヒラーンヒラーンと避けまくって、スタミナ削りきってやるぜ!
「ヘイヘイヘーイ! かかってこいよ! このドンガメ! 後ろだぜ! 後ろっ!」
拾った盾を装備!
盾自体は……なんと木製。
バックラーと呼ばれる腕に直接くくりつけるタイプの盾っぽいんだけど。
木の板の縁に薄い鉄板を貼り付けて補強したなんとも貧乏くさい代物。
……いかにも頼りない。
こんなもんで前衛とか、確かに盾お供って酔狂だわ。
まぁ、せっかくだから転がってた石ころを金属部分にガツガツ当てて、やかましく鳴らす。
さすがに気付いたようで、ビタッと立ち止まって、ケツを向けたまま、またしても首だけグリンと後ろ向いてブレス!
けど、さっき自分の甲羅を炙って懲りたらしく角度が甘い。
ちょっと伏せるだけでブレスははるか頭上を掠めていく。
と言うか、ブレスの攻撃範囲がほぼ360度かよ……。
ゲームだと正面90度くらいの範囲でしかブレス吐かないんだが、そこら辺ちょっと仕様が違うっぽい。
「うーむ、首を伸ばして可動域を広くしてるんだな。けど、それだけに首の装甲は柔いと」
ゲームのグラドドドスは、もうちょっと首が短いんだけど。
コイツの首はどうも伸縮性があるみたいで、ニョロンと長くなるらしい。
もっとも、首を伸ばすと鱗同士の隙間が出来て、薄皮しか無い部分が増えるので、痛し痒しと言ったところ。
実際、あんなショボい短剣が刺さる程度にはヤワだったしな……当然ながら、如何にもヤワそうなとこを狙いましたよ? わざわざ硬いところを狙うほど、俺アホじゃねーし。
殺るんだったら、俺が正面から挑んでパリィしまくってる隙に、大剣持って飛び乗って首チョンパか、毒でもしこたま盛って毒殺ってやるのがエレガントだな。
うむ、再戦の際は、御主人様にもアドバイスするとしよう……覚えてやがれよ。
現在の位置関係。
向かって左側にアマリリス達……。
正面にドンガメ。
左手後ろが通路。
右手奥にも通路があるけど、あっちは未探索。
となると、ひとまず右方向へ誘導すべきだな。
大広間は如何にもボスルームって感じでくっそ広い。
野球のグラウンドくらいの広さはある。
遮蔽物も岩やら尖った鍾乳石とかがあって、それなりに隠れる場所はある。
光源は壁や鍾乳石がぼんやり光ってて、薄暗いけどナックルは素で暗視能力持ちだから、問題にならない。
ドンガメとの距離は10mくらい……至近距離ながら、後ろを取ってるから、そこまで不利じゃない。
伏せたまま、右方向へずりずりと移動すると、案の定首が回らなくなって、右方向への動きには対応できず、一旦正面を向いて右へ向いてから再度ブレス!
けど、勢いが弱いし、角度的にもまだ当たりようがない。
うん、尻尾も短いしこのグラドドドスは後ろが死角と見て良さそうだ。
……おまけに、ブレスもあっという間にプスンって感じで止まる。
うん、こいつのブレスって厄介だけど。
連発は出来ないのだよ。
タイミングは一分吐いたら30秒チャージが必要。
これももう熟知してる……タイミングも体が覚えてるぜ!
正面から突っ込む時は、この30秒で如何に肉薄できるかが勝負になる。
もしくは、遮蔽物なり地形を使って隠れるか……そこらへんはテクニック!
もっとも、360度の攻撃範囲と言っても、真後ろにいる限り、地面スレスレにいる相手には、あんまり有効じゃない。
知ってたサンガツ。
それに甲羅が邪魔で急な方向転換も出来ない。
ドスドスと足踏みしつつモタモタと向きを変えようとしてる。
やっぱ、ドンガメじゃねーか!




