第二話「クロイノ大地に立つ!」①
いずれにせよ……アマリリスはあまり言いたくないみたいだけど。
この場は、誰かが囮になるってのが最善なんだが、囮役は軽く死ねるから言い出せない……と言う訳だ。
アマリリス単独特攻での転移宝玉の起動が一番ではあるんだが、そうなるとその間グラドドドスの猛攻にさらされ続ける上に、無事に転送できても、一人取り残されるアマリリスは余裕で死ねる。
「……つまり、この場は誰かが囮になって、グラドドドスを引き付ける必要があると言うことだな」
「ううっ……そ、そう言うことなの。私達は弱いから、あんなデッカイのと直接相対したら、絶対死んじゃう! あの……だ、だから、クロイノにはこの二人をこの場から逃がすのをお願いしていい? 御主人様を救出するのは私に任せて!」
……なんと言うか、イイ子じゃないか。
一生懸命考えて、仲間と御主人様が生き残る最善のプランを考えた訳だ。
まぁ、確かにそれが一番なんだが、それじゃアマリリスが死んじまうよなー。
こんなイイ子を犠牲に……なんて出来るわけがないぜ!
クロイノ自身が惚れてるとか、幼馴染だからとか、そんなんじゃなくて……人としてってヤツだ。
……ならば、俺がやることなんて、ただ一つじゃないか。
「解った。そう言う事なら、囮役は俺がやる。ここは任せろ!」
そこまで言って、無性に「別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」と続けたくなった!
だが、待て! それは有名な死亡フラグだ。
「ええっ! そ、そんな……死んじゃうって! 私達には御主人様のような加護がないの。なにより、死んだら、おしまいなのよ?」
この様子だと、御主人様は簡単には死なないとかそんな調子っぽい。
……どうも、人間が相当チートっぽいな……この世界……。
つか、ハンターナイツのハンターって、手足もげても再生するとか割とチートだったからな。
頭もげても生きてそう……。
だが、俺にもチートはあるからな!
「大丈夫、大丈夫……俺は影さえあれば、潜れるからな。さっきも見ただろ? ただ、こいつはちょっと内緒にしといてくれると助かる。それと逃げるって前提なら、退路もちゃんと確保しないとだな……おい、トラ吉! ダンジョンの地図あるだろ? 見せろ! それと手持ちアイテム全部並べろ! サビーネも! こうなったら、使えるものは全部使って、全員で力を合わせて、誰ひとり欠けること無く生還する……これが最善ってもんだろ?」
ここは言い切っちゃうもんね!
せっかく、転生したんだからな……どうせなら、カッコよく! ド派手に生きたいぜ!
「ううっ! クロイノ、妙にカッコいいにゃ!」
「にゃおーんっ!」
「にゃっぐーっ!」
三匹の俺を見る目がアツい。
まぁ、いきなりピンチなんだが、大丈夫!
俺、人間だった頃も結構出来る奴だったし!
金曜定時直帰が許されてたのも、なにげにトップセールスマンだったからってのもある。
ちなみに、売ってたのはスーパーなんかへの食料品の卸しだったんだがな。
売れ筋商品の目利きに自信ニキって奴だ。
まずアイテム……ザビーネは、薬草やら鉱石やら、それに短剣。
おい……ゴミばっかじゃねーか。
この採取タイプって、そこらに落ちてるものを片っ端から拾ってくるからな。
けど、毛の生えた変なイモ虫とかも混ざってる……これ、多分毒虫だな……。
確かに、毒付与属性武器作るのにいるんだよなぁ……。
とりあえず、短剣もらっとく。
武器ゲット!
猫の手だから、グリップが怪しかったけど。
ザビーネが草のつるとか使って、即席のグリップを作ってくれた。
いい感じだぜ!
おまけに、毒虫と麻痺草から即席の毒を作ってくれた。
いいぞ!いいぞ! 弱者の武器ってのは、こう言うのを言うんだ。
このコ、ナックルなのに超器用。
まさに、頼れる仲間って奴だ。
思わず、頭ナデナデ。
ティゲルは……野営道具とか、この際役に立たないものばかり持ってたので、全部捨てさせた。
だって、こいつ鈍臭そうなんだもん。
なお、荷物持ち要員だけに図体はデカイ。
軽く150cmくらいあるみたいだから、人間の中学生くらいはある。
パンと干し肉を投げ捨てようとしたら、とっても悲しそうにしてたから、食っていいぞって言ったら、めっちゃ嬉しそうに腹のなかにしまってた。
一応、兜代わりになりそうだったから、鍋でももらって被っとく。
石の破片くらいならこれでも防げるだろう。
「いいか? 退路はあそこに見えてる小さいひび割れがよさそうだ……ティゲルのマップが合ってるなら、そこから大幅ショートカットの上で地上へ抜けられる。今いる通路だとグラドドドスも通れるから、追われたら最期だからな。だから、逃げる時はお前らも一度大広間に出て、アマリリスを連れてあの隙間を通って逃げるんだ……言っとくけど、俺を待つ必要なんかないからな!」
大きさは幅50cm程度のめっちゃ小さい、むしろ裂け目って感じなんだが、薄っすらと出てる霧がそこでたなびいてるのが解る。
裂け目から風が吹いてきてるってのは、確実……。
つまり、その裂け目の先は行き止まりじゃなくて、地上に通じてるって訳だ。
さすが、俺! 冴えてる!
ナックルは狭い隙間でも顔が通れば抜けれるくらいには、柔軟な身体だから多分なんとかなる。
ティゲルの意外な特技として、岩を砂に出来る魔術を使えるらしいから、イザとなったらそれで穴を広げていけと言っておいた。
もっとも、触ったところを……と言う微妙な代物で、そもそも、そんな岩の隙間からの脱出とか発想の斜め上だったらしい……。
ん……お前ら、頭使おうぜ?
「……クロイノは、いつ逃げるの? そこ大事じゃないかな……待つ必要ないって……まさか死ぬ気?」
確かに、このプランだと俺は、最後まで囮役を勤めきる必要がある。
半端なとこで逃げると、全員まとめてやられるから、俺が逃げるのは一番最後……確かに大事な事ではあるな。
「俺のことは気にするな。なぁに、影に潜っちまえばなんとでもなるからな」
三人とも顔を見合わせてるんだけど。
まぁ、しょうがない。
俺チートっぽいからな……いきなり、ゲームオーバーになるつもりは、これっぽっちもないっ!
ここは全員生還でかるーく終わらせないと、締まらないぜ!
「んじゃま……御主人様救出して、皆揃って大脱出作戦! 行くぜーっ!」
まずは、通路から顔だけだして、様子見。
グラドドドスは、鬼ストンピングを御主人様にブチかまし中。
結界が守ってくれてるから、今の所大丈夫そうではある。
意識があるかどうかは解らないけど、意識があれば、さぞ不安な状況だろう。
ただ、あまり時間はない……あんなのいつまでも持つとは思えない。
何より、アマリリスがそわそわしてる様子から、それは明らかだ。
こっから先は、無言……後ろに向かって手をパーにして待てのサイン。
段取りとしては、俺がある程度ヘイトを集めたら、ティゲルが岩の隙間に入って、先行の上で退路確保。
同時にアマリリスが御主人様の所に行って、転移宝玉を起動。
転移宝玉の起動には時間がかかる上に結構な魔力を使うので、アマリリスも前後不覚になる可能性が高く、もし、そうなったらサビーネが抱えていく。
俺は、とにかく逃げて逃げて逃げまくって、適当にちょっかいを出して注意を引く。
まぁ、グラドドドスの攻撃パターンは良く覚えてるからなんとかなるだろう。
攻撃はブレスと突進、それと踏みつけのみっつだ。
噛みつきアタックもあるけど、モーションデカすぎて、そうそう当たらないから、これはほぼ無視していい。
とにかく、正面からのブレスに注意して、十分に距離さえ取ってればそこまで脅威じゃない。
機動力では、こちらが圧倒的に上だろうから、時間稼ぎだけならなんとかなるだろう。
ゲームとの違いとか、色々不確定要素もあるけど、これ以上は考えても無駄。
どのみち選択の余地なんて無い……ここは、やるしか無いだろ。
頷いて、四足で腹を地面に付けて座り込む。
それが作戦開始の合図……直後、脚をためてドンッと走り込む。
うーむ、四足ってコレ……めっちゃ早いな。
ものの数秒でトップスピード……推定80kmくらい?
車並みのスピードにあっという間に達してしまった。
重心も低いから、空気抵抗もないし、曲線を描くように動いてもバランスが全然崩れない。
人間の二足歩行ってのは、重心も高いし、まったくもって戦闘向きじゃないとよく解るわ!
爪も収納できるし、肉球あるから足音も全然しない。
グラドドドスの後ろに回り込んで、甲羅を伝って、一気に首の後ろに回り込む。
うむ、手の鉤爪もがっつり刺さってて、簡単には振り落とされそうもない。
これ……多分、垂直の壁よじ登ったり、天井にへばりついたりとかも出来そうだ。
つか、通路から飛び出してから、10秒もしないで気付かれもせずに、取り付けちまったよ!
異世界で「思い出して」からの初のバトルなんだが、むしろ、ドキワクだぜ!
第一話「クロイノ大地に立つ!」
なんてな! 次回、この俺がグラドドドスをぶっつぶーす! 乞うご期待な!