第一話「転生したら猫でついでにピンチです」④
ただ、俺もそうなると、悪いポジションじゃなさそうだぜ。
他の連中は主に荷物持ちとか後方支援や露払いがいいとこ。
御主人様と肩を並べて、盾持ちで最前線とか……そんなん軽く勇者じゃん。
このポジション……狩猟従者とも呼ばれていて、とっても名誉なポジションなんだけど。
そりゃもう、バッタバタ死人が出るのだよ。
今までも何人も腕自慢や勇敢な従騎士が狩猟従者に名乗りをあげたけど。
人間で一年以上持ったヤツは一人も居なかった。
当然ながら御主人様も部下を無駄死になんてさせる気がないから、可能な限り守ってくれるんだけど。
心がね……持たないのよ。
プチッと軽く殺されかけたり、ズタボロになって療養院送り。
手足を失うとか日常茶飯事……毎度毎度、命懸けのサバイバル。
人外たる狩猟騎士と巨大モンスターとの戦いの真っ只中にちょっと強い程度の奴が紛れ込む。
まぁ、普通に無理。
戦車の上に乗って一緒に吶喊するデサント歩兵の方がまだ生き残れるって気がする位にはニアデスハピネスポジ。
ナックルは、基本的に精神力もタフだし、やばくなったら、すぐ逃げるから、そこまで戦場下でのストレスはたまらないのだけど。
変に騎士教育受けてたり、プライド高いようなヤツは駄目。
あっさり心が折れるか、くたばるのが関の山。
御主人様もこれはと言うヤツを見つけては、この直接アシストポジションの狩猟従者に登用したのだけど。
だーれも続かなかった。
今では、半ば懲罰ポジと認識されているような有様。
実際、デサント兵の戦場平均寿命は一週間……なんて話もあるくらいだしな。
戦場の華形を護衛なんて、長生きできる訳がない。
結局、御主人様がどこからともなく拾ってきて子飼扱いにしてた俺が微妙な働きながらも、結構長い間この狩猟従者として仕えていた……どうもそんな感じらしい。
まったく、名もない雑魚かと思ったら、大したポジションじゃないか。
ちなみに、アマリリスも俺と同様の狩猟従者。
こっちは、なんと回復持ちらしい。
今も傷の治療なんてしてくれてる。
これもハンターナイツ・アドベンチャラーではなかった要素だな。
なにせハンナイには、回復魔法なんか無かったからな。
唯一の回復手段は、大中小の回復ポーションあるのみ。
ナックル達は……地面や影に隠れてるだけで勝手に回復とか、微妙にチート臭かった。
あいつら、アレでパンチ力あれば普通に強いと思う。
「回復魔法か……なかなか便利な特技を持っているんだな」
って言うか、ナチュラルに魔法スゴッ!
あちこち擦りむいてたとこがツルツルに治ってるし、ご丁寧に毛までモフモフ生えてきてるし!
もっとも、このナックルの身体。
毛皮がそれなりに頑丈らしく、思ったより痛くなかったんだよなぁ……。
身体も柔らかいから、狭い隙間とかもヌルっと抜けれそうだし。
パワーが無いことを除けば、そこまで悪くない気がする。
ゲームでも、こいつらってむしろ、人間より数が多くって、劣悪な環境でもケロッとしてるくらいにはタフな種族で、人間も仲良くせざるを得ないって感じになってたんだよな。
基本的に、食い物さえ貰えれば、労働も嬉々としてやるし、身体も小さいから食い扶持もそこまで必要とせず、割と何でも食うから、燃費がとにかくいい……。
おまけに、一年足らずで一人前に成長して、一回に最低4匹、多いと10匹とかめっちゃ多産。
生命力も強くて、毒や病気もほとんど受け付けず、人間が音を上げるような暑さ寒さでも割と平然としてる。
帝国も領地によっては、ナックルだらけになってるようなところもあって、政治権力に全く興味を持たない上に団結力がこれっぽっちもないから、島丸ごととか村を乗っ取られたりとかそう言うことは起きてないものの。
人間のアドバンテージなんて、知恵と勇気、技術と団結力、個々の戦闘力くらい。
割ととんでもねー生物って気がしないでもない。
実際、御主人様がこんなナックル二匹を狩猟従者なんてポジションにしてるのも、普通の人間だとホント、コロコロ死ぬか、心が折れて使い物にならなくなるから……だったりもする。
「あはは、何を今更。これって私のたった一つの取り柄だからね……。けど、どうしよう。御主人様……グラハム様、生きてるよね?」
グラハム・アルバ・レトゥリアン伯爵。
御主人様のフルネームだ。
この浮遊島レトゥリアン伯領の領主様でもある。
もっとも、通称のグラハムアイランドのほうが有名なんだがな。
100年以上続く歴史ある城塞都市インラントを中心に豊かな食糧生産力を誇り、複数の金銀、鉄鉱山やら、魔力を注ぐと宙に浮く浮揚石鉱山などと言った天然資源にも恵まれて、安定した現金収入があり、大規模空挺港を整備したことで流通経路も万全。
治安もよく、素晴らしく安定した治世を誇る近隣でもトップクラスに繁栄してると称賛されている領地なのだ。
これも全て、我らが主君グラハム伯の手腕によるものなのだ。
「治療ありがとう、感謝する。そうだな……御主人様は……生きてはいるが、腰がグキってアウト。あれではもう戦いは無理だろうな。つか、ぎっくり腰って魔法で治せる? それにあんな所にいて、トドメ刺されないかな?」
「ギックリ腰……それって、腰の骨がズレちゃうヤツだよね。だとすれば、私が使える『小回復』では無理かなぁ……。最低でも『中回復』とかそれくらいでないと……あ、今は、緊急保護結界が起動してるんで、しばらくは大丈夫のはずだよ」
ちらっと見ると、めっちゃブレスとか食らってるけど、バリアーみたいなので保護されてる様子。
この御主人様、相応の立場だけに、めっちゃ保険かけてたのね……超安全じゃない。
けど、こんなの長くは持たんよな。
「なるほど、お前が使えるのは、小回復ポーション相当ってところか。どのみち、御主人様がやられちまったからには、ここは撤退一択……。お前達、御主人様を安全な所までシュパって送り届ける方法とかねぇのか?」
御主人様は、壁際ギリギリで壁に叩きつけられて、半分瓦礫に埋まってる状態。
あれを俺達ナックルだけで、担いで運ぶのは結構酷なんだが……。
ゲームでは、やられると暗転して、ハンター回収業者が引っ張るボロいリアカーに乗せられて拠点まで運ばれて、ゴミのようにポイッ……だったかな。
負けてもキャラロストとかデスペナはない安心安全仕様なんだけど。
三回負けたり、タイムアップになると敗北扱いになって、最初からトライってなる。
もっとも……この世界ってその辺どうなんだ?
少なくとも背景はポリゴンじゃねぇし、どう見てもリアルだ。
少なくとも、気軽に死んで、生き返りとかそんな感じじゃなさそうだ。
一応、戦闘不能になってもしばらくは安全って感じじゃあるけど、回収用リアカーとか、回収業者みたいなのがいるように見えないよな……。
クロイノの記憶では……うーむ、この御主人様負け知らずだったから、こう言う時どうしてたかって記憶がない……ぞ?
うぉ、いきなりゲーム知識が使えないとか、困った展開だな……。
「近くまで行って転移宝玉を起動できれば、御主人様は街の神殿まで転送されるから、ひとまず安全。けど、私達にはそんなのないから、自力でこの場を脱出する必要があるの……でも、転移宝玉を起動できるのは、狩猟従者でも魔力持ちの私だけ……それは当然、私の役目だからいいんだけどさ……」
それだけ言って、アマリリスも顔を伏せる。
なるほど。
他のお供が逃げ出した中、アマリリスが残ってたのはそう言うわけか。
と言うか、アマリリスの役目がそう言うことなんだろう。
御主人様が倒れた時、無事に帰還させるための……保険。
悪く言えば、捨て駒役。
なお、残存してる味方は、彼女と他に二匹のナックルのみ。
本来残って当然の家臣……従騎士団の連中や冒険者たちは一人も居残っちゃいない。
錆色のメスナックルの「サビーネ」とトラ模様のデブナックルの「ティゲル」……こっちはオス。
役割的には、素材採取と荷物持ちらしい……この辺はクロイノの記憶で知ってた。
サビーネは、アマリリスの妹分。
ティゲルは鈍くさくて、逃げるタイミングを逸してサビーネに捕まった模様。
俺は……皆の頼れる兄貴分って感じだったらしい。
アマリリス同様、伯爵直接雇用……要するに家臣って事で結構ナックル仲間からは、慕われてたらしい……やるじゃん、俺!
と言うか、俺めっちゃたかられてた感じ……? なんか、あっちこっちで腹すかせた同胞に飯奢ったり、給料日に、飲み屋で会計押し付けられたり……。
それは……なんと言うか。
……辛い立場だったんだな。
これがこの場のメンツの人間関係ならぬ、ナックル関係。
なお、この二匹ナックル語しか話せないらしく、なんかニャーニャー訴えてるんだが。
俺、どうもナックル語、理解出来なくなってるっぽくって、こいつらが何言ってるのかさっぱり解らん。
サビーネは、自分が囮になるからーとか言ってるような気がする。
ティゲルは……コイツ現実逃避してるなぁ……ボケーとして指くわえてる。
ふにょーとか言ってるけど、多分腹減ったって言ってる。
コイツ、要らなくね? 何故残ったし。




