表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/276

第一話「転生したら猫でついでにピンチです」③

「せ、専売特許? 影ワープって……私達、そんな事出来ないし……。と言うか、クロイノがなんでコモンワーズで話をしてるのー?」


 こいつ、やっぱメスなのか?

 まぁ、確かにモコフワでどことなく気品があるし、線も細いし、声も女の子の声だ。


 名前エリザベスとか言わないよね?

 なんか、スロースみたいなの履いて、ローブみたいなのを着てるし、頭に髪飾りみたいなのを付けてたり、割と特別扱いしてもらってたらしい。


 なんと言うか、オシャレ至上主義者? ナックルでここまで色々装備してるのって珍しいらしい。

 あ、うん……俺が覚醒する前のクロイノは、どうもこいつに惚れてたらしい。


 ああ、今気づいたんだけど、俺はこいつに乗り移ったとかじゃなくて、あくまで前世の記憶を思い出した……そんな状態なんだ。

 

 俺とこの黒ナックル……クロイノの人格はちゃんと残ってて、モザイク状に入り混じってるような状態なんだ。


 俺は俺でありながら、クロイノでもあるのだ。

 なんか、記憶をたどるとクロイノの記憶の至る所にコイツが出て来てる……むしろ、幼馴染系?

 

 名前は……「アマリリス」だ。

 ……花の名前だったかな? 少なくともみんなのアイドル、エリザベスたんとは別人ならぬ別ナックルだな。

 

 まぁ、アマリリスがどんな花かは知らんがなっ!

 残念なことに俺は仕事と自分の興味あるもの以外に関しては一切興味なかったのだ。


 もっとも、この世界の常識とかはクロイノの記憶でちゃんと理解できてるんだよな……。

 つか、寝床がダンボールみたいな箱にぎっちりみっしり入って寝るとか、なんなんだ……それ?

 

 そのまんま、猫じゃん! 地面に丸書いたら、そこに収まるとか普通にやってそうだ。

 

 まぁ、とにかく……。

 俺がしれっとやった影潜りも本来は出来ない、むしろ非常識レベルな代物だったらしい。


 おーけーっ! 俺、ちょっと特別ってことだな。

 そりゃ、異世界転生だもんな! チートのひとつやふたつあってくれないと困る。

 

 けど……もしかして、ゲームの仕様まんまじゃないのか?


 似てるけど、非なる異世界?

 ……そんなところ? うーむ、ついついテンション上がって無茶してみたけど。


 潜れなくて、そのままプチっとイカれてペランペランになってた可能性もあったんだよな。

 まぁ、結果オーライだ! ドーンと行こうぜ、ドーントレスッ!


「細かい話は後にしようぜ……。現状は、あまりよろしくない。御主人様がやられちまった……。前々から腰がどうのと言ってたけど、それがここに来てグキッたらしくてな。生きてはいるみたいだが、かなりいいのもらっちまったし、あれは当分動けないだろうな」


 御主人様、いい年だからなぁ。

 この世界では長寿に入る60代に突入……。


 日本なら定年退職で年金暮らし。

 

 そろそろ、引退したいって口癖みたいに言ってたんだけど、後継者選びに難航してて、今回のグラドドドス討伐戦も無理を押しての参戦ではあったのだよ。


 俺も前世で腰をやっちまった事あるけど。

 あれって、一発で身体に力が入らなくなるんだよな。


 クシャって感じでその場で死体みたいになるか、微動だに出来なくなって、逝ったときの姿勢で悶絶するだけの状態になる。

 

 あれ……根性とか気合でどうこう出来るもんじゃないからなっ!


「なんてことだにゃ……だから、あんまり無理するなって言ったのに……」


 アマリリスが青い顔をしつつ、がっくりと突っ伏す。

 

 まぁ、勝負は時の運だ……そんないつも、思い通りになんてならない。

 

 負ける事もあるし、ピンチだってある。

 肝心なのは、ヤバいときや負けこんでる時に、折れてしまわない事だ。


 諦めたら試合終了っ!

 真なる敗北とはそれを受け入れた時にこそ訪れる。


 前者は、バスケットのコーチ、後者はそのスジでは有名な爆撃魔王。

 全然違う人達が、なんだか似たような事を言ってるけど、真理とはそんなもんなんだ。


 絶望してる暇があるなら、善後策を考えるのだ! 諦めたら、終わるっ!

 

 残りライフゲージが1ドットの時こそ、踏ん張りどころなのだーっ!


「まぁ、実際問題……御主人様以外では、あんなバケモノ手に負えないからな。他の従騎士共なんて、我先に逃げちまいやがった。お前らはどうしていいのか解らず、とりあえず隠れてた……そんなところか?」


「そ、そうよ……なにより、私達が御主人様を置いて逃げるわけにはいかないでしょ? クロイノも倒れた御主人様を庇おうとして、諸共に吹っ飛ばされちゃって……イイのもらってたから、てっきり死んだんだとばかり……無事で良かったにゃっ!」


 アマリリスがニコリと微笑みながら、ぎゅっと手を握ってくれる。

 

 すまん、二足歩行のメス猫に別に興味はない。


 それに、その申し訳程度の猫っぽい語尾はなにアピール?

 可愛いのと異性として興味持つとかって別物だと思う。


 こいつが可愛いのは認めるが、ぬいぐるみ的な可愛さだな……これは。

 うん、ぎゅっとしたくなる可愛さだな。

 

 実際、毛並みバツグン……さわり心地は高級タオルのごとしだ。

 

 なお、ゲームやってると、この巨大白猫もだんだん可愛く見えてくるとの評判だったが、今なら解る気もする。

 

 だが、猫だ。


 ……けど、俺の中にクロイノ要素が残ってるせいか、そんな事考えてたら、何故かドキドキしてきた。


 だが待て、俺。 

 これはどうみても猫だ。

 

 猫のパンチラにグッと来るようじゃ人間として色々駄目だ。

 

 そもそも、あいつらパンツなんてあってもなくても、一緒じゃねーか。

 

 って、ちげーし! こんなどうでもいいこと考えてんじゃねーよ! 俺!


「ふっ、俺はそう簡単にゃくたばらねぇんだよ……! 心配してくれて、ありがとな」


 危うくループ思考に陥りかけたけど、そこはそれ。

 今は、ちょっちハードボイルドなニヒルな感じでキメるぜ?


 俺、こう見えて30代のおっさんだったし。

 

 結論から言うと、アマリリスは別に嫌いじゃない。

 めっちゃモフりたい!


 なので、ちゃんとお礼を言って、頭をポンポンしてやる。

 

 ……だーからー! そこでポッとした感じで顔を横に向けるとかすんなよ!

 なでポとか、お前どれだけヒロイン主張してくれてるの?

 

 それにしてもなるほど……。

 

 クロイノはいわゆる盾お供だったのか。


 お供ナックルも色々役割ってのを持っててだな。


 トラッパー……罠仕掛ける専門家、でも雑魚。

 シューター……状態異常仕掛ける飛び道具で支援してくれたりする、やっぱり雑魚。

 デコイ……挑発仕掛けて囮になってくれる役……よくぶっ飛ばされて、空飛んでる……雑魚。

 ボマー……爆弾持って特攻する。ムチャしがって……つか、ご主人様巻き込むな。


 ブロッカー……盾お供は、簡単に言うと、中華鍋みたいな盾持って、狩猟騎士を守るべく身体張るヤツ。

 

 まぁ、大抵突進食らったりとかで一瞬でふっ飛ばされるのがオチで、やっぱり雑魚なんだが。

 要するにデコイの一種でちょっとしぶとい時間稼ぎ役だな。


 けど、雑魚とは言え、その役目は結構重要なのだよ。


 タイマンで戦ってると、ガチンコの不毛な消耗戦になりがちなのだけど。


 弱くても、敵の気を引く存在が居るのと居ないのとでは全然違う。

 盾お供のおかげで相手に隙が出来たり、回り込んで弱点を攻めることが出来たりと……意外に馬鹿にできないのだよ。


 飛び道具主体とかだと、この盾お供やデコイへの指示がマジで生命線。

 飛び道具系にとっては、目の前まで肉薄されるってのは割とその時点で詰んでる。


 飛び道具ってのは、一方的に遠くからチクチクネチネチと削るようにダメージを与えるってのが基本戦術なんだが。


 一発撃たれれば、どんな馬鹿でもどこから撃ってきたかなんて解るからな。

 飛び道具で一方的に打ち続けていられるなんて展開にはまずならない。

 

 一発撃った移動しようと逃げたところでドーンとか、よくある話。


 けど、一瞬だけでも足止めしてくれたり、自分の反対側に誘導してくれたりしたら、それだけで全然違う。

 

 レアリティ高い魔法盾とか持たせると、2mくらいの防御シールドみたいなのを展開したりもするから、ブレス系の攻撃を防いでくれたり、結構役に立つんだ。


 非力な存在ではあるのだけど、盾ナックルに限らず、ナックル達の有用性はハンナイプレイヤーの誰もが知るところだろうよ。


 もっとも、単純な大質量物理アタックである突進を止めるとかは、普通に無理。


 ハンターの大盾持ちでも、ドーンは完全には防げないからなぁ。

 まぁ、これはナックルが弱いと言うより、モンスター共がヤバ過ぎるんだがな……。


 デカい奴らは物理主体だけど、その物理がつえーんだよ! ホントなんとかしろって感じ。


 けどまぁ、御主人様……10年前だったら、こんなグラドドドス相手だろうが、多分余裕で勝てたよ。

 開幕突進を受け止める気満々で構えて……実際、ホントに受け止めやがったからな。


 そんなグラドドドスの突進キックなんて、ゲームでも屈指の重量級アタックだぜ?

 ハンターランク三桁余裕、筋力ブーストだって2ケタ行かないとそんな無茶は出来ない。

 それをやってのけたんだから、ご主人様マジでパネェ!


 でも……腰が持たなかった。

 このところ、実戦から離れてたのも痛かった。


 だって、本来だったら、とっくに引退すべきお年なんですもの。


 まともな後継者が見つかってたら、こんな無理はしなくても良かったのに……。

 

 そもそも、ハンナイって、基本回避ってのがセオリーなんだよなぁ。

 

 それに重装大盾の防御を固めて待ちカウンターって基本戦術は、軽量級や団体系に滅法強いんだけど、この手のヘビー級には弱いんだ。

 

 要するに相性が悪い。


 先に上げた条件にしたって、そんなハンターランク三桁とか行くのってゲーム終盤。

 逆を言うとそこまでやらないと防御特化じゃ、まともに勝てないんだよ。

 

 それに防御特化VS防御特化なんて泥仕合になるのが関の山だろ?


 おまけに、こう言うヘビー系は、一発一発がすげー重い。


 本来、一発だってもらっちゃいけないんだ……。

 そのくっそ重てぇ一発をまともに食らったら、腰も逝くわな。


 人間、年食うと腰がね……弱るのよ。


 うん、解るよ……俺も三十路入ってから、割と万年腰痛持ちだったし。


 ホント、無茶しやがって。

 なんにせよ、なんとも残念な結果である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ