第四十七話「急襲」③
しっかし、フラグ立てまくって、味方を庇ってとか普通に死にそうだけど、骨折だけで済むとかある意味フラグブレイカーだよね……やるやる。
ナスルさんもオーガに蹴散らされて負傷者続出になった軍勢の兵士達の治療でちょっと頑張りすぎたみたいで、完全に魔力枯渇になってて、いいからもう休めって事で、お休み中だったんだけど、事態を察して駆けつけてくれたらしい……。
でも、却下、却下っ! 今も青い顔してて、とても戦えるようには見えない。
腰に手を当てて、手で大きくばってんマークで、駄目駄目アピールっ!
「……す、すみません。肝心な時にお役に立てず……無念の極みです」
さすがに、納得してくれたようだった。
……他の人からもいいから休んでくれって言われてたくらいだったのに……無理しちゃって……。
でも、こう言う勤勉な人に限って、無理して潰れちゃったりするものなのだ。
風邪ひいてたり、ボロボロの体調なのに無理を押して、会社や学校に来るのってカッコいい! みたいな風潮あったけど、実際はそんなのいても迷惑なだけなんだから、とりあえず休めと言いたい。
なんにせよ、こんな状態で、出撃ってのはさすがにキツイでしょ。
アニメとかだったら、こう言うのって普通に、主人公かばったりして死んじゃうパターンだよ!
だから、全力却下ーっ!
「ナスルさん以外にもヒーラーなんていくらでもいるんだから、無理しなくていいって……。大丈夫……アスリールやサーシャさんもいるんだから、なんとかなるわよ」
なお……サーシャさんもオーガ戦に参戦してるから、連戦なんだけど……この人は例外。
この人、昼間はダルダルな感じでとっても微妙なんだけど、夜になるとホント生き生きとしてる。
なお、今はすっかり深夜……夜行種族たちにとってはもはや天下と言える時間帯。
先のジャイアントオーガ戦のMVPはサーシャさんで、やや遅れて参戦したらしいんだけど。
来るなり、初手から両目を射抜いて、目潰しをかまして、それが文字通り形勢逆転の一撃になった。
後は全員でタコ殴りして、トドメもサーシャさんが後ろからゴリッと短剣で両肩の関節を潰して、抵抗できなくした上で、じっくりと喉笛をナイフで切り裂いて、あっさり決めちゃったらしい。
身長3mとかある巨人でも両腕潰されて、喉笛切り裂かれたら普通に死んだらしい。
なんと言うか……エゲツない。
サーシャさんって、これまでも各層のボス攻略戦に出ずっぱり参戦してて、MVPを取りまくってる。
いやはや、この人マジで最強です。
なんだかしらないけど、敵も天井からぶら下がってるサーシャさんの存在に全然気付かなくって、どいつもこいつも突然上から降ってきたサーシャさんに急所やら喉笛切り裂かれたり、ボウガンで眉間ブチ抜かれたりで、あっさり死んでいったらしい。
どうも存在希釈みたいなスキルを使ってるみたいで、わたしも実際、その現場を見たんだけど……。
視界には入ってるんだけど、何故かそこにいるって認識できなくなるのよね……。
なんでそんなところにいるの? みたいな感じで、いつのまにか頭上や背後の死角を取ってて、気がついたらボスが死んでたとかそんな調子……。
古今東西、認識外の攻撃に対しては、どんなツワモノも脆いもの。
モンスターだって、例外じゃないらしい。
まさにアッサーシーンッ! はわわわわ……そんなのわたしでもあっさり殺されるよ!
わたし、サーシャさんにだけは逆らわないと決めてます。
オールデイズでさん付けするし!
「うん、サーシャさん……実は頼りにしてました。これで四人ね! でも、そうなるとヒーラーわたし一人ってのはちょっと心許ないよね。誰か手が空いてそうな人っていない? 後二人……ヒーラーとそのガード要員ってとこかな」
この編成なら、実質アタッカー三枚、ヒーラー二枚、ディフェンダー二枚……ちなみに、わたし達神聖騎士はヒーラー兼ディフェンダーだから、一人二役出来るってのが強みでもある。
ルイジーが素早くリスト化して、何人か有力ヒーラーの名前を出してくる。
「……すまない。連日の戦いと高速治癒術の乱用でヒーラーの消耗が激しくなってて、一線級のヒーラーは皆、疲弊して後方で休ませてるんだ。ここは昨日来たばかりの聖国からの神官達を使うしかないと思うんだが、彼らはまだ経験不足だからねぇ……。正直、あまりオススメは出来ないな」
オススメリストの上位に出てきてるのは、確かにウチの神官たちの名前ばっかり。
でも、どいつもこいつも微妙……。
まぁ、わたしに死ねと言われたら、ホントに死ぬような信仰心と忠義にアツい人達ではあるんだけど。
ここは中ボス程度、サクッと撃破して、損耗ゼロってやりたいところ。
数合わせのモブキャラの参戦とかって、普通に死亡フラグだし、ここはどうしたもんかね。
「はいっ! アリシュリア様、マルチプルアーチャーでもあるこの私をお忘れですかっ! 行きます、行きます! 参りますっ!」
……ナスルさんに肩を貸してたアーニャちゃん。
まさかの名乗りあげ!
「ア、アーニャちゃん? えっと……君も連戦になるんだけど、だ、大丈夫なの?」
ナスルさんに同行してたからには、アーニャちゃんも思いっきり、オーガ戦に参戦してたんじゃ……。
その割には……結構、元気そう?
もうヨレヨレって感じのナスルさんとはなんとも対称的。
「問題ありませんっ! こう見えて、体力には自信がありますし、実を言うとさっきのオーガとの戦いもヒーラーとしてはあんまり仕事せずに援護射撃に徹してたんで、魔力もまだまだたっぷり有り余ってるんですよ。ここは私を庇って、犠牲になったダンテさんや、力尽きるまで兵隊さん達の治療に尽力したナスル師匠の分まで、この私ががんばるべきでしょう!」
「えっと……ダ、ダンテさん、別に死んでないからね? と言うか、仲間の仇ーとかちょっとアツくなってない? そう言うのって、フラグって言って、高確率で死んじゃうから、ここは大人しくしててよ」
……うん。
なんだか、こう言うのって不穏な気がする。
フラグとか迷信のような気もするけど……。
突然家族や恋人の話とかするってのに次いで、敵討ちってのも危険。
「いやです! 何より……お友達としてぜひ一緒に戦わせてくださいっ! 燃えるじゃないですか、友と共に友のために戦うとかっ!」
友達として……なんて言われたら、断れない……。
ど、どうしようっ!




