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第一話「転生したら猫でついでにピンチです」②

 ……いや、そんな事はどうでもいいんだ。

 だって、今更じゃん。


 転生したって事は多分、あの時、突然死か何かしたんだろうな。

 

 別にダンプカーに勝負挑んだ覚えはないけど……。

 残業月総計150時間の末に、休み潰して二徹、三徹当たり前……。


 平日も睡眠時間を削りまくって、ナポレオン真っ青な三時間睡眠当たり前っ! 


 結構デタラメな生活してたから、ぶっちゃけ過労死しても不思議じゃなかったな。


 うん、あの日も朝から寝不足で頭ガンガンでクッソ眠かったし、健康診断でも君ちょっとヤバイよーとか医者に言われて、次の休みは病院行こう……とか思ってたけど……。


 そっか、そう言うことか……あの時、俺の人生は終わっちまったんだなぁ。


 思い起こせば……色々あったなぁ。

 楽しい事も辛い事も……悲しい事も。


 だがしかし、我が人生……これっぽっちの悔い無しっ!

 親も10年くらい前、就職に失敗して、引きこもってたら無理やり家から追い出されてそれっきりだ。

 

 公園のベンチで膝抱えてるところを声かけてくれた先代社長さんに拾ってもらって、雇ってもらえなかったら、あそこで野垂れ死にだったからな。


 そっからは、社畜人生って感じだったが、命を救ってもらった恩を返したいって一心で頑張ってたようなものだ。


 けど、恩人たる先代社長さんも半年くらい前に大往生……享年93歳とか上等な人生だっただろうさ。

 まぁ、それからは今の社長に変わって、それがクソみてぇな奴でさ! 我社もブラック企業街道まっしぐらで、もうどうでもよくなってたからなぁ……。


 勘当された親とも音信不通で、友だちと言ってもオンラインのお友達程度。

 女の子にも全然モテ無くて、リア充爆発しろっていつも思ってた。


 うん、なんも無かったな……。

 だからこそ、最後の希望とばかりにゲームにのめり込んでたんだよな。

 

 ……言ってみれば、ボーナスステージが終わったようなもんだな。


 ちょっとやばかった会社の経営状態も俺が頑張ったおかげで、ひとまず大丈夫なくらいに持ち直したからな……先代への十分に義理は果たしただろう。 


 ずっと未払いだった残業代をまとめてもらえて、クソ親に擦り付けられた借金だって精算済みだ。


 別に嫁さんとか居た訳じゃないから、俺が死んでも別に誰も困らんさ。

 もっと健康に気遣ってれば、長生きできたかも知れんが、節制もせずに好き勝手やった結果なんだから、文句なんてこれっぽっちもねぇよ。

 

 何より、例え過労で突然死とかしちゃったのだとしても、死後の世界でこんなサプライズ!


 ゲームのエンドロールが終わったあとに、実は続きあって、次なるステージが始まったとか、そんな感じ? 

 

 きっとコレは俺のハンターナイツ愛に報いるべく、神様がくれたご褒美なのだぁっ!

 

 ……強いて言えば、自分が狩猟騎士じゃなくて、お供のナックルの方で、おまけに御主人様がこんなむさ苦しいジイさんだったとか……。

 

 そこら辺、ちと不満なんだがな……。 

 何より、こんな絶体絶命の危機みたいな状況で、転生してた事を思い出すとか、ちょっ! 待てぃっ!

 

 これって、走馬灯が行き過ぎたとかそんなんか? そうなんだろっ!

 なんと言うか、異世界転生にしては、雑スギィッ!


 もうちょっと……こう、チート選択のコーナーとか、神との出会いとか、使命を与える云々とか無いのー?


 ちょっと待った! ちょっと待ったーっ!

 

「ク、クロイノッ! 生きてるなら、早く起きるにゃーっ! あぶなーいっ!」


 こんな状況にも関わらず、しぶとく残ってて、岩陰に隠れてた白いナックルが顔を見せて俺に迫る危機を告げた。

 おおう、そういや……俺、大ピンチだったな!


 なんか、頭上に影が……と思って見上げると。

 目の前の巨大ガメ……グラドドドスがゆっくりと足を持ち上げる所だった。

 

「うげっ! そんな雑な攻撃で……」


 思わず右往左往。

 

 攻撃と言うよりただ歩いてるだけ……俺の存在なんか歯牙にもかけてない。


 けど、これから、何が起きるかなんて一目瞭然。

 プチっとイカれて、ペッラペラ! もう逃げ場なんてねぇ!

 

 やっべぇ、これ死んだ……と思うのだけど。


 思い……出したぜっ!

 

 ぴょいーんと、グラドドドスの足で出来た影に向かって飛び込むと案の定、トプンと影の中に潜れた。


『影潜り』


 黒ナックルだけが持ってる特殊能力だ。

 俺たち黒ナックルって、やばくなったら、こんな風に影に入り込むことで無敵になれるのだよ。


「むっふーん! 残念……ソイツは残像だ!」


 言ってみたかったこのセリフ。

 まぁ、残像と言うか、影になったってとこなんだがな。


 影に厚みなんて無い……いくらグリグリ踏みにじられようが、全然平気。


 同等の能力は、他のナックルも持ってて、他の奴らは地面にちょっとした穴を掘って、潜り込むと土と同化出来る。

 

 こう言うのがあるから、基本的にどんな無茶苦茶にふっ飛ばされようが、ナックルは死にゃしない。


 毒や石化みたいな状態異常にもやたら耐性あるから、その手の特殊攻撃食らっても物ともせずに、むしろハンターを回復とかしてくれたりと、小憎い支援をやってくれる。

 

 御主人様がボッコボッコにされて戦闘不能になってても、ナックルは大抵しぶとく生き残る。

 だからこそのお供! ナックルクソ有能っ!


 なんだが……現状は、すでにゲームセット。


 プレイヤー……ハンターナイツ乙っ!

 

 お供による決死の御主人様回収作戦フェイズ開幕っ!

 

 ……そのはずなんだけど。

 他の奴らは、御主人様を回収に向かう様子がない。


 まぁ、グラドドドスが暴れてるから近づけないんだろうな。

 だが……どのみち、俺一人で回収とか無理だぞ。


 御主人様って、俺の倍はデカいんだぞ? 体重も何倍あるんだかなぁ……。

 やたらとゴツいアーマー着込んでるから、総重量は軽く三桁超えだろう。

 

 幸い殊勝なことに、警告してくれた白ナックル以外にも何匹か味方は残ってるらしい。


 でもさっき、逃げろって言ってくれた白いの……コイツ、レアナックルだよなー。

 

 ナックルは、基本人語は話せないんだけど、白いのは、知性も高くて、何故か言葉を喋れる。

 おまけに採取から回復支援、戦闘と、割となんでもこなせるから、結構重宝するのだ。


 なお、ハンターナイツ本編では、ストーリーキャラの一人がこの白ナックルで、序盤のチュートリアルガイド役とか、本編ナビキャラとして、割としょっちゅう出てくるし、ポーション持たせとけば自動回復とかもしてくれるから、オンラインでも大抵お供パーティに白ナックルを入れるのが定番だったりする。


 ちなみに、近くにいると人気女子声優さんの可愛い声で「頑張れー」とか「負けるなー」なんて声援を送ってくれる……声だけ聞いてるとマジで可愛い。


 ……まぁ、猫なんだがな。


 なお、ハンターナイツには、旅を共にする人間の守られ系美少女ヒロインとか、共に戦ってくれる勇敢なお姫様とか、そんなのは出てこない。

 

 女子キャラと言っても、ワイルドかつたくましい女騎士とか、オバちゃんクエスト受付嬢とか、そんなんばっかり。

 なんつーか、洋ゲー? グラフィックもあんな感じで総じて「濃い」。

 

 主人公の性別も女子に出来たりしたけど、装備とか見た目もゴツくて、全く可愛くなかったぞ。


 フリフリスカートだの露出度高いハイレグアーマーとか……HAHA! そんなのねぇから。

 

 硬派を売りにしてる上に、最初はアメリカで開発されて日本向けにローカライズされた……なんてゲームだったから、終始そんな調子だった。


 メリケン共ってのは、どうも萌えへの理解ってのがズレてるんだよな……そこらへん、チャイナ人とかの方がまだ解ってる感じ……異論は認めない。

 

 兎にも角にも終始そんな調子なので、必然的にストーリーモードでは、いつでもどこでもお供してくれて、健気に支援や応援してくれて、声だけならくっそ可愛い白ナックルがヒロインポジだったのだよ。

 

 無駄に可愛らしい衣装とか着て、パンチラしたりーとか、一緒に温泉混浴イベントなんてのもあったけど、どう考えても方向性間違ってたヨ。

 

 ゲームでは「エリザベス」とか言う名前だったかな。


 もしかしたら、コイツ……と思ったけど、見た目がかなり違う。


 エリザベスは短毛系でシュッとしてたけど、コイツは長毛系でなんだかモコフワしてて、モップのような外見をしてる。

 

 なんにせよ、多分あれがお供のリーダー格なんだろう。

 きーめた! アイツのとこにワープ! ……は出来ないので、ネリネリと影のに潜ったまま、進んでいく……傍から見たら、どうなってんだろな? 


「にゃっはーっ! イリュージョーン!」


 あ、今気づいた。

 俺も普通に喋れてるよ! ちょっと万歳とかしながら、影からぴょいーんとロッグイーンッ!


「わああああああっ! クロイノ! なんでここにっ!」


「ニャゴーッ! ニャゴーッ!」


「フバァアアアッ!」


 ……どうやら、俺の名前は「クロイノ」っていうらしい。

 うん、そうだ……俺の名はクロイノだ。

 

 適当な名前付けやがって、ファッキュー。


 うん、ネコどもパニック中、どうどう。


「すまんな……驚かせて。ふふふ……絶体絶命の危機からサラッと生還! リターン・オブ・エレガーンツ! ザ・ネッコーッ!」


 我ながらハイテンション。

 そりゃ、こんなんテンション上がるっしょー!


「……げ、元気そうだね。てっきりプチっとイカれて、ペラペラになっちゃったのかと思ってたよ……」


 プチッとイカれてペラペラって……まぁ、あのままだったら、そうなってたな。


 ペランペランの毛皮状態……ギャグ漫画でもない限り、即死だな。


「なってたまるか……つか、無敵ダイブなんて、俺たちの標準能力じゃん……まぁ、影ワープは黒ナックルの専売特許だがな。こんな薄暗いダンジョンなんて、この俺サマの独壇場ってもんよっ!」


 黒ナックルは、夜間戦マップやダンジョンなんかでも大活躍だったからな。


 なんせ、夜の闇やダンジョンの闇なんかでも、影さえあればどこでも潜れるのだよ。

 その上、その影に潜った状態のまま、ズリズリとどこでも進めるんだわ。

 

 敏捷性や隠蔽能力も他のナックルよりもちょっと高めだから、敵からもなかなか気付かれない。


 未探索マップに強行偵察行かせて、ボスモンスターにマーカー入れる役目は黒ナックルってのが相場だった。

 

 言ってみりゃ、忍者だな! 忍者! 隠密同心でござる! なんてな!

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