第二十九話「フルブレイド・フルブラック」④
そうか……ミカはルール違反を犯してたってことか。
まぁ、確かにダンジョンマスターにしては色々とやりすぎって感じだったからなぁ……。
そのうえ、ダンジョンマスターが自分の意志で、侵入者を強制退去。
たしかに、これが許されたら、ダンジョン攻略なんて不可能だからな。
薄々感じてた事だけど、ダンジョンマスターは何でもありだけど、なんでもありじゃない。
厳格なルールがある……そう言うことだ。
このイファタ・モル……ルールについては、とにかく厳格って感じだから、そう言う事なら、仕方ない。
そもそも、相手が相手だ……抗議したり、逆らっても無駄。
それについては、言われるまでもなく解るからな。
「……そうかよ。だが、ミカは無事なんだろうな? 俺はアイツのマブダチのつもりなんだ。アイツになにかあったら、いくらテメェでもただじゃ済まさねぇぞ!」
出過ぎた発言かもしれねぇし、ただじゃ済まさないって具体的にどうするんだ? って聞かれたら、答えに困るんだがね。
でも、それくらい言わせてもらいたい。
アイツはいいヤツだったし、ダチってのは、打算じゃねぇだろ。
自分の立場を気にして、ダチを見捨てるような奴には、いくら人間やめたってなりたくねーんだよ。
「ふふっ、安心しなよ。懲罰ルームはただの隔離処置室ってところだからね。空間自体が隔離された中、たった一人ですべてから隔絶されるだけ……そこには誰も居ないし、何かをされる訳でもない。しばらく、一人になっておとなしくそこで反省してなさいって、それだけの罰なんだ」
……意外とヌルいんだな。
なんつーか、こう言うところが憎めないんだよなぁ。
いっそ、とことん腐ってたり冷酷非情な外道だったりしたら、反抗だって考えるんだがなぁ。
なんだかんだで、やることなすこと穴だらけで、妙にお人好しな所があるし、各地の伝承とかでもお祭りとか宴会やってると、ひょっこり紛れ込んでた……そんな話だってある。
迷宮の上位存在って話も、迷宮研究者とか一部の奴が言ってるだけで、一般的には知られてないから、一般人の感覚としても、割と身近なおもしろ神様みたいな扱いで、それなりに名前も知られてるし、旅芸人や吟遊詩人なんかの守護者なんて言われても居て、意外と好かれてもいるんだよな。
「……意外と甘いんだな。そんなんで反省するやつなんているのか?」
「いや、意外と応えるみたいだよ。まぁ、ごめんなさいって言えば、出してあげるけど、今回はコトが終わるまで反省しててって本人にも伝えてあるからね。でも、誤解されたくないから、これだけは言わせてもらうよ。いいかい? 我は自らを頼みとする者達に危害は加えないし、不利益も与えない……それも我が己に課したルールのひとつなのだ。だからこそ、我の課したルールについては厳格に守ってもらうよ。すまないけど、この場においては、君は自分の力だけで切り抜けて欲しい……。君にはもうチートを与えたんだ。その上、他者の助けを借りてとか……さすがにそれはズルいと思うな」
チャンスはやった、せいぜいそれを活かせってか。
全くもって、公正な話じゃあるわな。
ゲームマスターは公明正大でなければならない。
……解る。
ゲームマスターがサイコロの目に手心を加えるとか、あっちゃいかんからな。
「はいはい、解ったよ。確かにこれで助太刀もありとかなったら、アンタとしても面白くないだろうからな……勝利が確定している状況なんて、単なる出来レースみたいなもんで、面白くもなんともねぇからな」
「まぁ、そういうことさ、先が見えないからこそ、面白い……解ってるじゃないか。でもさぁ、我の予想だと君の勝率って1%以下なんだよ……。なんで、そんなマニアックなのを選んだのかねぇ……なんなら、選び直しってのも受け付けるよ。確かにスペック的には悪くないけど、さすがに、それであのチート炎竜に勝つとかちょっと厳しくないかい? 例えば……同格の天敵氷竜とかならもっと楽じゃないかな? うん、チェンジ推奨……どう?」
大きなお世話だっつの!
まぁ、確かにフルブラックとか、実際に自分が操作するとかなると、ちょっと無理臭くね? みたいな動きだったからなぁ……。
空も飛べないし、ブレスも吐かない。
地面や壁をガサガサ這い回って、ピョコタンピョコタン、壁から壁へ飛び上がって、天井とかでもお構いなしに走り回る……どっちかと言うとヤモリとかに近い。
見た目も割と平べったくて、スーパーデカくて、刺々しいトカゲって感じ。
手のひらもヤモリ同様のマジックテープみたいな感じでおそらく、天井とかに張り付いて走るとか余裕だと思う。
つか、選び直しって……そもそも氷竜とか初めから選べなかっただろうが……。
そこら辺、解ってないだろ?
……この辺、やることなすことザルって言われるだけはある……つか、雑。
どのみち、チェンジ可っても他は眼中ねーし!
「へっ、言ってろよ。このフルブラックについては、俺はゲームでさんざんやりあって、もしも自分で操作できたら、間違いなく最強モンスターの一角だって思ってたんだ。なにより、なんだかんだで俺が今まで黒ナックルとしてやってきた闘い方の延長線上で戦えそうだからな。つか、お前は戦いに関しては、素人なんだろ? いいか、戦いに勝つってのは力任せやスペック頼みじゃねぇんだよ……勝利への飽くなき執念と、知恵と勇気……月並みだけど、証明してやろうじゃねぇか!」
……せめて、強がりくらいは言わせてもらうぜ?
たとえ不利だろうが、勝てねぇって程でもねぇ。
そもそも、俺はゲーマーとして、難易度が高いほど燃えるクチなんだ。
勝率1%がどうした……命中率1%だって当たる時は当たるんだ。
ベリハもルナティックもどーんと来やがれってんだ!
至高神様が楽しませろって見守ってくれてるんだ。
せいぜい、スーパーファインプレイで度肝を抜いてやるさ!
「いいねっ! 確かに我は戦いに関しては、疎いからねぇ……。享楽神たる我にとって、戦いはするものではなく、傍観するものだからね。けど、それでこそ、主人公って感じじゃないか……。なぁに、例え君が負けても別の誰かにチートを与えれば済む話だからね……それこそ、イーファサークの使徒にテコ入れしたっていい。あの娘、なかなかいいじゃないか」
「あー、ユリアちゃんに要らないちょっかいは出すなよ? あの娘には好きなようにさせてやってくれ。あの娘にだったら、炎龍諸共殺られたって、本望って感じだよ」
「本望か……そうかそうか。うん、なら頑張れっ! 我は君を応援してるよっ!」
……だからな。
お前が元凶なんだろ! ってツッコみたい!
ったく、なんなんだ……コイツ。
お調子者ってのも追加だな。
なお、現状……炎龍と俺は距離をとって睨み合いの真っ最中。
向こうの最大の武器。
極大ブレスは俺には効かないってのが実証済みだ。
俺のブレイドシールドはコンマ秒で展開されるから、ブレスを吐いたのを見て展開しても余裕で間に合う。
範囲型の広がるブレスであれば、防御態勢にならずともブレイド寝かせたままでも多分防げるし、ピンポイントでも、俺のブレイドシールドは受けきれたし、そもそも、あんなの軽く回避できるだろ。
火焔結界についても、俺のブレイドなら撃ち抜ける。
もっとも、ひとつふたつ抜けた所で、大したダメージにもならないってのがなぁ……。
何より、こっちのブレイドは有限だ。
ブレイドがなくなってしまったら、こっちは一気に弱体化する。
本数は……確か42本だったかな?
一本くれてやったから、残りは41本。
結構、多いと言えるだろうが、長期戦ともなるとそれでも心許ない。
なんと言っても、撃てば撃つほど、こっちは弱体化する。
向こうの強みは、デカイ身体とパワーと超回復力。
こっちの強みは、防御力とスピード、そして攻撃力。
とにかく、ブレードが揃ってる限りは、攻防走……全てが俺が勝ってる。
レベルは……この感じだと多分、同レベルだけど、リジェネタフネス系とスピードアタッカーでは、相性はあまり良くない。
確かに、厳しいっちゃ厳しい。
攻略法としては……とにかく、継続的にダメージを与えていって、削り殺すのみだな。
さっきブレイドが確実に一本は刺さったはずなんだが、新しめの傷口があるだけで、ブレイド自体はもう見当たらない。
でも、刺さったままにせず、それを引き抜いたってことは、逆を言うとそれだけ俺のブレイドを脅威として認識したってことだ。
となると……勝利の道筋が見えてきたかもしれんな。
「俺さぁ……前々から思ってたんだけど、ドラゴンって羽生えてて、腕もあるってそれって要するに腕四本あるようなもんだよな? そんな図体の割にショッボイお手々とか別に要らねぇよな!」
そう言って、四足態勢で低い姿勢のまま、まっすぐに飛び込む!
予想外の真正面からの接近に、炎竜が慌てて後ろに下がりながら、ピンポイントのレーザーブレスで地面もろとも焼き払う!
なるほど、広範囲ブレスは効かないって、学習したんだな。
だが、それは予想済み。
一手早く、俺は地面を蹴って、滑るように真横にかっ飛んで、回避!
空中でケツを流しながら体の向きを変えて、全部のブレイドを真後ろに向けて、意識を集中!
ロケットみたいにブレイドから衝撃波が出て、一気に加速!
うぉ、半ば無意識にこんな事ができた!
鋭角的なでたらめな方向転換……こんなん旋回Gだって尋常じゃないと思うんだが。
そこは強靭この上ないドラゴンの身体。
平然と耐えきって、一気に加速して斜め方向から炎竜に迫る。
衝撃波による加速ブースト中だったブレイドの一つを切り離して、俺自身はもう一度高速ターンで今度は真上へかっ飛ぶ!
常軌を逸した俺の高速機動にも関わらず、炎龍はとっさにシールドを集中させた手を前に出して、ロケットのように飛んできたブレイドを片手で受け止めて見せる!
まじかよ! こいつ、ブレイドの射線を見きったのか!
けど、止められるのは読みのうち! 今のはただの牽制!
すかさずもう一度ブーストを掛けて、空中から一気に間合いを詰めると、超スピードに乗ったまま、炎龍とすれ違いざまに腕に生えたブレイドで炎龍の右腕を斬りつける。
「腕一本いっただきっ!」
……さすが、フルブラックのブレイド。
炎龍の鱗を容易に断ち切って、人間で言うところの肘の辺りからバッサリ腕を切り落とした!
更にすかさず着地しつつ、180度ターンして、突貫!
ブレイドをドラゴンの背中から左の肩口に突き刺して、今度は途中から、ブレイドをへし折る!
……絶叫!
ドラゴンの左腕が力なく下がる。
いい感じに肩? の部分の関節を砕いたらしい。
その上、折れたブレイドが完全に身体の中に埋め込まれた……さすがにしばらく、左腕は使えねぇだろ。
よっしゃ! 両腕潰してやったぞ! これなら、刺さったブレイドも簡単には抜けねぇだろ。
なにげに、このブレイドってカッターの刃みたいに、斜めに切れ込みがあって、身体から外す時もそこから折れるように分離できるようになってるんだ。
溝の向きも真横じゃなく、斜めだから力の入れ加減で途中で折ったり、受け剣をしても溝のない側なら、折れたりもしない。
当然、先の方とか切れ味が悪くなったら、カッター同様刃の先を折って、切れ味抜群の状態を維持する。
なにせ、ドラゴンだから刃が欠けたからって、砥石で研ぐとか器用なことは出来ないからな。
そこら辺は、なんだかんだで都合良く出来てるよなぁ。
ついでながら、この刃は敵の身体に残しておけば、それ自体が毒の源になる。
こうやって、毒ブレイドを炎龍の身体に埋め込んで行く。
引っこ抜こうにも先に両腕潰したから、簡単にはいかなくなっただろう……。
HPとかどれだけあっても、解除不能のスリップダメージがリジェネの回復力を上回れば時間の問題で勝てる!
毒殺とか悪辣かつエゲツねぇけど、大物狩りには有効な手だよな。
うーむ、フルブラックのブレイドって、そんなんだったんだな。
プレイヤー視点だと、極大攻撃とか当てると、時々ブレイドが折れて、怯み状態になったのは見てたけど。
なるほど、こう言う仕組みか。
けど……これなら行ける!
超級ゲーマー夏目優馬の真骨頂! 魅せてやるぜ!




