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異世界ネコ転生! ゲーム世界に転生したら、ネコでしたが、くっそ強いロリ美少女のお供として、俺は生き抜くっ!  作者: MITT
第三章「クロネコの章 帝都動乱編」

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第二十四話「落日」③

(もっと早く諌めていれば……。いや、どこかで、皇帝の座を諦めさせていれば……)


 たられば……それを言い出したらキリがなく、そして、ザカリテ自身はそれと言って、悪と謗られるような真似をしてきた訳でもなかった。


 良くも悪くも無能にして平凡……それがザカリテと言う人物の総評であり、それ故に、懐古主義の門閥貴族達の傀儡同然となってしまっていたのだ。


 せめて、第一皇位継承者でなければ……ほんの百年ほど前に生まれていれば……。

 ザカリテもこのような無残な末路を辿ることもなかったかもしれない。


 いや、単純に要らぬ野心を持たずに、その時が来たら潔く継承権を譲って、静かに隠居する……そう皇帝に告げるだけで良かったのだ。


 実際のところ、サルガスもそのような道を用意してくれていたのだ。

 だが結局、ザカリテは肝心なところで道を違えて、その救いの道を自らの手で閉ざしてしまった。

 

 長年侍従としてザカリテに仕えてきたアーノルドには、ただ後悔しか無かった。

 そして、その最期すら、このままでは酷く無様なものとなることが確定していた。


 もはや彼に出来ることは、その最期を皇族らしいものとした上で、主人の死出の旅路の伴をする……それだけだった。


 ……アーノルドは、覚悟を決めた。


「……ザカリテ殿下。そう言う事ならば、我が剣をお使いください」


 そう言って、アーノルドは腰の剣を抜くと、うやうやしく捧げ持った。。


 ……殺気一つもなく、穏やかな笑みすら浮かべていた。

 この男もかつては、従騎士として狩猟騎士と共に幾度となく死線を超えた……その程度には腕利きの騎士だったのだ。

 

 それ故に、殺気を抑えることなど造作もなかった。


「ふむ、そう言えば、貴様の剣はそこそこの業物だったな。だが、良いのか? それでは貴様が丸腰になるのではないか? 如何に若い頃は相応に名の知れた達人だったと言えど、丸腰では話になるまい……貴様には一人でも多くの汚れた者達を斬ってもらわないといかんのだが……まぁ、いい貸せ」


 アーノルドに絶大なる信頼を抱いているザカリテは、無警戒にアーノルドに歩み寄るとその剣を受け取り、刀身を指でなで上げる。


「ほぅ、コレは魔剣か……。まったく、こうなるのが解っていれば、魔剣「絶火」もマクファーソンに下賜したりはしなかったのだが……まぁいい。ありがたく使わせてもらうとしよう」


 ザカリテはほんの僅かにも、警戒する様子も無かった。


「構いませぬよ……。どのみち、私も殿下の後を追いますので……」


 アーノルドはそう言って、大きく踏み込むと、隠し持っていた短剣の切っ先で正面から、ザカリテの左胸……心臓を一突きした。

 

 ザカリテは、アーノルドの剣を取り落とすと、信じられないと言いたげに大きくその目を見開くと胸に手を当てると、血に塗れた手をじっと見つめる。


「……ア、アーノルドォオオオッ! き、貴様はこの私をっ! 何故だっ! 貴様までこの私を……裏切るのかっ!」


 血を吐きながら、アーノルドに掴みかかるザカリテ。


「……誠に申し訳ない。殿下……私は、最初に不名誉なる虜囚として生きながらえるか、名誉ある自裁かを選んで頂くよう言いませんでしたか?」


「馬鹿な……それでは、この私が本当の反逆者のようではないか……。皇室に……帝国の伝統に弓引いたのは、サルガス……奴らの方ではないか! それをっ! それをーっ!」


「……残念ながら、今や我々こそ帝国の敵、国賊なのですよ……。皇帝殺しの罪はそれほどまでに深い……その首謀者として名指しされた以上は、もはや生き残る目は万に一つもございませんでした。ですが、名もなき雑兵の刃の露となる……それは考えうる限り、皇族としてはもっとも無様な死に様ですぞ。サルガス殿下と一騎打ち? そんな夢を見たところで、道半ばで雑兵の槍衾に吊るされるのが関の山でしょう。ならば、せめてこの手で冥府へとご案内するまでです。殿下は名誉ある自裁……自らの心臓に剣を突き立て果てた……そう言う事にいたしましょう。……これもまた忠義かと思います、重ね重ね申し訳ありません」


「ちゅ、忠義だと……ふ、ふざけるな! ふ……ざけ……る……な。かっはぁ……」


 それだけ叫ぶとザカリテは大きく痙攣すると大量の血を吐き、アーノルドに体を預けたまま、目を見開いたまま動かなくなった。

 

 アーノルドはそっとその目を閉じさせると、静かにその亡骸を横たえると、無言で深々と腰を折り、黙祷を捧げる。


「……ザカリテ殿下、我がただ一度の不忠をどうかお許しください。ご安心を、殿下の亡骸は奴らには渡しません。お約束どおり、私も殿下の死出の伴を致しますゆえ、なにとぞご容赦ください……『火よ』っ!」


 それだけ言って、アーノルドは自らに火の魔術を発動させる。

 

 一瞬で、二人は業火に包まれる。

 その炎はたちまち燃え広がると、ザカリテの執務室を覆い尽くすと、建物全体に広がっていった。


 そして、その炎はアーノルドが予めあちこちに仕掛けていた爆薬に引火すると盛大な爆発を起こした。


 ――かくして、帝国第一皇太子ザカリテ・フィル・バルナスガルは、彼の離宮ごと爆炎に消えた。


 かつては、日夜貴族達が宴会を開き、門閥貴族の権威の象徴とも言われていたザカリテ離宮こと、ヴァレンチノ離宮……その最期は、紅蓮の炎に包まれながら、激しく爆発しつつ、崩れ落ちると言う無残なものとなった。


 これが後世に『ザカリテの乱』として伝わる事になる、旧守派貴族の最後の反抗の終幕でもあった。


「……爆発……しましたね」


 ……ユリアが呆然と呟く。

 

 ユリアもザカリテと生きて相対することはあるまいと、予想はしていたが。

 ここまで、派手な最期を遂げるとは思っていなかった。


 けれど、隣のラジエルを見ると、肉親の死を理解したことで、涙ぐんでいるのが解った。


「そんな……ザカリテお兄様……」


 唇をわななかせて、顔を覆って、その場にうずくまるラジエル。

 心優しきラジエルがこうなるのも無理もないと……ユリアも理解していたが。


 ここは毅然とした態度を貫くべきであり、友としてそう進言すべきだと理解もしていた。


「ラジエル……気持ちは解りますが、ここで涙は見せてはいけません。私は……お母様が亡くなった時も泣きませんでした」


 拙いながらも彼女にとっては、精一杯の慰めと励ましのつもりではあった。


 まぁ、それは嘘なのだが。

 母親の亡くなった夜……もう会えないと悟った時に、彼女は一人静かに涙に暮れた。


 そして、それからずっと本当に涙一つ見せずに、修行に明け暮れた。

 最後に泣いたのは……クロイノの説教を聞いたあの時。


 素直に頼れる誰か……彼女にとってのクロイノとは、そう言う存在だった。


「……そ、そうだったんですね。ユリアちゃんは……とても強い子ですね。ええ、そうですね……私もこんな事で、泣いてちゃダメですよね」


「はい、涙がこぼれそうになったら、上を向くのです。泣くのであれば、誰も居なくなってからにしましょう……もう少しだけ耐えてください。そして、皆に勝利を宣言するのです……。それが課せられた役割というものです。さぁ、立って!」


 ……もうちょっと気の利いた慰め方もあっただろうにと、ラジエルも苦笑しつつも、そんな友の気持ちと気遣いに感謝しつつ、涙を拭うと気丈にも顔を上げて、立ち上がる。


 そんな彼女のように、誰もが否が応でも視線を向ける。


「兄上は……ザカリテ第一皇太子は、己が責に殉じました。誠に皇族に相応しき名誉ある見事なる最期でした……。皆様……どうか去りゆく者達への敬意と哀悼の意を! そして、直ちに後処理に映ってください。まずは離宮の消火作業にあたり、生存者や今の爆発に巻き込まれたけが人の救出に全力で当たるようお願いします」


 凛として告げるその声に、一瞬あたりも静まり返った。


「第3親衛騎士団団員諸君! 聞こえたか? ラジエル皇女殿下のご命令であるぞっ! 総員黙祷を捧げよっ! 然るべく後に離宮の火災の消火に当たれ……周囲への延焼など殿下も望んでいないだろうからな。愚痴は聞かんから、そのつもりでな!」


 ラジエルの隣に控えていた第三親衛騎士団の副団長が当然のように大音声を張り上げ彼女の命を復唱し、ラジエルに微笑みかけた。


 ワンテンポ遅れたように、あちこちで命令の復唱が起き、兵士たちが一斉に黙祷を捧げると、静かに動き出した。


「……ふむ、こんなものでよろしかったですかな?」


 そう言って、副団長が微笑みかける。

 かなりの年配ではあるのだが、こう見えて歴戦の勇士でもあった。


 そんな彼がラジエルの命に従ったことはこの場において大きな意味があった。


「ボーウェル団長ありがとうございます。つい、差し出がましい事を……」


「いえいえ、ラジエル皇女殿下直々のご命令でしたからな。しかしまぁ……やっこさんも、派手にやってくれましたなぁ。危うくこっちまで吹き飛ばされるかと……。あ、すんませんなぁ……もしかして、不敬でしたかな?」


 禿頭のなんとも愛嬌のある親父さん。

 ボーウェル団長はそんな武人らしからぬ男であったが、平民の一兵卒からの叩き上げと言うことで、部下たちからは慕われていたし、サルガスからの信頼も篤かった。


 ラジエルのことも、彼自身はサルガスのおまけのように思っていたのだが。

 ここに来て、堂々と臆することなく、ザカリテの最期を見届け、予想外の爆発で、思考停止に陥ったボーウェル達にすかさず命令を下し、混乱しかけた現場を一瞬で収めてみせた。


 サルガスからも、自分よりも遥かに皇帝に相応しいと聞かされていたのだが。

 ボーウェルが知る限り、ラジエルという皇女は内気で気弱で自分というものを持っているようにはとても見えず、そんな器だとは思えず、サルガスの単なる身内贔屓だと思っていたのだが。

 

 その認識を改めるべきだと感じていた。


「いえ、そんな事はありませんよ。ですが、残念です……最後にお兄様とお話し合いくらいしたかったのですが……」


 まったく、お優しいことで……その言葉をむしろ好感と共に、ボーウェルは受け止めていた。


 さすがに、彼にも皇帝殺しの反逆者の汚名を被せられたザカリテを生かすという選択はありえないと思っていたし、このところの彼のまるで、自分が皇帝であるかのような横暴には、さすがに目に余るものがあった。


 限りなく、自業自得。

 時代錯誤な選民主義を捨てきれなかった門閥貴族達の神輿としては、まぁ、マシな最期だったと言えよう。

 

 だが確かに、こう言う優しい考えの持ち主であれば、一兵卒に過ぎない自分達の死にすら、彼女は涙してくれる……そんなふうにも思えてくる。


 そんな事ですら、勇気百倍となるのだから、兵士というのは単純な生き物ではあるのだ。


 確かにそんな慈愛の心を持つ皇帝というのは、これからの時代悪くないかも知れない。

 一兵卒からの叩き上げであり、帝国の裏も表も知り尽くした彼はそう感じてもいた。


「殿下は、お優しいのですな。そうなると我らが戦場で倒れた時も同じように涙で見送ってくれるんでしょうな……だとすれば、まさに忠義に値すると言えましょうな。はっはっは!」


「そ、そんな悲しいこと言わないでくださいよ。そんな事になったら、絶対泣きますから! 駄目ですって! 縁起でもない……」


 彼女が大真面目な調子でそう応えると、周囲から一斉に笑い声が返ってくる。


 そんな彼女の為だったら、命をかけるのも悪くない……ボーウェルはそんな事すらを思いつつ、半ば意地悪で聞いてみたのだが、思ってもみなかった答えが返ってきたことで、彼はこの場で、今後は彼女の忠実なる臣下であろうと固く誓ったのだった。

 

 だが、そう思っていたのは、彼だけではなかったのだ。

 

 この場にいて、彼女の言葉を耳にしたものは誰もが同じ思いを共有していたのだった。


「うんうん、さすがラジエル様ですね。愛されてますねぇ……。あ、隊長さん、こう言うときって、バンザイ三唱……皆で、ラジエルのことを讃えませんか! 私達、色々やらかしてますけど、そうやって締めくくれば大体、大団円って感じになるんじゃないですかね?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、ユリアにそんな提案をされたボーウェル。

 このこみ上げる思いの持って行き場を探していた彼は、迷わずその言葉に従うことにした。


「ですな……ラジエル皇女殿下バンザイ! 帝国、バンザイッ! ウォオオオオッ! これは……俺達平民の勝利だ! ラジエル皇女殿下の勝利に祝福をーッ!」


 ボーウェルのバンザイの言葉と絶叫に、その場に居た者達も迷わず乗っていった。

 たちまち、その言葉は復唱され、あっという間にその場を埋め尽くした。


「わが帝国に栄光あれ! ラジエル皇女殿下ばんざーい!」


 ラジエルを称える声が響き渡る。

 

 まさに、熱狂……彼らはまさにラジエルの命ひとつで命を捨てるのすら躊躇わない。

 その程度には、彼女に対して忠誠を誓っていたのだ。


 言葉一つで、そんな熱狂的な軍団を作り上げる。

 

 まさにカリスマ、皇族たる面目躍如と言ったところではあった。

 

「帝国最強の剣、ユリア様! バンザイ!」


「ちっちゃくてまじ強い! ユリア様、さいこーっ!」


 やがて、それにはユリアを称える声も混ざり始める。


 そんな騒ぎに、近くで様子を見守っていた一般市民達も加わり、たちまちバンザイの声の大合唱となり、いったい何事かと集まってきた街の人々も続々と加わり、帝国国歌の斉唱が始まり、明け方過ぎということでねぐらに引っ込んでいたナックル達もぞろぞろと騒ぎに加わり、まちまち帝都挙げてのお祭り騒ぎに発展していった。

 

 門閥貴族達の最期、古き帝国の残滓の消滅。

 

 比類なき武勇を持つ若き英雄の誕生、そして、それを従える慈愛の女王。


 それはまさに人々にとって、理想の組み合わせと言えた。


 人々は、この二人にそんな輝かしい未来を垣間見ていたのだ。

 

 新たなる時代の幕開け……それを告げるお祭り騒ぎ。


 この出来事は帝国の……そして、この世界の人類史の新たなる幕開けとなるのだった。

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