第一話「転生したら猫でついでにピンチです」①
今ではないいつか、ここではないどこか。
……それは、遥か遠い異世界の物語。
巨大なるモンスター。
……果てどもなく襲い来る異形の魔物達。
飛行船に乗って天を駆け、ダンジョン……地の底を突き進む、大冒険の数々。
まだ見ぬ大地……遥かなる天空の島々。
三つの国を渡り歩き、いくつもの出会いと別れ。
熱き絆に結ばれた頼もしき仲間達……。
そこには無限の可能性、胸躍るロマンがある。
さぁ、君も……ハンターライフを始めよう!
『ハンターナイツ・アドベンチャラー』
ミリオンセラーの大ヒットファンタジーRPGのキャッチコピー。
なんか、今頃になってあのCMコピーが頭に浮かんできちまったよ。
ゲームの世界で暮らせたらなぁ……。
ゲーマーなら誰だって、一度は思うであろうこの思い。
俺も、そんな風に思っていたことがありました。
ああ、その思いは色んな意味で過去形なのだ。
……俺は今、異世界のダンジョンの奥深くに居る。
これは、ゲームではない……割と、ガチのリアルでだ。
それも、端的に言って大ピンチ。
つい今しがたまで意識もぶっ飛んでた。
あちこち痛いし、なんだかボロボロ。
隣には、2m近くの巨体をフルプレートで包み、三つ編みにした白髪のサンタクロースみたいな白髭をたくわえた老騎士が横たわり、白目を剥いて、ビクンビクンと痙攣している。
……目の前に立ちはだかるのは、超巨大な火を吐く亀みたいな奴。
大きさは軽く15mくらいはある……頭の位置も5mくらいの位置かな。
うん、2階建ての建物くらいあるな。
見上げるような巨体。
もはや、山だ。
いや、ダンプカーだな。
働く車、ワーカーってヤツだ。
別に運転したことはないけどな。
じゃなくて、コイツの名前は「グラドドドス」
亀型のとっても固くて、倒すのが面倒くさい巨大モンスター!
やたら、ドを強調してる防御特化系モンスターだ。
なんでこんな状況に……と言うのはボンヤリとながら解る。
老騎士さん、俺の御主人様→巨大モンスター討伐戦、最終段階の決戦に挑んだ。
俺→御主人様に黙ってついていくのだにゃー。
結果:ハプニング発生、ジジイ駄目でしたっ! まさかの番狂わせ!
→大ピンチ! 俺、頑張ったけど空カッ飛んだ! もうだめぽ。
→絶望的状況で、一陣の希望の神風! 俺の前世の記憶が覚醒! ←イマココ
御主人様……。
この天空遥か上空に浮ぶ飛行島……グラハムアイランドの領主様にして、対巨大モンスター戦のエキスパート「狩猟騎士」と呼ばれる超戦士のひとりなのだ。
まぁ、数十メートルとかある化け物とソロで渡り合えるって時点で、軽く化け物なんだが。
それも狩猟騎士歴ウン十年の大ベテラン。
連合国家でもある「帝国」の上級貴族の一人でもあり「帝剣十六輝」なんて如何にも凄そうな称号を持つ。
そりゃあもう、すんげぇ偉大なるお方なのだ。
ここに至る経緯を掻い摘んでみる。
まず巨大モンスターの巣食うダンジョンがこの島最大の城塞都市インラントから、僅か二日と言う極めて近い位置に発生し、近隣の農村がモンスターの群れに襲撃され、数多くの難民が押し寄せて来て、窮状を訴えたのだった。
ああ、この辺の経緯はこの世界のの俺の記憶って奴だな。
解る、解るぞっ!
そして、その一報を受けた御主人様は、お役目を全うするとばかりに、直ちに討伐隊を編成しダンジョン攻略に出向いたのだっ!
ダンジョン攻略自体は、配下の従騎士団の活躍で、相応の犠牲を払いながらも、無事に平定し、残すはラスボスのグラドドドスだけ。
だったんだが……そこで番狂わせが起こったのだった!
御主人様が一蹴ッ!
一蹴したのではない……文字通り一蹴されたのだ。
グラドドドスの開幕突進キックを大盾で受け止めたまでは良かったけど。
腰のあたりでゴキグキッていやーな音がしたと思ったら、御主人様は白目を剥いて、ぶっ倒れた。
まさに、一蹴ってヤツっすよ! プゲラゲラッ!
つか、駄目だよ……アレは受けるんじゃなくて、敢えて突っ込んでって華麗にパリィ……もしくはスライディングアクションッ! 体の下をスザーっとくぐり抜けるんだよっ!
大盾受けで、グシャってやられるとか、盾の過信って奴っすよーっ!
なぁに、ド素人あるあるプレイやってんすかーっ! プゲラッチョッ!
ああ、笑ってる場合じゃないヨー。
なんにせよ……御主人様のグラハム卿は、ワンパンで戦闘不能に相成られたのだー。
のだー。
………………のだー。
御主人様が倒れたのを見て、従騎士団のヤツらはもはや総崩れで我先に逃げ出してしまった。
ほんの一部の我が同胞達は逃げ出さすに、息を殺して隠れ潜んでいるのだが……もはや、どうにもなるまい。
とにかく、俺達……我が同胞達は非力で弱い。
……要するに、雑魚キャラなのだ。
荷物持ちや偵察、トラップ設置や囮役程度なら出来るが、正面から巨大モンスターを相手出来るほど強くはない。
もちろん、この俺もだ……。
俺は……と言うと、一言で言うと胴長1mくらいの二足歩行をするデカい黒猫だ。
種族名は『ナックル』
鉄拳でも振り回してそうなゴツい名前なんだが、見た目は二足歩行するデカい猫で弱小モンスター種族であり、要するに地上由来の生物だと言われてる。
当事者のくせに、伝聞系なのは当の俺らがどこから来たのか誰も解ってないからだ。
もっとも、モンスターと言っても人語を解し、人並みの知性を持ち、普通に人間社会に溶け込んでいるので亜人の一種とされている……モンスターと亜人の区別自体が割と曖昧なんだよな。
モンスターでも知能が高い奴らは、人語を解したりするし、悪辣な罠とか仕掛けてきたりもするし、人間に近い姿の奴らも居たりするからな。
要は、人間にとって害があるかどうかで線引きしてるだけだったりもする。
俺らナックルは、様々な形で人間に奉仕して、代わりに食い物をもらったり、道具や服をつくってもらったりして、普通に人間と共に都市や農村に住み付いている。
都会なんかでは、人間同様賃金もらって、専用の住処で寝泊まりして、商店でお買い物してたりと、結構文化的だったりもする。
要するに、人間社会に寄生するような形で、人間と共存する事を生き残り戦略とし、人間に混ざって生活してる風変わりなモンスターなのだ。
昔は、もうちょっと雑な扱いだったんだが、俺らの居る帝国はナックルも国民として認めてる……。
だからこそ、普通に都市とかでも、人間と一緒に生活させてもらえてるんだぜ。
なお、戦闘力は微妙。
たまに、狩猟騎士のお供を長年続けて、歴戦のツワモノと化して、化け物じみた戦闘力を誇るのもいるらしいが。
基本的に、ゴブリンやコボルトと言った最弱モンスターと互角とかそんな程度。
はっきり言って弱い。
一応、武器や道具も使えるんだが、力は強く無いから、オークどころか人間相手でも軽く力負けする。
俺自身ついぞ先程まで、そんなにゃーにゃー喚くだけの雑魚猫の一匹だった。
まぁ、一応、御主人様と共に直接モンスターと戦う戦闘系ナックルではあったんだが。
ボス級モンスターにはまるっきり力及ばず、軽くふっ飛ばされた。
覚えてる感じだと軽く20mくらいは飛んで、そっから更に20mくらい派手に転がった。
無茶しやがって……。
けどまぁ、この絶体絶命の危機でどうも俺は、前世のことを思い出したらしい。
そう、俺は……。
この黒ナックルに生まれ変わる前は、日本の社会人廃ゲーマー「夏目雄馬」だったのだ!
だからこそ、解る! 解ってしまったのだ!
この世界は……大ヒットファンタジーアクションRPG「ハンターナイツ・アドベンチャラー」の世界そのものだったのだ!
な、なんだってー!
……そんなセルフツッコミを入れたくなる位なんだが、本当にそうとしか思えないんだから、仕方ない。
いくつもの浮遊島から構成される天空の異世界を舞台に、狩猟騎士と呼ばれる超戦士が主人公の大冒険活劇!
もうねっ! 俺得過ぎて、興奮がマッハ!
ワイルドなマンガ肉食ったり、巨大なドラゴン相手に一騎打ちとか……。
次々と上陸してくるモンスターの群れ相手にたった一人で島を守るために立ち向かって無双するとか。
自前の飛行船に乗って、雷竜の群れとの空中戦なんて燃えるシチェーションなんてのもあったし!
オンラインの絆で結ばれた仲間達とのインスタンスダンジョン攻略戦……なんてのもあったなぁ。
思い出すぜ……総プレイ時間1000時間超とか、立派な廃人だったな。
ハード壊れて、データ消失しかけて、運営にガンクレームぶつけて、復旧させたり……なんてこともあったな。
普段は営業マンやってて、ノルマに追われてペコペコ頭下げて……。
通勤時間や僅かな休憩の合間に自宅ハードの遠隔操作で、ログボ受け取りだの、デイリークエ消化と言った日課をこなしつつ、帰宅すれば、レッツ! ハンターライフ!
金曜夜とか、もう朝からワクワクで、残業もサクッと片付け、飲み会なんかもビシッと断って、現場直帰で翌々日の夜までハンティング生活!
ああ、この5年間……マジで楽しかったなぁ……。
アレはまさに我がライフワーク。
開発会社の「CAPCOP」……キャップ・コーポレーションに「俺を雇ってください!」って、履歴書送ったりもしたもんだ。
まぁ、書類選考段階で軽くお祈りバイバイされちまったんだがな。
PR欄いっぱいにハンナイ愛を書き尽くしたんだが、どうやら足りなかったらしい。
残念だ……せめて、社内に足を踏み入れたかったのだがな。
残念記念に表玄関で記念撮影くらいはさせてくれたから、許すけどな!
だが、そんな大好きだったゲームの世界に転生とか。
いいじゃない、いいじゃないっ!
なんか、ある日満員電車に乗ろうとして、ホームでウツラウツラしてたのを最後に、記憶が今の今まで曖昧なんだが……。
何があったんだろう?
グルグルと回る視界……真っ白い空。
――電車の警笛、迫る線路の砂利砂利。
ううっ! あ、頭がぁっ!




