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90.開戦



 戦争が開始してから数分が経った。

 まだ数分しか経っていないというのに死者もすでに出ている。人間から、そして魔族からも。やがて死者の体内から出てきた真っ赤な血は、少しずつ戦場を赤く黒く染め上げていく。


「みんな、大丈夫か!?」

 優夜が大声を出す。


「大丈夫です」

「大丈夫だよ」

「大丈夫だ」

 色々な方角から返事が飛んでくる。


「良し。ならサザンガに案内してもらって魔王のとこに行くぞ!」


「分かりました」

「分かった!」

「了解だ」

 すると、ばらばらに散っていたグレンやエリス達は優夜の元に集まってくる。その中にはすでに返り血を浴びている者もいる。


「……このまま戦っても人間と魔族、両方の死者が増えるだけだ。だから頼んだぞサザンガ」


「分かってる。こっちだ、付いてこい」

 サザンガは剣を構えたまま走り出す。


「俺らも行こう」


「「「「「はい」」」」」

「おう」

「ワン!」

『うむ』

 優夜達はサザンガの跡を走って追いかける。


 サザンガが走り始めてから十分が経つ頃。サザンガは急に走る足を止める。


「ん?どうしたんだ?」

 優夜はそれを疑問に思うが答えはすぐに分かった。


「あそこにいる魔族達は俺と同じ十魔族だ。そして、俺が人間側に付いている事を知っている」

 サザンガが指差す方向を見ると、豪華な装備を身にまとった魔族が二人いた。


「……そうか。中々厄介だな」

 魔王の所に行くにはこの場所を通る必要がある。つまり、


「戦うしかないって事か……」


「ああ、そういう事だ」

 サザンガは頷く。

 あまり時間は取りたくないんだがな。でも仕方ないか。


「優夜。ここは僕とエリスに任せてよ」


「……良いのか?」

 確かにその方が俺としてはありがたいけど、リンカとエリスだけで十魔族二人を相手するって少しきつくないか?


「当り前だよ。僕はそのために特訓したんだから」

「そうです。ここで戦わなくて何時戦うのですか?」

 それもそうだ。リンカとエリスがどのくらい頑張ってたかは俺が一番知ってる。そのリンカとエリスが自分から戦うと言ってるんだ。なら、答えはこれしかない。


「分かった。そしてありがとう。でも、絶対に死ぬなよ」


「うん。もちろんだよ。僕はこの戦争が終わったらやりたい事がたくさんあるんだから!」

「私もです。この国の王女として今死ぬ訳にはいきません」


「頼もしいな。うん。じゃあ頼むわ」


「「任されました!」」

 リンカとエリスは同時に言い、そして、二人は十魔族の元に歩いていく。


「良し。俺達は先を急ごう」


「分かった」

「「はい」」

「おう」

 優夜はリンカ達の後ろ姿を一瞬見た後、また走り出した。

 ……ありがとな。でも、絶対死ぬなよ。



 優夜達と別れたリンカ達は十魔族の元へ歩いていた。


「優夜に任されちゃったね。一緒に頑張ろ、メル」


「私はリンカだけが生きていれば良いのですが……まあ、優夜さんには世話になりましたし。借りは返しておきましょう」


「ふふっ。素直じゃないなあ」


「違います!あくまで借りを返すためであって、これは照れ隠しとかそういうのでは!」

 十魔族との戦闘を控えているというのにリンカとメルには緊張の二文字がどこにも見えない。


「あの、これから十魔族と戦うのですよ?少し気を抜き過ぎでは……?」

 緊張どころか余裕すら見せているリンカに対し、エリスはがちがちに固まりながらリンカに言う。


「えー、そうかな?僕はこれくらいがいいと思うけど。逆にエリスは緊張しすぎだよ。特訓してきた僕達なら十魔族でも何でも余裕だよ!」


「そうですわ。エリスは少し緊張のしすぎです。それでは出せる力も出せないですよ」


「あのフリューネが正論を……いえ、そうですね。確かに緊張のしすぎは良くないですね。ありがとうございます」


「いや、良いよ。それより、向こうがこっちに気付いたみたいだよ」

 リンカはふわっとした様子から一転、気を引き締めた様子で十魔族の方を見る。


「そうですね。では私が左の方をやります」


「じゃあ僕が右だね。よし、行こう!」

 二人は瞬時に散会し、十魔族へと走っていく。


「先手必勝です!フリューネ!」


「分かりましたわ」

 フリューネはエリスの声を聞くと、十魔族との距離を一瞬で縮め、双剣で攻撃をする。


「ッ!?」

 十魔族は急な攻撃に戸惑うが、ぎりぎりの所で防御する。


「流石に今のでは無理ですか」

 フリューネは一度体勢を立て直すために距離をとる。


「次は私が!」

 フリューネが身を引くと同時にエリスが剣で突撃をする。


「くっ!」

 剣は十魔族の頬を掠める。

 十魔族は自身の顔に血が流れている事に気付くと、憤怒の表情を浮かべる。


「貴様ッ!私の、この私の顔に傷をつけたなッ!!」


「貴方の事なんてどうでもいいですわ。それより、早く死んでもらえる?」

 フリューネは激怒する十魔族を双剣で斬りつける。


「ぐはッ……!」

 十魔族は双剣をもろに受けるが、何とか致命傷は逃れる。


「あら、意外と固いですわね」


「貴様、今のはおかしいだろ!空気が読めないのか!?」


「何を訳の分からない事を言っているのですか。隙を見せる貴方が悪いのですわ」


「隙あり!」

 フリューネと十魔族が会話をする中、エリスは十魔族の後方に回り、後ろから思いっきり斬りつけた。


「ぐあああっ!!?」


「ほら、隙を見せる貴方が悪いのです」


「くっ……貴様ら。この、【剛水】スイエン様直属【恥】ノルティを怒らせたな!必ず後悔させてやるぞ!!」

 十魔族は自身の名前を明かすと、スキルを発動する。


「スキル、凶化発動!」

 その瞬間からノルティは自我を失った。

【投稿予定】

9/18 91.フリューネの実力

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