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89.人魔戦争③



 戦いがあと少しで始まる。そう思うと俺は少し弱気になった。

 俺達は勝てるのか。本当に魔王を救う事なんて出来るのか。そんな思いが頭の中を飛び回る。

 そして、不安な気持ちで胸を埋め尽くされた時、不意に誰かの腕に抱き寄せられる。


「優夜様。大丈夫ですよ。私達なら大丈夫です」

 俺を抱き寄せたのはティーネだった。

 優夜の心境に気付いたティーネは、優夜を落ち着かせるように大丈夫と連呼する。

 その言葉で俺は心が安らいだ。


「もう、大丈夫だ。ありがとな、ティーネ」

 優夜はそう言いティーネの腕を離そうとする。

 しかし、腕はいくら離そうとしても離れなかった。


「……私は、もう少しこのままでいたいです……」

 ティーネは抱き寄せる腕の力を更に強くする。その腕は微かに震えていた。


「ティーネ……。分かった。ティーネがそうしたいなら始まるまでこうしてよう」


「はい。ありがとうございます」


「いや、いいさ。ティーネだって女の子だ。戦争は怖いはずだ」

 そうだ。たとえ精霊妃だろうと、幾年の時を過ごしてきたとしても、ティーネは一人の女の子だ。戦争というものに恐怖を抱かない訳がない。


「……やはり、優夜様は優しいですね」

 ティーネはぽつりと呟くが、声が小さかったため優夜には聞こえなかった。



 魔王城から脱出したサファイア達は戦場へ向かっていた。


「サザンガ。まだ始まってないみたいだぞ」

 ウルは上空を高速で移動しながら言う。


「ああ、本当だな。これなら始まる前に優夜に会えるな」


「ん、優夜に会えるの?」


「はい、サファイア様」


「良かった……」

 サファイアは僅かではあるが笑顔を見せた。


「しかし、魔王様は何を考えているんだ?戦争に参加している魔族の中には平民もいるぞ」

 ウルは下を向き、戦争に参加する魔族達を見る。

 魔族達のほとんどは鎧などの防具を装備した者だが、中には防具を身に付けず、剣だけを持った魔族もいた。


「え?……なっ!どういう事だ、これは」

 ウルに遅れて気付いたサザンガは驚きと共に、怒りを露わにする。


「魔族はただでさえ人数が少ない。だから戦争には兵以上の位を持つ者だけが出られる筈なんだがな」


「ん……これもパパが変になったせい……?」


「恐らく……そうだと思います」

 サザンガの言葉にサファイアは悲しそうに顔を俯ける。

 だが、サザンガは知っていた。復活直後の魔王は人間界へ攻める事など考えていなかった事を。むしろ今の状況を改善すべく人間と話し合ってみるべきと言っていた事を。


「サファイア様。魔王様は戦争に平民を出すなどという事はしません。魔王様は優しい人です。人間であろうと、魔族であろうと、道端で倒れていれば手を差し出す。そんな優しさを持った人です。俺は、そんな魔王様だから慕っていた。でも、今の魔王様にはそんな気持ちを抱かない。だから。助けましょう魔王様を。そして、取り返しましょう。あの頃の、笑顔で平民とも笑い合っていた魔王様を」


「うん」

 サファイアは小さく頷き、更に速度を速くするよう命じた。



 戦いが始まるまでもう時間はない。だが、今度は恐怖などの気持ちを抱かなかった。

 それは、今目の前に俺を抱きしめるティーネがいるからだ。俺には守るべき人がいる。

 だから、戦える。


「良し、もう大丈夫だ。俺達は戦える」


「そうか。それは良かった」

 不意に背後から声を掛けられた。


「!?サザンガ!?何でここに?」

 後ろにいたのは魔界にいるはずのサザンガだった。それについてはティーネや他のみんなも驚いてる。


「私もいる…優夜」

 サザンガの後ろからこの前の鷲と、その主であるウルとかいう男と、サファイアが出てきた。


「そうか……脱出できたんだな」

 本当に良かった。囚われたって聞いた時は心臓止まるかと思ったもんな。


「うん。それで会いに来た」


「そうか。……でも、再開の挨拶とかそういうのは後にしてくれ。俺達にはやる事がある」


「うん。知ってる。だから、邪魔はしない。見守ってるから」

 サファイアは案外あっさりと引いてくれた。


「ああ、ありがとな」

 俺はティーネと抱き合ったまま、サファイアの礼を言う。


「それで、サファイアは誰と一緒にいるんだ?」

 サファイアが味方っていうのは俺達を含めて一部しかいない。だからサザンガかウル。どっちかが傍にいてあげないといけない。


「ああ。それはウルにしてもらう。安心してくれ」

 まあ、そうだよな。


「じゃあ、ウルはサファイアを連れて安全な、かつ人のあまりいない場所に移動して待っててくれ。サザンガは俺達と一緒に行動するぞ。敵と間違われて攻撃されたら面倒だからな」


「言われなくともそうする」

「分かった。今日は優夜に従う」

 二人は同時に言うと、ウルはサファイアを連れて移動を開始し、サザンガはそれを見送った。


「それで、どうするんだ?」


「どうするって、決まってんだろ。魔王に直接会いに行く。それがこの戦争を一番早く終わらせる方法だ」


「もし、この戦争が魔王様の本心だったらどうする?」

 サザンガは少しためらいながら言う。

 ……なるほどな。


「俺はサファイアを信じてるからその可能性は無いと思うけど……もし、それが本心でも、俺は魔王を殺さない。サファイアに魔王を救うって約束しちゃったからな」

 優夜の言葉を聞いたサザンガは安堵したように見えた。


「そうか……。ではもし、魔王を救えなくなった場合はどうする?」


「……それでも俺は諦めない。それがサファイアとの約束だ」


「ふっ……そうか。なら、お前は勇者失格だな。だが、俺達魔族からの好感は得られる」


「それ励ましになってんのか?」


「さあな。捉え方は人それぞれだ。まあ、少なくとも俺はそう思って言ってるけどな」


「そうか。ならありがとな」


「礼など要らん。本当に感謝をしているのなら、行動で示せ」

 サザンガがそう言ったと同時に戦場に鐘の音が響き渡る。


「さあ開戦だ。優夜、言質は取ったからな?ちゃんと救ってくれよ」

 サザンガは不敵な笑みを浮かべて言った。

【投稿予定】

9/15 90.開戦

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