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86.サファイア囚われる②



 俺、ウル、サファイア様の三人で優夜に会うために魔界を出ようとした時だった。


「おい、サザンガにウル。それにサファイア様。お前達にも伝わっているはずだ。なのにどこに行こうとしている」

 俺達は四天王の一人である【紫炎】エンガ様に見つかった。

 エンガ様は二人の十魔族を失い魔界の中での地位は底辺まで落ちていた。しかし、それでも四天王の地位にいるのは圧倒的強さと冷静な状況判断が出来たから。エンガ様は人間界に出入りする俺達に気付いていたのだろう。

 じゃあどうやってサザンガは人間界(こっち)に来たんだ?という疑問を抑えて優夜は続きを聞く。


「それと、サファイア様。貴方は仮にも魔族の王女だ。この侵攻の間貴方には魔王城でおとなしくしていて貰おう」

 エンガ様が言っている事は全て正しい。だから俺達に拒否をする事は出来なかった。


「っ……分かった。今向かう」

 サファイア様が一人で魔王城の方まで向かおうとすると、


「待て。一人では逃げてしまうかもしれない。私と共に来てもらおう」


「分かった。でも、それ以上、近づく事は、許さない…」

 サファイア様はエンガ様の同行を許可したが、明らかに拒絶していた。

 そして、エンガ様はサファイア様を連れて行った。


「エンガ様はおとなしくと言っていたが、正確には軟禁のようなものだ。それにサファイア様が囚われた事で俺達は戦争で優夜達に力を貸すのは難しい」


「え、何でだ?」

 別にそれとこれとは関係ないと思うけど……。


「俺達は十魔族の中でサファイア様直属の者だ。それなのにサファイア様の近くを離れる事は出来ない。それに、もし俺達が力を貸している事がバレればサファイア様の命も危ない」

 魔族の王女が殺されるのか?……いや、今の魔王ならやりかねないか。


「分かった。じゃあそっちはサファイアを出せるようやってくれ。俺達は魔族の侵攻を何としてでも食い止める」


「言われなくとも分かっている。では無事に抜け出せればすぐにそちらへ向かおう」


「ああ、よろしく頼む」

 サザンガ達は優夜に頭を下げると去って行く。

 サザンガがあんな普通に頭を下げるとは。……頭を下げられちゃ頑張るしかないな。まあ、下げられなくても頑張るけど。


「じゃあみんな。一旦街に戻って作戦を立て直すぞ」


「「「「「はい」」」」」

「おう」

『うむ』

「ワン!」

 今日もルウは元気だな。



 エリーとの会話が終わったフェザードはギルド長室へ向かった。

 そして、部屋に入り首を傾げる。


「ん?優夜達はどうしたんだ、ユナ?」

 部屋には優夜達はおらず、私は呆然とした様子でソファーに座り込んでいる娘に問う。


「優夜さん達なら少し前に出ていきましたよ。とても慌てた様子でした。確か……お父様が戻ったらサファイアという名前を言えと言っていました」


「……なるほど」

 正確にはまだ分かっていない。だが、今回の戦争に関係しているのは分かった。

 先程エリーから魔族が我々に力を貸すという情報を聞いた。そしてその魔族の指揮している者がサファイア、そしてサザンガという魔族だということも。

 今の私では分かる事は少ない。後は優夜達が戻ってから話すとしよう。


「あれ、フェザードさん戻ってたんだ」

 私が一息つこうとすると同時に優夜達が戻ってきた。私だって忙しいんだ。もう少し休ませてほしい…。


「ああたった今戻ってきたんだ。……それで優夜。今はどういう状況なんだ?」


「あ、ユナから聞いたんだ。なら話は早い。フェザードさん、今からエリーさん呼べる?」

 優夜は真剣な表情をして私に言った。……人の成長は早いな。



「それで優夜。私の休憩を邪魔してまで話したい事とはなんじゃ?」

 心底機嫌の悪いエリーはケーキを大口で食らいながら言う。

 エリーはフェザードと別れた後街でケーキを食べており、優夜達が手分けして探した結果、五分ほどで見つかった。


「それはすみません。でも結構やばい事です」


「……ふむ?」

 エリーは優夜の言葉を聞きケーキを食べる手を止める。


「まず、今回の戦争で約束されていた魔族の援軍ですが、援軍は無理かもしれません」


「何?それはどういう事じゃ」

 エリーは訳の分からぬといった表情をし、フェザードも困惑する。ユナに至っては事情を知らないため話についていけていない。


「それは――」

 優夜は二人を説明するために先程サザンガから聞いた話をそのまま話す。


「なっ…そんな事があったのか……」

「なるほどの……それは少し面倒じゃな」

 話の内容を聞きフェザードは驚き、エリーは状況を正確に把握する。


「だが、」

「え?」

 優夜はエリーが更に口を開いた事に驚き聞き返す。


「それのどこが大変だと言うのじゃ?魔族からの支援が無くなった事如きで騒ぐでない」


「え、でも……」

 実際やばくないか?魔族はそんなにいないって言っても、こっちだってあんまり準備してないし。


「なんじゃ。優夜は不安なのか?」


「ッ……」

 優夜はエリーの言葉に顔を俯かせる。つまり図星だった。


「……お主は本当に阿保じゃな。いいか、優夜?私達人間は常日頃から鍛錬をしてきた。それは何のためじゃ?」


「それは……」

「守るためじゃ。生まれ育ったこの国を、共に生きる愛すべき人を、そしてこれからの未来を」

 エリーは特に感情移入することなく淡々と言葉を綴っていく。


「元々この戦いは人間と魔族のもの。その戦争に勝手に力を貸してきた魔族が勝手にいなくなった程度で人間は弱くなどならん。信じるのだ。人間を、仲間を、自分自身を。そして、戦え」

 ……ッ!そうだったな…。何馬鹿な心配してたんだろ。俺がするべき事はこの戦争に勝つこと、そして魔王を救う事だ。

 優夜は一度目を閉じて考え直す。そして目を開けると不敵な笑みを浮かべて言う。


「はい」

 エリーは優夜の顔を見ると安心したかのように息を吐く。


「良し……もう大丈夫じゃな。では、皆。明日は早い。今日は体力を温存し、明日に備えるのじゃ!」


「「「「「「「はい!」」」」」」」

『うむ』

「ワン!!」

 やはりルウは元気だ。

【投稿予定】

9/6 87.人魔戦争

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