75.セルフ・アルヴァンの試練②
『では、試練も始まったことだし、私もこの姿のままではいられないな』
短剣が何か詠唱をしたかと思えば眩い光が短剣を覆った後、短剣は形を変えていき、額に黒い角を生やした肌の白い魔族に変身する。
おお。あれが短剣の魔族の姿か。結構なイケメンだな。それに結構な筋肉質。あの短剣の中身がこんなダンディなおっさんだとは思っても無かったな。
「この姿だと少々手加減が出来ない。引き返すならまだ間に合うぞ?」
「引き返すなんてそんな事しません。それにあなたを屈服させるのが試練のはず。それなら本気で来てもらわないとね。後でいちゃもんつけられても困りますから」
おおっ。ミルさんカッコイイ!そして可愛い!
「ほう。中々の威勢だな。だが、実力を伴っていなければ……」
セルフは喋ったまま歩き出すと、急にミルの視界から消える。
「それはただの虚言だぞ?」
「!?」
そして、ミルの目の前に姿を現すと隙だらけのミルの腹に一発殴りを入れる。
「ぐっ!」
「「!!」」
その光景にグレンと優夜はミルの無事を心配する。
「ふむ。さすがに倒れぬか。だが五割程度は力を入れたはず…。先程のは虚言という訳では無いようだ。失礼をしたな。訂正しよう」
あれで五割!?まじかよ。このおっさん強い……!
「そりゃあ負ける訳にはいかないからね。攻撃はもう終わり?じゃあ、こっちから行くよ!」
その瞬間ミルの動きが速くなった気がした。
いや、気がしたんじゃなくて実際速くなってる。身体強化か。
だが、
「ふむ。まだ足りないな」
セルフの首元を狙ったミルの短剣は空を切る。
「え!?」
攻撃を避けられたミルは驚くがすぐに切り替え、体勢を整える。
いや、避けられたとはいえ躊躇なく首狙うって。ミルさんこえぇぇ。
「どうした。その程度の力で私に勝つつもりだったのか?……見込み外れだったか」
「くっ!」
ミルは唇を悔しそうに噛み締め、セルフから距離を取ると魔法の詠唱を始める。
「"雷よ。我が魔力を喰らえ。炎よ。我が命を喰らえ」
「魔法か。それも詠唱からして中々の物。そんな物を使わせるとでも思っているのか」
セルフはミルの詠唱開始から少し遅れて詠唱を阻止しようとする。
「激しく燃え盛る炎よ。神速の如き雷よ。我が生命、魔力を糧とし」
「くだらん。魔法など詠唱が出来なければただの文字列。威力こそあれど、私を前に呑気に詠唱などさせる訳がないだろうが」
セルフは詠唱を続けるミルに近づき首元を殴る。
「終わりだ」
確かにミルを捉えたはずのセルフの拳は空を切り、目の前にいたはずのミルはセルフの20メートル程先まで移動していた。セルフはその光景に驚嘆する。
何だ今の?ミルが急にいなくなったぞ?
「…ほう。なるほど」
「敵を穿て"迅雷烈火!」
ミルが魔法名を唱えると、ミルの目の前に魔法陣が展開され魔法陣から炎を纏った稲妻がセルフに向かって走る。
稲妻はセルフに直撃し砂埃を巻き上げる。
「こ、これで……」
大量の魔力を消費したのか、ミルの顔には汗が滲み出ていて、荒く息を吐いていた。
「ふむ、よく理解が出来た。この力量、主として不足は無い」
「!!?」
砂埃から何かを呟きながらほぼ無傷のセルフが出てくる。
「何で……そんな、だって……」
ミルは信じられないといった表情でセルフを見る。
「ん?ああ。そうか。安心しろミル。君の魔法は確かに私へダメージを与えた。ただその傷を私が癒しただけだ」
「そん…な…。そんなのに勝てるはずが……」
「それと、試練ならもう終わりにしても良いぞ?」
「え?」
「ミルは私を認めさせた。それだけで試練を終わらせるには十分だ」
「え、でも、屈服させるんじゃ……」
「ん?ああ。本来はそうだがな。ミル、君はもう限界だろう?魔力は先程の魔法で使い果たしたはずだ。その前にも何やらやっていたようだしね」
「っ」
ミルは図星をつかれ苦い顔をする。
「もっとも、それら全てを決めるのは、君次第だがね」
セルフはにやりと傲慢な笑みを浮かべる。
「このっ…私はまだ終わりじゃない。絶対あんたを降参させてやる!」
ミルは疲れた表情を全て吹き飛ばし、戦闘態勢に入る。
「ふふふ。君に何が出来る?魔法専門の君が魔力無しでほぼ無傷の私に挑む?無謀にも程がある。――だが、売られた喧嘩は買わない訳にはいかないねえ」
セルフは勝ち誇った笑みを浮かべ、余裕といった雰囲気を醸し出す。
うわあ。あのおっさん中身あんな感じなのか……。よし、今度絶対へし折ろう。いつかミルを襲いそうで心配だからな。
「せいぜい勝ち誇ってなよ。すぐにその余裕を消してあげるから」
ミルが完全に怒っちゃってるよ。あのおっさん人をイラつかせる才能ありすぎだろ。
……何か俺もムカついてきた。ミル、絶対勝てよ!
「では、最終ラウンドといこうか」
ミルはセルフを睨みつけると、先制攻撃を仕掛ける。
「ふっ!」
ミルは先程よりも速い動きでセルフを襲う。が、
「まだだ。それくらいでは私に傷など一生付けられないぞ」
セルフは難無く攻撃を躱し、ミルの脇腹を蹴る。
「ぐっ!」
あのおっさん、顔だけは狙ってないな。そこだけは紳士って感じだな。性格はあれだけど。
「ならこれで!風属性魔法。豪風!」
ミルの目の前で大風が起こり、セルフを襲う。
えっ!?ミルって無詠唱使えたの!?てか、魔力ないんじゃなかったの?
「何?」
これにはセルフも驚いた様子。
セルフが風に襲われている中、ミルはセルフから距離を取り詠唱を始める。
「まだまだ!"炎の槍よ雷を纏い敵を穿て"炎雷槍!」
ミルが魔法を放ちセルフへ追い打ちを掛ける。
「今度こそ……」
ミルは魔力を今度こそ使い果たしその場に膝をつく。
『降参だ』
風が消え去った後、セルフがいた場所には短剣が残っていた。
「やった!…でも、何で短剣に戻ってるの?」
『あの体は魔力を使って維持をしている。つまり、私がダメージを受ければ魔力供給が切れ、この姿に戻るという訳だ』
なるほど。だからおっさんは魔法とかスキルとかを使わなかったのか。
『試練はこれで終わりだ。だがその前に、君が詠唱をしている時に私の攻撃を避けたあれは何か道具を使ったのか?』
あ、それ。俺も気になってた。
「うん、そうだよ。前にグレン兄さんに貰ったんだ。一回限りだからもう使えないけど。……もしかして駄目だった?」
グレンそんな事してたのか。どれだけミルが好きなんだよ。
『いや、駄目ではない。道具を想定していなかった私のミスだ。それともう一つ。一度目の詠唱で魔力は使い切ったはずだが、何故魔法が使えた?』
「ああ、それは私のスキルだよ。魔力を溜められるスキルがあるんだ」
へえ。そんな物があったとは。
『なるほど。これで疑問は全て解けた。では、改めて。試練を超えし者よ。我は汝を主と認める。我はいついかなる時でも、主の盾となり剣となろう。主よ。我に名を』
「えっと……じゃあ、セルフさんで」
『了解した。これより我はセルフ。魔剣セルフだ』
短剣改めセルフは新たな主を得て喜びの笑みを浮かべた。
よし、これで短剣の事も終わったし、明日からまたスキルのレベル上げだ。魔王が攻めてくるまであと一週間と少し。もっと強くなって魔王を救う!
【投稿予定】
8/4 76.合同訓練




