74.セルフ・アルヴァンの試練
「試練?」
『そうだ』
短剣は頷いて肯定したように優夜には見えた。
「え、でも、主従契約をするのに何で試練が必要なんだ?」
試練ってあれだよな。強いモンスタ―と戦って力を示せ的なあれだよな。
『試練と言っても、恐らく今小僧が思っているものとは少し違うぞ』
「あれ?そうなの?」
てっきりモンスターと戦わなくちゃいけないのかと思った。そうか違うのか。少し安心だな。え、何で?そりゃあ危ない事はしたくないし。人魔戦争のころを生きてた魔族だぞ?どんなモンスターが出てくるのか分かったもんじゃないからな。
『試練は私の本来の姿ーー魔族の姿と戦い屈服させるというものだ』
「思ってたのとそんな変わらねえ!」
何でだよ。違うって言ったじゃん。しかもモンスターじゃなくて魔族かよ。余計面倒だわ!
『少しと言ったろ少しと。それに戦うのは小僧じゃない。そこの麗しい少女だ』
ん?麗しい少女ってミルだよな?何か俺と扱い違くない?
「って、あれ?そうなの。いやでも、それってもっと駄目じゃない?」
ミル一人で魔族を相手するって事でしょ。普通にきついよ、それ。
「ああ。それには俺も反対だな」
隣に座っているグレンが反対意見を示す。
お。さすが兄。さっきまでの会話は無視する癖に妹が絡むと急に出てくる。…お兄ちゃんだなぁ。
『むぅ。だが、試練は契約するものでないと受ける事は出来ない。それとも小僧。お前が試練を受けるのか?』
あ、グレンも小僧なんだ。なんか嬉しい。
「ぐっ」
短剣の言葉に流石のグレンも手が出せない様子。
「グレン兄さん。私なら大丈夫だよ。私だってもう強くなったし。…それに、私はもっと強くなりたい。強くなって優夜くんやみんなの力になりたい。…だめかな?」
ミルは上目づかいにグレンを見る。その眼には強い決意と少しの緊張が混じっていた。
「うっ……」
グレンは妹からの数少ないお願いということもあり、頭を悩ませる。そして、悩ませる事5分。遂に決断する。
「……分かった。そこまで言うなら俺は何も言わない。ただし、絶対に無事に試練を乗り越える事。それが条件だ」
ミルはグレンの言葉を聞くと驚いたように目を見開いた後、
「うんっ!」
嬉しそうに頬を緩ませ、大きく頷いた。
『よし、決まりだな。では十分後に出る。準備を済ませておけ』
短剣はそう言い喋らない短剣へと戻った。
◇
宿を出た優夜達はグレン達が短剣を手に入れた武具屋へやって来た。
「ん?何で武具屋?」
『いいから黙って指示に従え』
短剣は優夜達をそのまま武具屋の奥へと進ませる。
すると奥には地下へと続く階段があり、短剣はその階段を降りるよう指示する。
「なあ。ほんとに大丈夫なのか?急に襲われたりとかしないよな?」
『うるさい小僧だ。お前は人を信じるという事も出来ないのか』
「こいつ……!」
優夜は短剣の挑発に乗り、拳を握りしめ歯ぎしりをする。
この短剣いつかへし折るッ!
『おい。止まれ。着いたぞ』
優夜が短剣への怒りを募らせる中、四人(三人+一振り)は目的の場所に着いた。
「てか、お前は元々どこに行こうとしてたんだ?」
『見ればわかる』
「?」
優夜は何も分からないまま短剣から目の前へ顔を向けると、
「なんだ…これ…」
そこには沢山の魔族達が皆楽しそうにはしゃいでいる光景があった。
誰かが来たことに気づいた魔族達は一斉にこちらを見て、優夜達だと分かると安心して元に戻った。
「しかも、人間に敵対心が無い?」
『いや、違う。小僧だからだ。ここにいるのは解放軍の中でも戦闘に加わらないいわゆる一般人だ。ここに小僧が来ることを見越して、魔王の娘と十魔族の二人が優夜の事を念入りに説明していた』
「そういう事か……って、何で魔族が王国内にいるんだ?」
何か十魔族が二人とか変な事も言ってたけどこっちの方が重要だろ。だって魔族が王国内に侵入出来てるんだよ。これが解放軍とかじゃなかったら普通にやばいじゃん。
『安心しろ。この場所は人魔戦争の時、人間と私が出会うために魔界の地下とこことを繋いだ場所だ。つまりここを知っているのは現在私と解放軍の魔族のみ。だから小僧が思っているような事は起こらない』
優夜は短剣の言葉にほっと胸を撫で下ろす。
…安心はしたけど、こいつ時々俺の心読んでくるよな。
「それで、私たちがここに来たのと試練とは関係はあるの?」
ん、そういや試練のために来たんだったな。
『ここには用は無い。だが、もう少し進んだ場所にそのための場所がある。小僧、進め』
「はいはい」
優夜達は更に奥へ進んで行き、魔族達がはしゃぐ広場を抜けた所で短剣が口を開く。
『ここだ。この隣の壁を思いっきり叩け』
「ここか?分かった」
優夜が右手に力を入れ、岩で作られた頑丈そうな壁を殴ると、
ズゴゴゴゴゴゴッ!!
少しひび割れた壁は横に移動し、一本の道が現れる。
『ここを真っすぐだ』
優夜達は現れた道を歩く。道はそれほど長くはなく、すぐに出口へ着いた。
「「おお!」」
道を通り抜けた先には先程の広場の十倍はあると思える部屋に着いた。
部屋には何も無かったが綺麗に整地されていて住もうと思えば今からでも住めるくらい清潔だった。
「ここは?」
広い部屋にはしゃぐ優夜とミルを無視しグレンは真っ先に思ったことを言う。
『ここは人魔戦争の時、戦争に加わらない一般人達を匿うために作った部屋だ』
「へえ。で、今は契約を結ぶための戦闘に使うって訳か」
『そういう事だ。それで少女よ。私はもう準備は済んでいるがそちらはどうだ?』
今の言葉で場の空気が重くなる。
「私も、出来てます」
『そうか。ではこっちに来い』
短剣は優夜の手から離れると宙に浮き、少し移動する。
あいつ一人で動けたのかよ!絶対へし折ってやる……!
試練が始まろうとしている中、優夜は短剣への怒りを着々と積んでいくのだった。
『さて、小僧たちはもう少し下がっておれ。……少女よ。名は何と言う』
疑問形では無いのは恐らく契約に必要な事なのだろう。だから名前を知っていても聞かないといけない。
「私の名前はミル・ディクフォード。ディクフォード公爵家の長女です!」
『ミル・ディクフォードよ。汝はこの契約に何を望む?』
「力を。仲間と戦うための力が欲しい」
『汝は我と契約を結ぶ覚悟はあるか?』
「あります」
その言葉から少し間を置き短剣が口を開く。
『……今ここに双方の同意はなった。今より魔剣、セルフ・アルヴァンの試練を開始する!』
……ミル。頑張れ。
力を貸すことの出来ない優夜とグレンは心の中でミルの勝利を祈った。
【投稿予定】
8/1 75.セルフ・アルヴァンの試練②




