67.課題
昨晩のレベル上げの成果を話そう。
……結果は、1レベルも上がらなかった。
ランクの低いモンスターだったとはいえ、優夜自身のレベルが2上がるほどは倒した。
つまり、神化のスキルは、
「えげつないほどコスパが悪い」
と、いう事だ。
「こんなスキルを使いこなせとかホーラも無理言うなあ」
スキルをもらってから半日。優夜はいきなり諦めかけていた。
あと二週間しか時間が無いのに……この調子じゃ間に合わない。
「どうすれば……」
優夜が一人頭を悩ませる中、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「優夜。入っていい?」
この声は……。
「良いぞ、サファイア」
優夜が許可を出すと一人の少女が入ってくる。
「久しぶり、優夜」
サファイアはにっこり、とまではいかないが、小さな笑みを浮かべた。
だが、優夜には余裕ができたようにも見えた。
「久しぶりか?まあ、いいや。それより、何でサファイアがいるんだ?」
優夜は疑問に思ったことを聞いた。
「何で?優夜に、会いたかった、から?」
「会いたかったって、そんなちょこちょこ来られても……」
「嫌……?」
サファイアは上目遣いに優夜を見る。
うっ!男子高校生にその攻撃はきつい!効果はばつぐんだ!
「嫌じゃないけど、魔界から人界にそんなハイペースで来て良いのか?見つかったりしないのか?」
「ああ。それなら、大丈夫。サザンガに送ってもらってるから」
ん?確か魔界と人界の境界からここまでって、結構距離あるよな?それなのに見つからないって、王国の警備ざる過ぎない?
……いや、普通は空を通って来るなんて思わないか。……疑ってすいません衛兵さん。
「そっか。なら良いか」
「優夜は、みんなと、行かないの?」
みんな……グレン達の事である。
グレン達はレベル上げのため、森に行ったり、ダンジョンに行ったりしているらしい。俺はというと……。
「ああ、良いんだ。今日はな」
休んでいた。あと二週間しか無いが、俺のスキルのレベルを上げるには強い相手が必要だ。そこで、
「明日から戻って来るエリーさんに修行をしてもらう事になったんだ」
森の入り口辺りにいるモンスターより、めちゃくちゃ強いエリーさんに頼む事にした。もちろん、最後の方は強いモンスターと戦う。だけど、あまり危険は増やしたく無い。
「そっか。じゃあ、今日は、一緒にいる」
サファイアはそう言い、ベッドに座る優夜の隣に座る。
「一緒にいるって、何をするんだ?」
すると、サファイアは怪訝そうな顔をする。
「何か、しないと、だめ?」
途切れ途切れの言葉には強い意志が込められていた。
--優夜と一緒にいたい、と。
「……いや、そんなこと無い。一日くらい暇な日があったって良い」
サファイアはその言葉にぱっと顔を明るくする。
「じゃあ、本、読んで!」
サファイアはどこからか本を取り出し、優夜に見せる。
ん?今どっから出した?
「これ、読んで!……だめ?」
優夜からの返事が無いことに気づいたサファイアは、しょぼんとして、本を持つ腕を下げる。
あ、今はそんな事考えてる場合じゃなかった。……また今度聞くか。
優夜は降ろされた腕を優しく掴む。
「だめじゃないさ。読んであげるからもうちょっとこっちに来い」
すると、サファイアは表情をころっと変え、うんっ!と頷いた。
サファイアって俺といる時は表情豊かだよな。……サザンガといる時は無表情なのに。あいつ、嫌われてるのか?
「じゃあ、読むぞ」
優夜はサファイアから本を受け取り、最初の一ページを開く。
……たまにはこういう日も悪くないな。
優夜はふっ、と笑う。
「?どうしたの?」
サファイアは優夜の僅かな変化も見逃さなかった。
「ああ、いや。何でもない。ここから読めばいいんだな」
「うん!」
サファイアは本を読んでもらうのが、というよりも、誰かに本を読んでもらう事が嬉しかった。
「えっと。…昔々、遥か昔の話。この世界に神が降り立ちました」
これは、この世界が出来た時の事か。ここに出てくる神は、ホーラだな。
「神は天と地を分けられました。それから、海と大地を分けられました。それから……」
優夜は本の内容を一度も噛むことなく読み上げた。
本の内容は聖書に出てくる創世記のアレンジ版だった。どこがアレンジかというと、まあ、モンスターの事とか、魔力の事とか。
だが、一つ気になった所がある。
「神は最後に人間と魔族を分けられました」
この一文だ。
この本に書いてある内容だと、魔族は神が原因で出来たことになる。
前にホーラが言っていた、魔族は人間の変異種だという事は嘘なのか?
いや、変異種自体は嘘じゃないな。ただ、それは神ーーホーラが原因なのか?
……いや、本がでたらめだって可能性はある。安直に考えるのはやめよう。
「サファイア、本読み終わったぞ……って、寝てるじゃん」
優夜は横でぐっすりと眠るサファイアに視線を移す。
「ん、むにゃ。パパ。本、読んで……パパ……いなくならないで……」
サファイアは寝言を口に出す。
優夜はそれを聞いてサファイアの手を握る。
「いなくならないぞ」
すると、サファイアは苦しそうな顔から、嬉しそうで安心した表情をする。
「パパ……むにゃ……」
優夜は本を横に置き、その笑顔をずっと眺めていた。
◇
夜になり、優夜はまた森に来ていた。
「さて、今晩も頑張るか」
優夜は首辺りで腕をぐっと伸ばしながら森の中腹辺りを歩く。
優夜の周りは魔法で照らしているが、それでも100メートル先の見えない暗闇。余裕を持ちながらも警戒して歩いていく。
それから少し経ち、夜行性のモンスター達が唸り声を上げる。
その声は森の木々に木霊し、優夜の耳には不快な音だけが入ってくる。
「そろそろだな」
夜は視界が悪いというだけでなく、モンスターのうち高ランクのものは大体が夜行性なのである。
この情報はギルドでも広く知られており、夜の森で怪我等をしてもギルド側は、冒険者が全ての責任を負うと公言している。
なので、よほどの自信があるか、身の程知らずでなければ、夜の森には入らない。
もちろん、優夜は前者である。
「今日こそ一つくらいレベル上がってくれよ!」
優夜は森の中を駆け回る。
そして、モンスタ―達の悲鳴が上がる。
【投稿予定】
7/5 68.緊急依頼




