64.【宝石妃】サファイア
「みんな。武器を下ろして。こいつは敵じゃない」
優夜は魔族に背を向け、グレン達を説得する。
「知り合いなのか?優夜」
グレンは武器を構えたまま聞く。
まあ、流石にあれで説得出来るとは思ってないけどさ。
なら、こっちは切り札を使わせてもらう。
「ああ。知り合いだ。なあ?ティーネ」
切り札ーーそう。ティーネに振る!
ティーネの信用が有れば説得出来るはず。
「はい。以前魔界で会いました。一応敵ではありません」
ティーネは一応を強調して言う。
ティーネまだ根に持ってるんだ……。サザンガが俺をゴミって言った事。
「……そうか。ティーネが言うなら信じるか」
グレンはそう言い武器をしまう。
グレンに続きミル達も武器をしまう。
え、ちょっと待って。俺そんなに信用出来ない?
「何か不本意な終わり方だけど……説得したぞ。サザンガ」
優夜はぶつぶつ呟きながら魔族の方を向く。
「そうか。では、もう少し奥に行くぞ。ここでは話にくい」
サザンガは先行して森の奥へ進む。それに少女、優夜達が付いて行く。
森の入り口でも人は少ないけどな。
……一体、何を話すんだろ?
30分後。
森の中腹。以前優夜が昼食を取った場所まで来た。
「ここまで来れば十分だな」
サザンガは足を止める。
「それで、今日はどうしたんだ?」
いや、実際は分かってる。ただ聞きたかっただけだ。
サザンガは優夜を真剣な顔で見つめる。
「まず、最初に謝っておきたい。すまない」
サザンガは頑固そうな頭を下げる。
優夜はその行動に驚きを示すが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「一体、何があったんだ?」
「魔王様を説得する事が出来なかった。いや、それどころか人界へ攻める日程を早めてしまった」
なるほど。
「まあ、魔王を説得っていうのは多分無理だろうとは思ってたけど、人界に攻めるのが早くなったってどういう事だ?」
「……実は、エンガ様に優夜の存在を知られたのだ」
ふむ。エンガって確か四天王の一人か。そこから魔王に伝わったってことか。
「リンカ、エリス。この話はメル、フリューネにも聞いてほしい」
二人は優夜に頷き、精霊妃を出す。
「それで、具体的にはいつなんだ?」
優夜の言葉にサザンガは申し訳なさそうに俯く。
「……二週間後だ……」
その言葉に全員が驚愕する。
まじかよ。流石に早くないか。今から対策するにしてもギリギリだぞ。
「……そうだな。その事は後でフェザードさんに伝えよう。サザンガ、次にそこの少女は誰だ?」
サザンガと一緒にいるってことは敵では無さそうだけど。
優夜は外見からして、10歳くらいの少女に視線を移す。
うーん。人間、だよな。肌も白いし、変な部分も無い。だけど、結構高そうな服着てるな。貴族なのか?
「その方はサファイア様だ。人間に見えるがスキルでそう見えるだけであって、実際は魔族…魔王様の娘だ」
サザンガの発言に全員が耳を疑う。
「魔王の、娘……」
確かに、それなら身なりの説明もつくし、サザンガが嘘を言ってるようにも思えないからな。
優夜は驚きはしたものの、すぐに納得する。
「その人間に見えるスキルというのは魔族の中でも一般的なのですか?」
エリスが声を上げる。
まだ17の少女とはいえ、一国の王女なのである。国の王女としてエリスは質問をした。
もし、そのスキルが一般的なものであれば、王国には魔族が自由に出入り出来る事になる。それは王国、いや、人間にとって由々しき事態だ。
だが、エリスの思いは杞憂だった。
「いや。俺が知る限りでは、サファイア様一人だけだ」
サザンガは首を横に振って答える。
その答えにエリスは胸を撫で下ろし、ほっと息を吐く。
「さて、質問はもういいか?......では、本題に入るぞ」
サザンガは優夜達を見回した後、更に真剣な顔をする。
……結構凄い顔だよ?なんか、蛇に睨まれた蛙がしてる顔みたいな……あ、分からない?
「本題……?」
優夜はごくり、と唾を飲む。
「ああ。ここにサファイア様を連れて来たのは、優夜を連れて来てもらうため。そしてもう一つ、解放軍の説明をしてもらうためだ」
「解放軍……?」
優夜は聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
「解放軍とは、その名の通り、魔族を魔王様の手から魔族の民を解放する、という目的...宿命を果たすための軍だ」
目的を宿命に言い直したのは、それほど強い意志が込められているからだろう。
「なるほど。それで、そのサファイアって子がその軍のリーダーという訳か」
「私は、リーダーになったつもりは、無い……」
今まで無口だった少女……サファイアは口を開く。
「おっ?そうなのか。じゃあ誰がリーダーなんだ?」
「みんな、リーダーになろうと、しない…。私も、ならない…」
サファイアは途切れ途切れに、ゆっくりと言葉を繋ぐ。優夜とは視線を合わせず。
「ふむ。つまりは、リーダーはいないって事か」
サファイアは優夜に頷く。
「それで、解放軍の説明ってなんだ?」
サファイアは優夜の言葉に頷き、説明を始める。またも、優夜とは視線を合わせずに。
……この子。人見知りなんだ。
優夜はサファイアの行動を見て、確信するのだった。
「かいほうぐんは、パパから国のみんなを守る、そのために、なにをするか考えた…」
サファイアは続ける。
「そしたら、パパを殺す、ことにした」
幼い少女の口からとんでもない言葉が出る。
「「「「「「「「「「「……!」」」」」」」」」」
全員が言葉を失う。
無理も無いだろう。幼い少女が、自らの父を殺すと発言したのだから。
しかし、ここで優夜がある事に気が付く。
「……あれ?そういや、魔王が復活したのって最近、だよな?サファイアの見た目からして……歳、合わなくね?」
優夜の言葉に全員があっ、という顔をする。
「私は、パパに拾われた。だけど、パパは私の相手に、なってくれなかった。話したことも、少しだけ。だから、気遣い、いらない…」
その言葉にサファイアが答えるように言う。
だが、誰も口を開こうとは思わなかった。
たとえ、あまり関わらなかった、といえど、親は親である。それを殺す事に、抵抗が無いはずがないからだ。
そして、沈黙を破るようにしてサファイアが口を開いた。
「優夜。あなたには、手伝って、ほしい…」
サファイアは懇願するように優夜を見た。
これが、初めて優夜と目を合わした瞬間だった。
……綺麗な青だ……。 そう思った時、優夜は何かを感じた。
--この子を、泣かせるのか?--
「なあ、サファイア。魔王を救いたいか?」
魔王が何かに侵されているのは分かってる。以前サザンガの言った「今代の魔王は復活してから人界へ攻めることしか考えてない」というう言葉や、サファイアの「相手をしてくれなかった」という発言から推測した。間違ってなんかない。そもそも、娘の相手をしない親なんているもんか!そんな親は親として失格だ!
そんな思いがあったから、俺はこの言葉を言ったのかも知れない。
「今の俺なら、君の親を救える」
その言葉に、サファイアの涙腺は決壊する。
「うわああぁあん!……たす……けて……。パパを、助けて!」
とても力強く、また弱い、少女の瞳はとても美しく優夜の目に映った。
だから、こんな言葉を言ったのかも知れない。
「ああ。任せろ!」
優夜は少女に、にかっ、と笑った。
【投稿予定】
6/26 65.サファイアの過去




