55.勇者の休暇
ミノタウロスキングを討伐した翌日。(報酬は一人金貨2枚だった)
あの後優夜達はグレンの泊まっている宿(一泊銅貨5枚)に泊まった。
そして、新しいベッドに慣れず、あまり眠れなかった優夜は目を擦りながらふと思う。
「って、俺。最近休んで無くね?」
優夜は休み無しの旅に疲れていたのだ。
「エリスを仲間にしてからずっと休んで無いな……。リンカを仲間にした時に海に行ったけど、リヴァイアサンに邪魔されて結局休みにならなかったし。よし!決めた。今日は休みにするぞ!」
優夜は今日は一日体を休めると固く決意するのだった。
『んん。どうしたのだ優夜。朝から大声を出して』
「ワウ?」
「あ。起こしちゃったか、ごめんな。いやな、今日は休むって事にしたんだ。あっそうだ。白とルウも来るか?」
『おお!それは良いな。我もついて行くぞ』
「ワウ!」
白とルウも賛成のようだ。
「じゃあ、ティーネ達に伝えに行くぞ」
『うむ』
「ワウ」
俺が部屋を出ると白とルウはその後ろをとことこついてきた。
「今日は休みですか。良いですね。最近は戦ってばかりでしたので。今日はゆっくりしましょう」
よし。ティーネさんのお墨付きも貰えたし。今日はゆっくり街でも回るか。
「そうだ。ティーネも一緒に来るか?」
「いえ。休みの日はやりたい事がありましたので」
「すみません。休みが少なくて」
次からはもう少し休みを増やそう。
べ、別にティーネと一緒にいれないのが嫌だからとかじゃ無いからな!
「あ、優夜様。今日は早めにお帰り下さい」
ん?なにかあるのかな?
「分かった。じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ。優夜様」
少し残念そうに宿を出る優夜にティーネは笑顔で見送る。
◇
「さて、街を回ると言ってもね、具体的には何をしようか」
優夜は街を歩きながら腕を組み顔を俯けて考えていた。
そんな体制で誰かにぶつからない訳もなく、見事に優夜は前方から走ってきた人にぶつかった。
「痛っ……ってすみません!俺の不注意で……」
優夜はぶつかった人にぺこぺこ頭を下げて謝る。
「い、いえ。私の方こそすみませんでした」
この人……女の人か?フード被ってるから顔が見えないけど。声は確かに女性の声だ。
優夜はぶつかって倒れた女性?に手を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、それより、何か急いでたのでは?」
優夜が尋ねると女性ははっと顔を上げる。
その一瞬。フードのせいで良くは見えなかったが女性の顔が見れた。
……っ。綺麗な人だな。いつもティーネ達と一緒にいなかったら見惚れてたとこだった。
その女性は常日頃から容姿端麗、才色兼備の女性に囲まれている優夜ですら気後れするほどだった。
「はっ。すみません。もう行かないと」
「いえ、大丈夫です。ぶつかってすみませんでした」
優夜は急いでいる所を止めてしまった事に罪悪感を感じ謝る。
「では、これで」
女性は優夜に頭を下げると走り去っていった。
「んー。何をあんなに急いでたんだろ?フードまで被ってたし。まさか誰かに追われてるとか?……それこそまさかだな。そんな話ある訳ないか。さてと、……あれ?白とルウはどこだ?」
『優夜、こっちだ』
「ワウ」
優夜がきょろきょろと見渡すとさっき女性が転んだ場所にいた。
「どうしたんだ?白?」
『これだ。先程の女が落としていった』
白が指?差す方向を見ると指輪があった。
白は口でそれを挟むと優夜に渡す。
「これ。さっきの人が落としていったのか?」
『うむ。そのようだ。だが、気にすべき所はそこだけでは無い』
珍しく白が真剣な顔をする。(猫だから真剣な顔って言ってもあんまり分からない)
「どうゆう事だ?」
思っても無い言葉に聞き返す優夜。
『その指輪には"聖気"がある』
「聖気?」
なんだそれ?聞いた事ないぞ?
『知らないのも無理はない。聖気とは神の眷族たる神獣にのみ与えられるものだ』
「へえ。……ってそれがなんで指輪に?」
聖気が神獣にしか無いんだったらこれがその神獣になるけど。それは無いよな。
優夜は自分の馬鹿げた考えを頭から放り出す。
『考えられるのは可能性は二つ。彼女は神獣と関係を持っている。そしてもう一つは、彼女自身が神の眷族であるという事だ』
「一つ目は分かるけど二つ目はあり得るのか?」
まあ、あの人が神の眷族ならあの美人も頷けるけどな。
『んー。まあ、普通はあり得ないな。だが、優夜からは何故か聖気を感じるのだが?』
あ。あー。俺はねえ。ホーラさんがいたから。
「俺はあれだ。さっき白も言ってたろ。神獣と一緒にいるからって俺もそれだよ」
『そうか。その割には相当な聖気なのだが……。まあ、それは良い。話を戻すが、つまりどちらにせよ彼女は神に関係しているという事だ』
「えっと。じゃあ、追いかける?」
『勿論だ』
ですよねー。ああ。俺の、俺の休みがー!!
優夜は自分の休暇を潰された事に恨もうとしたが、優夜には恨む相手がおらずその思いは空回りした。
『では、行くぞ』
「ワウ」
「はい……」
優夜とルウは白の後をとぼとぼついていくのだった。
◇
ここは優夜がミノタウロスキングを討伐した森の入り口。
そこに一人の女性が来ていた。
「流石にここまで来れば……!」
女性は言葉を中断すると自分の手を見る。
「指輪が……無い……!」
一体どこで落としてしまったのだろうか。
まさか!あの時、ぶつかった時に落としたのか。
くっ。でも今は捕まらない方が優先だ。
「すみません。ハル様。もう少しだけ歩けますか?」
女性は隣で座っている獣人に話かける。
「うむ。大丈夫じゃ。こちらの方こそすまぬな。お主ばかりに無理させて」
隣で座っている獣人は申し訳なさそうに顔を俯く。
「いえ。私は土の勇者としてハル様のお役に立ててるだけで十分ですよ」
自らを土の勇者と言った女性は笑顔で返答する。
「そうか……」
二人はそのまま森の奥へと進んでいった。
【投稿予定】
5/30 56.ティーネ達の休暇




