47.火の都メルルラ
リヴァイアサンを討伐した次の日。リンカの屋敷で十分な休息を取り、体力が回復した優夜達は土の勇者を仲間にするため、旅を再開する事にした。
「これで良し、と」
優夜はリヴァイアサンから魔石などのギルドで買い取って貰える部位を取りフェザードさんから貰ったかばんに入れる。
「では優夜様。行きますか?」
旅支度を整えたティーネが解体を終えた優夜に聞く。
「ああ、そうだな。リンカ達も準備出来たか?」
ティーネの問いに答えた優夜はリンカ達に聞く。
「はい。準備万端です!」
優夜の問いにリンカが元気よく答え、他の3人もそれに頷く。
「良し。じゃあフリューネ。土の精霊妃は今何処に居るか教えてくれるか?」
「はい。土の精霊妃は東に20キロ程の所に居ますわ」
「前から結構移動したんだな。……東に20キロか。するとその間にある街は……メルルラって街が途中にあるな。今日はそこまで行くか」
「メルルラ……ですか」
優夜が次に行く場所を決めた所でメルが不安そうな声を上げる。
「ん?メルは嫌か?」
「いえ、そういう訳ではなく……」
よく見るとメルだけでなくリンカも顔をしかめている。
「……別に行きたくないなら言っていいんだぞ?その時は野宿になるけど」
優夜はリンカとメルを思い別の提案をする。
「いや、本当に良いんだ。優夜。メルルラには僕の家があるってだけなんだ」
先程まで口を閉ざしていたリンカは、優夜の提案を聞き口を開く。
「リンカの家か。行ってみたいかもな」
優夜は期待混じりの声で言う。
「それなんだけど……その家は今ディクフォード家の物なんだ」
「えっ……」
リンカの家に行けなくなった事とリンカの家が乗っ取られた事実に落胆の声を上げる優夜。
「前に優夜には言ったよね。僕は勇者の地位を剥奪されたって」
「ああ、それでここに追いやられたって言ってたな」
「うん。それでね、その時に一緒に家も持ってかれちゃったんだ。そのディクフォード家に」
悲しい思い出を振り返るかのようにリンカは言う。
「そのディクフォード家って何なんだ?」
異世界に転生して1ヶ月程が過ぎた優夜は知らない言葉に疑問を覚える。
「優夜は知らないの?三大公爵家の一つで貴族の中で最も礼法に厳しいとも言われてる家だよ」
ディクフォードという言葉に聞き覚えの無い優夜に教えるリンカ。
「へえ。じゃあリーナと同じ位って事か……」
でも礼法に厳しいって事は普通の喋り方じゃ駄目だよな。
……出来ればあまり関わりたく無いな。
自分が既に知り合っているとは知らない優夜はそんな事を考えるのだった。
「じゃあリンカはメルルラにあまり良い思い出は無いってことか」
「………うん。メルルラやそのディクフォード家は悪く無いんだけどね。メルルラは僕の故郷だし、ディクフォード家は罪人を裁いた。別に悪い事はしてないからね」
「うーん。じゃあメルルラに行くのはやめるか?」
俺の提案にリンカとメル以外は反対をしなかった。
「ん?リンカはメルルラには良い思い出が無いんだよな?」
「そうだけど、優夜達にはメルルラで良い思い出を作って欲しいんだ」
リンカはお願いをする様に優夜に言う。
「……分かった。じゃあメルルラに行こう」
「うん」
「私はリンカについて行くだけです」
こうして、優夜達はアクリオン辺境伯領を出発しメルルラを目指し旅立った。
◇
ガッハ ディクフォード家本邸
旅支度を整えたグレンとミルは玄関で口論をしていた。
「何で駄目なんだよ!母さん」
普段は出さない大声を出すグレン。
「駄目に決まってるでしょう!冒険者になるのだってガッハの中だからかろうじて許したものを、今度は旅に出るなんて!私は心配しているのよ!貴方達はディクフォード家の大事な跡取りなんだから、もし貴方達に何かあったら私は……」
グレンの母は旅に出ようとする二人を必死に止めようとする。
「お母さんが心配してるのはこの家の跡取りとしてでしょ!私達の事なんて心配してない。お母さんはこの家の跡取りが欲しいだけ。そんなに跡取りが欲しいなら他の家から養子でも取れば良いじゃん。とにかく私もグレン兄さんについて行くから」
母の言葉に激情するミル。
「まあ!なんて事を言うのミル!私はちゃんと貴方達の事を心配して言っているのよ?王国を支える公爵家であるディクフォード家の一員として、跡取りとして、私はちゃんと貴方達を心配しているのよ?」
「だからそれは私達の事じゃ無いでしょ!?魔法の才に恵まれたディクフォード家の子供としてでしょ!それは私とグレン兄さんの事じゃない!」
自分の中に沸き起こる怒りを目の前に居る母親にぶつけるミル。
「…………分かったわ。もう勝手にしなさい。でも、これだけは言わせて。貴方達だけは居なくならないでちょうだい」
毒気を抜かれた母は静かに言う。本当はこちらがいつもの姿なのかもしれない。
「母さん……」
「お母さん……」
母の本音を聞き自分を少し恨む二人。
「二人にはずっと言わなかった事があるの。それは、貴方達の父親はもういなくなっている事よ」
「「!」」
母の口から発せられた事実に言葉を失う二人。
「じゃあ、いつも一緒にご飯を食べたあの人は……」
その先の答えを薄々勘付きながらも聞くグレン。
「貴方達はもう分かってると思うけど、あの人は私が雇ってる護衛の人よ。貴方達に父親がいないことを知られない為に父親の振りをして貰ったの」
申し訳なさそうに話す母。
「そんな……どうして……」
事実を信じきれないミルは理由を聞く。
「私は怖いのよ。貴方達に父親はいない話して貴方達がどんな反応をするのかが」
もし小さい時に聞いていたらどうなっていたか。
その答えを考えた二人は俯く。
「だからずっと隠してたの。……ごめんなさい。黙ってて」
頭を下げる母にグレンは近づく。
「母さん。俺とミルはいなくならないよ。約束する」
愛する息子に抱きしめられ涙を流す母。
「ごめんなさい。ディクフォード家の跡取りだから、ディクフォード家の一員としてなんて言葉は嘘。本当は怖いだけなの。夫を失くし、更に"グレン"と"ミル"まで失くしたらと思うと……」
本音を子供達に打ち明ける母。
「大丈夫だよ。お母さん。私達はいなくならないよ。だって、強いもん」
泣いている母に誇らしげに言うミル。
「ふふっ。……行ってらっしゃい。グレン、ミル。貴方達は私の誇る自慢の子供よ。その力を旅先で見せびらかしてきなさい。なんてったって、ディクフォード家が誇る【紅蓮の剣聖】と【炎雷の魔女】なんだから」
涙を拭き、調子を取り戻した母は二人の背中を押して言う。
「剣聖なんて……優夜にすら勝てないのに」
「その変なのやめてって言ってるじゃん!」
二人は母の言葉に文句を言う。
「はいはい。グレン。今からその優夜君に会いに行くんでしょう?」
「!何で母さんが知ってるのさ?」
母の言葉に驚くグレン。
「当たり前でしょう。優夜君はグレンの初めての友達なんだから」
母は口論で乱れた二人の身だしなみを整えながら言う。
「母さんにはばれてたか」
母の推理に微笑するグレン。
「これで良しと。優夜君に会うのにだらしない格好じゃ駄目でしょう」
「ありがとう」
「ありがとう、お母さん」
二人は母に礼を言う。
「良いのよ。さあ、早く行きなさい。じゃないとまた喧嘩する事になるわよ?」
母は背中を押し二人を玄関から出して言う。
「それは困るな。じゃあ行くか、ミル」
「うん!」
歩き出すグレンについて行くミル。
「……行ってらっしゃい……」
母は歩く二人の背を見送りながら小声で呟くのだった。
【投稿予定】
4/27 48.自慢の兄




