46.海とモンスター④
ティーネ達の魔法詠唱には2分くらいかかる。
覚醒者じゃあ30秒しか稼げないし。どうやってティーネ達の時間を稼ごうか。
………なるべく使いたく無かったけど。神聖魔法を使うか。
『グギャアアアア!!』
リヴァイアサンはスキルの影響で理性を失い暴れ回る。
リヴァイアサンの尾や頭にぶつかった砂浜は底が見えない程えぐられている。
「何あれ!?」
リンカがリヴァイアサンを見て驚きの声を上げる。
「まるで理性を失った化け物だな。いや、その通りか。神聖魔法『神の監獄』」
優夜が魔法を発動するとリヴァイアサンが檻に閉じ込められる。
「神聖魔法って何でこんな魔力消費が激しいんだ?今一瞬、ごっそり抜かれた気がしたぞ。まあ、強いんだけどさ」
神の監獄は相手を檻に閉じ込め一定ダメージを与えない限り壊す事は出来ない。
「これでどれだけ時間を稼げるか」
『グギャアアアア!!』
リヴァイアサンは檻に閉じ込められた後も暴れ続ける。
そして、20秒程で檻に亀裂が入る。
「おいおい。まじかよ………」
亀裂の入った檻を見て優夜は呆れた声を出す。
『グギャアアアア!!』
檻に亀裂が入ってから更に10秒。遂に檻はリヴァイアサンの攻撃に耐えられなくなり粉々に壊れる。
「くっそ。まだ全然経ってねえぞ。魔力が足りないからもう一回は無理だし」
優夜が次の手を考えていると背後から肩を叩かれる。
「優夜。僕がいる事忘れてない?」
優夜はリンカの顔を見てはっとする。
「リンカ!リンカの模倣魔法を使わせてくれ」
「もちろん!」
リンカは優夜のお願いに胸を張って答える。
「それで?僕の模倣魔法を何に使うの?」
「その模倣魔法ってさ。俺の魔法も使えたりする?」
「出来るよ」
「まじか!」
「何の魔法を模倣するの?」
「さっきリヴァイアサンを閉じ込めたやつだよ。出来るか?」
「出来るよ!でも優夜程長くは閉じ込められ無いと思うよ」
リンカは自信満々に答えた後申し訳なさそうに言う。
「少しでも時間を稼げれば良いさ。それで、何回その魔法を使える?」
回数が多ければその分時間を稼げるからな。あまり使えなかったらその時は俺が頑張るしか無いけど。
「4回、かな」
「よし、十分だ」
一回15秒稼げたとして1分。後は覚醒者を使えば合計2分だ。
「分かった。じゃあやってみるね」
リンカは優夜に背を向け手を前に伸ばす。
「模倣魔法『神の監獄』」
リンカが魔法を唱えると暴れ回るリヴァイアサンの上空に檻が現れる。そして、檻はそのまま降下しリヴァイアサンを閉じ込める。
『グギャアアアア!!』
理性を失ったリヴァイアサンは自分の体を檻にぶつけ、暴れ回る。
リヴァイアサンを檻に閉じ込めてから5秒。檻に亀裂が入る。
くっ。早い。後10秒。耐えてくれ!
優夜の思いはリンカの檻には届かずリヴァイアサンを閉じ込めてから10秒。遂に檻が粉々に壊れる。
「まだまだ。模倣魔法『神の監獄』」
それからリンカが模倣魔法を使うこと3回。計40秒。リンカの魔力が切れる。
「ごめん、優夜。あまり時間稼ぎ出来なかった」
リンカはふらついた様子で優夜に頭を下げて謝る。
「謝る事はない。俺一人だったらこんなに稼げて無いさ。……それに、まだ終わりじゃ無いぞ」
「え?」
リンカは顔を上げ、首を傾げる。
「これからが本番だ」
優夜は額に汗を垂らしながらも笑顔で言う。
◇
ここは優夜様のいる場所から少し離れた所。ここで私は魔法詠唱をしている。
ああ、何故魔法詠唱にはこんなにも時間がかかるのか。何故優夜様は無詠唱で魔法を使えるのか。
不満や謎が私の頭の中を巡る。
目の前では優夜様が私達の為に時間を稼ごうと必死になってリヴァイアサンを相手している。
それなのに自分は魔法の詠唱しか出来ない。私には近接戦は出来ない。私にあるのは魔力と魔法のみ。だから優夜様には任せっきりになっている。
それでは駄目だ。私はあの人の力になると決めた。なのに、今の私は全く力になれていない。
魔法詠唱をする為に優夜様は近接戦をし、魔法詠唱の邪魔をさせない為に優夜様が時間稼ぎをする。
そうじゃない。優夜様と私が一緒に戦う。息を合わせて攻撃をする。私はそういう戦いをしたい。その為に私はここにいる。
何故魔法は詠唱が必要なのか?何故高位の魔法になればなるほど詠唱に時間がかかるのか?
……本当は全て違うのではないのか?魔法に詠唱は必要ではないし、高位の魔法だからといって詠唱を長くしなければならない訳ではない。
試してみようか?ここで。無詠唱を。
でも、それで失敗をすればどうなるだろう。
リヴァイアサンを倒すにはあと一歩足りず、優夜様はまた時間を稼がなければならなくなる。
それは駄目だ。それでは優夜様に更に負荷を掛けることになる。
目の前で優夜様は今本気を出している。恐らくもう一度時間稼ぎをする力は無い。
でも、優夜様の助けに、力になれる可能性が少しでもあるならば、私は。
「私はその可能性に全てを賭ける!」
そう言い、ティーネは詠唱をやめ優夜の元へ走っていく。
◇
さて、この戦いで最後まで残してた"あれ"を使うか。
『覚醒者発動』
自分の中の力が湧き上がるのが分かる。
よし。あと30秒稼ぐぞ。
優夜は縮地を使いリヴァイアサンの頭の上に乗る。
「少し大人しくしろ!」
優夜は思いっきり腕を振りかぶりリヴァイアサンの頭に叩き落とす。
ボゴッ!と鈍い音がし、リヴァイアサンの悲鳴が美しい海に響き渡る。
「うるせえ。こいつ殴るのやめよっかな。でも気を引かないとティーネ達の方に行くからなー」
何故かリヴァイアサンは凶化してからもティーネ達の方へ進もうとしている。
……魔法喰らって痛くて怒ったのか……。
「ま、良いや。あと30秒殴ってよ」
優夜がリヴァイアサンを殴り続け20秒が経った時だった。
リヴァイアサンが一回転し、優夜を尾で叩き落とそうとする。
「やべっ!」
殴ってたのが効いたのか?こいつ狙いを俺に変えやがった!
優夜はリヴァイアサンの頭から落ち、崩れた体勢を立て直そうとしたが、リヴァイアサンの尾を喰らい海に叩き落とされる。
遠くからリンカの悲鳴が聞こえる。
「がっ!!」
まずいまずいまずいまずいまずい!
甘く考え過ぎてた。ああ、くそ!今後悔しても遅いんだよ!
取り敢えず海から出よう。ここで襲われたらひとたまりもない。
『グギャアアアア!!』
「!」
優夜が海から出ようと風属性魔法を準備し終えた時、横からリヴァイアサンが口を大きく開けて突進してくる。
「っ!」
優夜は間一髪でリヴァイアサンの突進を避ける。
ここにいると上手く動けないし、もう少しいると息が続かなくなる!
優夜はもう一度突進してくるリヴァイアサンの頭を殴り、リヴァイアサンがよろめいたところで風属性魔法を使う。
魔法を使った優夜は海から出て浜辺に降りると地面に膝をつく。
「まずいな。魔力切れか。早くここを移動しないと」
優夜は魔力が無いため魔法もスキルも使えず、ふらつく足で移動するしかなかった。
「優夜!後ろ!」
魔力が無くなり休んでいたリンカの声が聞こえ優夜は後ろを向く。
すると、そこには優夜目掛けて突進してくるリヴァイアサンがいた。
「優夜様!」
「優夜!」
「優夜さん!」
詠唱をやめ、こっちへ向かってくるエリスとメル。そしてふらつきながらも優夜を助けようとするリンカ。
何で詠唱やめてんだよ。……それにもう間に合わない。
優夜が剣を構えふらつく足で何とか立ち、リヴァイアサンを迎え撃とうとする。
「精霊魔法!『水霊の制裁』」
優夜に突進をするリヴァイアサンの横腹を無数の水の剣が貫く。
『グギャアアアアアアアア!!!』
リヴァイアサンは今日一番の悲鳴を上げると力を失い優夜の前で倒れる。
「優夜様!!」
何が起こったのか分からず呆然とする優夜に泣きながら飛び込むティーネ。
「………ティーネ。今のは……」
「はい。私の魔法です」
驚きを隠せない優夜の問いにティーネは答える。
「でも、今の詠唱は?」
「優夜様がよくやってるじゃ無いですか。無詠唱ですよ」
ティーネの答えを理解できない優夜にティーネは微笑を浮かべながら言う。
「え?ティーネが無詠唱を?………いや、今はいい。それよりも、ありがとな。ティーネ。俺を助けてくれて。驚きはあるけどそれよりも感謝しないとな。あそこでティーネが魔法を使ってなきゃ俺は死んでた」
「いえ。優夜様を助けるのは当たり前の事です。……優夜様。私は優夜様の力になれましたか?」
「当たり前だ!今回の勝利はティーネのお陰だ!」
ティーネは優夜の言葉に抑えていた涙を爆発させる。
やっと。やっとなれたんだ。優夜様の力に。これで私は優夜様と一緒に戦える。
「さて、少し休んでから帰るか」
「「「「「はい!」」」」」
優夜の提案に全員が賛成する。
あ、フリューネ出てきた。これはお仕置き案件だな。
「フリューネ。後でたっぷりお話しましょう」
体全体で怒っているのが伝わるエリスがフリューネに怒気のこもった声で言う。
お、エリスもフリューネに言いたい事があるようだな。俺も混ぜてもらおう。
……でも、その前に、今は休もう。………何か、疲れた。
火の勇者を仲間にした優夜は見事リヴァイアサンを打ち倒したのだった。
海とモンスター 完
【投稿予定】
4/24 47.火の都メルルラ




