21.別れ
ティーネを取り戻してから2日が経った。
俺とティーネはギルド長に今回の結果とこれからの事を話す為に、冒険者ギルドに来ていた。
「優夜、無事にティーネを取り戻せて良かったな」
「はい。その件はありがとうございました」
「いや、礼なんていいさ。これからもこの街でやってくれるならな」
フェザードさんにあの事を話さないと。
「フェザードさん。俺、旅をします」
その言葉を聞きフェザードさんは驚くことは無かったが顔が曇った。
「そうか。もう、するのか………」
「知ってたんですか?」
「ああ、優夜が勇者になったと聞いてからな、薄々思ってはいたんだ」
フェザードさんはそのまま続ける。
「だが、優夜。旅をするのも理由があるんだろ?」
「はい。まずはこの世界にいる精霊妃と、勇者の子孫を仲間にしたいと思ってます」
「勇者の子孫と精霊妃か………優夜一つ情報を知っているぞ」
フェザードさんがいきなり言ってきた。まじか、それはありがたい。聞いておこう。
「何ですか?」
「精霊妃は風の属性だ。そして契約者はこの国の王女だ」
「へぇーって王女!?」
「ん?珍しい事ではないぞ。200年前の人魔戦争の終結の鍵となった勇者は王から大公の爵位を授かり、そのまま王を引き継いだからな。まあ、水の勇者はその場には居なかったらしいがな」
大公か。やっぱ勇者ってだけはあるよな。
この世界の貴族の爵位は上から順に王族、大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵、の九つだ。
公爵から伯爵までが上級貴族。子爵と男爵が下級貴族になっている。騎士爵は形だけのもので騎士もしくは平民として扱われる。
そして、九つの爵位のうち王位継承権があるのは王族と大公だけだ。
ちなみに、この街は土地を治めている領主がいない珍しい街だ。何故いないのかは知らん。もしかしたら五代英雄が関係してるのかも。
「では、最初は王都を目指す事にします」
「俺もそれが良いと思う。それに、風の精霊妃は他の精霊妃の居場所が分かると言うしな」
そういえば、ティーネも同じ事言ってたな。あれ、ほんとだったのか。
「今すぐに出発………としたいとこなんですがグレン達に別れの挨拶をしてないですし、まだ準備も整ってないので後3日はこの街にいると思います」
「そうか。何か必要な物があったら言ってくれ。その時は助けになれるだろう」
「いえ、そんなにしなくても良いですよ」
「優夜。人の好意は受け取れる時に受け取った方が良いぞ。それに今の優夜は勇者だ。手助けするのは当たり前だろう」
好意を受け取れって言われても、フェザードさんにはいつも良くしてもらってるしな。
「分かりました。でも、必要な物って言っても回復瓶と、魔力回復瓶と、カバンくらいですよ」
「そうか、すぐに用意する」
なんか嫌な予感がするけど、とりあえず任せよう。
「はい。お願いします」
〜2時間後〜
ギルド長室でフェザードさんを待っていると疲れ果てた様子のフェザードさんが戻ってきた。
「回復瓶と魔力回復瓶とカバンの用意が出来たぞ」
「早っ!」
まあ、早い事に越したことはないし、ありがたいのだがもう少し体を考えてくれ。てかなんで部下とかにやらせなかったんだろう。
そう考えつつ用意してくれた物を見ると、中には普通のように見える回復瓶が30本と、魔力回復瓶が30本と手提げカバンが一つあった。
「ほっ。なんか凄いの用意してくると思ってたけど普通みたいだ。良かった」
ほんと良かった。ただでさえフェザードさんには貸しがあるのに更に増やしたくはなかった。
「ああ、その回復瓶と魔力回復瓶は超級の物だ。カバンはアイテムボックスが付与されている」
「全然普通じゃなかった!」
「そりゃ当たり前だろ。勇者に普通の回復瓶と魔力回復瓶なんて渡せるわけないだろ。カバンはアイテムボックスが付与されてれば色々と便利そうだから付けといた」
「確かにそうですけど、そうなんですが………」
「まあ、とりあえず受け取っておけ」
「はい……………」
また貸しを作ってしまった。これは魔王を倒し次第早急に返済しなければ。
◇
フェザードさんから色々と貰った次の日、俺は街を散策していた。ティーネはどこか行きたい場所があると言って、別行動をしている。
「この街にいるのもあと2日か。グレン達に言えるといいな」
そう言いながら歩を進める。そして、
「お、優夜。久しぶりだな」
「グレン!」
「私もいるよ。優夜くん」
「ミル!二人とも今日は何をしに来たんだ?」
「いや、特別何かするって事はないさ。ただの買い物だよ」
「そうか。それ、付き合っていいか?」
「いいが、本当に普通の買い物だぞ」
「ああ、別にいい」
グレンは首を傾げながらも同行を許可した。
二人の買い物にひと段落ついたところで俺達は休む事にした。
「そういえば今日はティーネがいないんだな」
「今日は別行動なんだ」
「そうなのか。それで、話って何だ?」
「これは二人には言わなくちゃいけない事なんだ。実は――」
俺はグレン達に旅に出る事や、仲間を集めて魔王を倒しに行く事を話した。
「という事は優夜はそれが終わるまでこの街には帰ってこないのか?」
「多分……な」
「そうか………。分かった、優夜が考えた事だしな。俺も応援する。まあ、白猫団が休止になるがな」
「私も賛成だよ!」
「ありがとう、二人とも。………あとはユナか。どこにいるんだろ」
「ユナちゃんならいつも宝石店で宝石を見てるよ」
「宝石か」
そういえばティーネに渡したペンダント。今日付けてたよなぁ。
「分かった。行ってみる」
「ああ、じゃあな」
「じゃあね」
宝石店は冒険者ギルドを少し進んだ所にあり、看板もあるので分かりやすい。
俺は宝石店まで歩き、中に入る。すると、中にはミルの言った通りユナがいた。ただ、
「あれ、優夜様。どうして、来たんですか?」
慌てた様子のティーネもいた。
「優夜様。久しぶりです」
「ああ、久しぶり。ティーネ、俺はユナに話があるから、ここにいていいぞ」
「はい、分かりました」
ティーネは少し残念そうだった。乙女心はよく分からん。
「ユナ、俺は旅に出る事にした」
「はい。知ってます。お父さんから聞きました」
あ、聞いてたんだ。なら良かった。
「なら、別にいっか」
「はい。それでは、私は他に行く場所があるので」
「ああ、引き止めて悪かった」
「いえ。では」
そう言い、ユナは宝石店を出て行った。
「それで、ティーネの行きたい場所ってここか?」
「はい。そうです」
ティーネは何か買ったようで手には袋があった。
「何を買ったんだ?」
「ふふ、秘密です」
ティーネは何故か嬉しそうだった。
1日とはすぐに過ぎてくもので宝石店を出た頃には辺りには夕日が差していた。
「じゃあ宿に戻るか」
「あの、一つ行きたい場所があります」
「ん?いいぞ。行こうか」
「はい!」
ティーネは嬉しそうに答えた。なんかあったのか?
俺がティーネに連れられて来たのは夕日が見える丘だった。
「ここは……」
「別行動してた時に調べたんですよ。夕日が一番よく見える場所を。そしたらこの場所を見つけたんです」
「ここを俺の為に?」
「はい」
「そっか。ありがとな、ティーネ」
「喜んで頂けて私も嬉しいです!」
ティーネはまるで自分のことのように喜んだ。
「ティーネ。今日はどうしたんだ?」
「優夜様。今日が何の日か知ってますか?」
今日?なんかあったかな。…………分からん。
「すまん。分からない」
「今日は優夜様の誕生日なんですよ」
「え?ああ、そうだったな。てか、なんでティーネが知ってんだ?」
「前にホーラ様に聞いたんですよ」
ホーラまじで色々と喋るなよ。今はいないからどうしよもないけど。
「でも、別に誕生日を祝う事なんてしなくても良いのに」
「駄目です。それは譲れません」
「分かった。それと、ありがとな」
「まだ終わってませんよ。プレゼントがあるんです」
「プレゼント?」
「はい。優夜様が喜んでもらえるかは分かりませんがこれを」
そう言われて渡されたのはペンダントだった。それもティーネにあげたのと同じ物だった。
「これ…………ありがとなティーネ。大切にするよ」
「はい」
「でも、ティーネは金を持ってたのか。結構高かったと思うけど」
「里を出る時に結構貰ってるんですよ。ペンダントを買って今はもうありませんが」
「そっか。じゃあ二人とも無一文だな」
「はい。そうですね」
俺とティーネは笑い合う。
「じゃあ帰るか。
「分かりました、優夜様」
俺とティーネは宿に戻り1日を終えた。
今回も少し長くなりました。
評価お願いします。
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