103.自我のあるダンジョン
時は少し遡り十数分前。
「あれ?ここ……何処だ?」
優夜は目の前の景色が草原へと変わっている事に困惑する。
「これは転移……いえ、魔法のものではありませんね。では、可能性として考えられるのは……ダンジョンですね」
「ダンジョン?」
「はい。私達が入った屋敷はダンジョンだったようです。つまり、私達はダンジョンに閉じ込められました」
「は!?なんだそれ!?そもそもこの家がダンジョンってどういう事だ?ダンジョンだったら褒美として渡すはず無いだろ」
「この屋敷に住んだ者は居ないと言っていましたし、もしかすると、屋敷がダンジョンに変わる仕組みがあるのかもしれませんね」
「それって、ダンジョンが僕達を選んで閉じ込めたって事?」
「恐らくは」
「では、この邸宅いえ、ダンジョンは自我を持っているとでも言うのですか!?」
まだ少し混乱しているエリスは少々発狂気味に言う。
「まだ憶測の段階でしかないですが、そういう事になりますね」
「そんな!?王国の街内にダンジョンがあったなんて……。それも自我を持っているという前代未聞のダンジョン……。……あれ?何故でしょう。少しわくわくしてきました……!」
最初は落胆し膝を付いていたエリスだったが、今までに遭遇した事の無いダンジョンを目の前にし、テンションが上がりつつあった。
「まあ皆取り敢えず落ち着け。どうするんだ優夜。これは罠かもしれないぞ。俺達は最終的には優夜の決定に従う。そこに異論を出すつもりは無い」
少々息が荒くなっている優夜達を落ち着かせ、優夜に結論を迫るグレン。
「俺は……進んでみたいと思う。このままここに居ても何かが変わるわけでもないし、それに」
「それに?」
「俺はこのダンジョンの真意を知りたい。何故俺達をここに連れて来たのか。そして、玄関に置いてあった紙に書いてあった言葉の意味は何なのか。だから俺は進もうと思う」
グレンは優夜の言葉を最後まで聞くと静かに頷く。
「分かった。俺は優夜の決定に従うだけだ。皆もそれで良いよな?」
「当り前です」
「僕も良いよ」
「私も賛成です」
「私には拒否権などありませんし、優夜さんに背くなんて事はしません」
「私も賛成!優夜くんは私達のリーダーだからね」
『我は優夜に従うだけだ』
「ワン!」
優夜が悩んだ末に決断した結果に異論反論を申し立てる者はいなかった。
「……ありがとなみんな。じゃあ行くぞ」
優夜は決心すると目の前に建つ城の中に足を踏み入れて行った。
◇
「ここがあの城の中か……。さて、優夜達はどの道を進んだのかじゃが……」
エリーは城の中に入るとすぐに現れた三本の分かれ道を見て立ち止まる。
「ご丁寧な事に優夜達ではなくダンジョンが教えてくれるとはの」
エリーは足元に落ちている紙を拾うと、そこに書かれている文字を読み上げた。
「『勇者さん達は真ん中の道を進んだよ。勇者さん達はもうおもてなしを受けてるよ。貴方も早くきてね!』か。まさか自我があるだけでなく優夜達が勇者である事まで見抜くとは。ただ自我があるだけではないのか?……教えてくれると言ってもこの紙に嘘が書かれている可能性は十分に有り得る。が、今は手元の情報だけで進むしかあるまい。なにせ誰も見たことも聞いたことも入った事もない自我を持つダンジョンじゃからな」
エリーは少しの間考えると三本ある道の真ん中の道を進む。
「しかし、自我のあるダンジョンか……。一体何時からそんな物が王国に?」
エリーは様々な宝石で出来ているダンジョンを歩きながら疑問を口にする。
「少なくとも私がメルルラのギルドマスターになった頃には既に建っていた。つまりこのダンジョンは50年以上は前の物という事になる。それに今まで見つかっていないという事は、このダンジョンは中に入る者を選べるという事になる。それにしても何故優夜を?勇者だからか?それとも他に理由が――」
エリーは途中で口を閉じると後方にジャンプする。
「ほほう……。モンスターが全く出てこないから油断していたわ。しかし、居るではないか、それもまさかゴーレムとはな」
エリーはゴーレムの攻撃でかすり傷を負い、少し血を流した頬を拭うと詠唱を始める。
「〝魔導の書よ開け」
エリーがそう言うと胸辺りに一冊の分厚い本が現れる。
本が現れたと同時にズシンと鈍い音が鳴る。エリーが後ろを振り向くと、先程まで通ってきた道はダイヤモンドの壁で塞がれていた。
「我思う。我が魔力を生贄に我の願いを叶えよ」
エリーが強力な魔法を使おうとしている事を察したゴーレムは腕を振り上げると物凄い速度で振り下ろす。
バチッ!!
『!!』
ゴーレムの振り下ろした腕はエリーの周りを守るように張られている薄い防壁によって防がれる。
防壁は電撃を発しながらゴーレムの腕を抑えている。
「全てを飲み込む暗黒の門よ。我が敵を喰らいて己の糧とせよ″無属性魔法。『無限領域』」
エリーが詠唱を唱え終えるとエリーを覆っていた防壁と本が消え、代わりに真っ黒な直径2メートル程の球体が現れる。
球体は現れると同時にゴーレム目掛けて進むと、ゴーレムに触れた瞬間ゴーレムを飲み込み防壁と同じ様に消えていった。
「ふう。少し時間をかけてしまったな。だがゴーレムにはそれぞれ種類があるからの。いちいち試すよりはマシじゃな。では先を急ごう」
エリーはゴーレムを倒した後に現れた新たな道を進む。
「しかし、優夜があれだけの人数を連れて一つの道だけを進むか?優夜は兎も角グレンはそこまで阿保ではないはずじゃが……。まあ良い。今は優夜達と合流する事の方が重要じゃな」
そして、エリーが道を進み終えると、大きな広場に出た。そこでエリーは驚愕の光景を目にする。
「なん……だ、これは……。優夜がグレン達と戦っている……!?」
【投稿予定】
11/15 104.200年前の勇者再臨




