102.王国最強の隠密部隊
「実は帝国絡みの事で話しておかなければならない事があります」
「むっ……」
国王の眉がピクリと動く。
「帝国は魔鉱石を使いモンスターを強化し、使役していました。その魔鉱石を入手したのですが……申し訳ありません。陛下にお渡しする直前で奪われてしまいました」
「そうか……その様な事があったとは。魔鉱石の入手に関してはまあ良い。それよりも……帝国がモンスターの強化そして、その強化種を使役出来ているという情報を得る事が出来た事の方が重要だ」
「はい。もし強化種のモンスターが戦争で使用されれば我々王国は不利を強いられるでしょう」
「そうだな。これに関してはまだ情報が少ない。更に情報を集めるためにも隠を帝国に放とうと思う」
「隠……!王国最強の隠密部隊を使うと言うのですか!?」
エリーが驚くのも無理は無い。隠というのは王国の近衛騎士団と同等の実力を持つ者だけで構成された隠密部隊で、隠は王国内の隠密部隊の中で最強と言われ、大陸内でも類を見ない程の実力なのである。
しかし、隠には唯一弱点がある。それは人数だ。近衛騎士団の人数は200人程いるが、隠は近衛騎士団の十分の一である20人程しかいない。そこまで貴重な戦力である隠を使うと言っているのだから、国王は今回の件を相当重く捉えられているのだろう。
「何か文句があるか?魔王の情報からすると、帝国が攻めて来るまで余り猶予は無い。それまでに帝国の情報を集めておかなければならない。そうであろう?」
「いえ、陛下の仰る通りです。私からの報告はこれで以上です。私にはこれからまたメルルラに用がありますので失礼します」
「うむ。此度の情報提供よくやってくれたエリーよ」
「くれぐれも体調には注意をして下さい、陛下」
「分かっておる。エリスは成人しているとはいえまだ子供じゃ。エリスが立派な大人になるまで儂がくたばる事は出来ん。ほれ、用があるのじゃろう?早く行くと良い」
「では、失礼します」
エリーは国王に頭を下げると王の間を出ていく。
「さて……。ザグレスよ。居るか?」
「はっ。私はここにおります陛下」
国王が名前を呼ぶと、国王が座る玉座の隣に一人の年老いた執事が現れる。
「話は聞いていたと思うが今回の件、任されてくれるか?」
「陛下のご命令とあらば」
「では隠の序列第一位ザグレスに命ずる。帝国に侵入し魔鉱石について、そして帝国がどれほどのモンスターを使役しているかを調査せよ。なお、この件に関して他の隠を連れて行く事は許可する。期限は一週間。では開始しろ」
「御意」
ザグレスは国王からの命を受けると、また姿を消した。
「これで少し良い情報が得られると良いのだがな……」
他に誰も居なくなった王の間で、深刻そうな顔をした国王はぽつりと呟いた。
◇
場所は帝国。以前SSSランク冒険者四人が集まった宿にまた四人は来ていた。
「おっ、魔鉱石戻って来てんじゃん。流石はお坊ちゃんだな。言葉遣いはあれだが実力だけは一流ってか」
エリーを襲った黒髪の男は白髪の男の持つ石を見て言う。
「おい。その呼び名は何だ?不愉快極まりない。今すぐやめろ」
白髪の男は黒髪の男を睨みつける。睨みつけられた黒髪の男は不服な様子で睨み返す。
「おいおい。やめろって。俺達が争ったところで何にも利益は出ない」
金髪の男が二人の争いを止めに入る。
「それもそうだな。それで、カーミル。今日は何の用で呼んだんだ?」
「私が貴様らを呼ぶ理由など決まっているだろう」
カーミルと呼ばれた白髪の男は黒髪の男を睨みながら言う。
「それはつまり、そろそろ動き出すという事か?」
「ああ、そうだ。しかし問題が一つある。予想以上に王国と魔族の戦争が終わってしまった事だ。そのせいで王国への侵攻を早めざるを得なくなってしまった」
「つまり、予定していたよりも戦力が減るという事か。正確には何時頃攻めるつもりなんだ?」
「二週間後だ」
カーミルの放った言葉に二人は驚く。
「なっ、予定の二週間近くも早いのか!?」
「確かに早いが、妥当な数字だな。王国があまりにも早く戦争を終わらせてしまった。つまり、王国の戦力はあまり削がれていない。それなのに元々予定していた日数準備などをしていれば王国が完全に回復してしまう。仕方がないか」
「そうだ。貴様らも準備をしておけ。決戦の日は近いぞ」
「了解」
「そうだな。では、次は決戦の日にまた会うとしよう」
金髪の男はそう言うと一番に宿を去った。それを期に青髪の男、黒髪の男と出ていき、最後にカーミルが宿を出て行った。
◇
国王への報告を済ませ、メルルラに戻ったエリーは優夜達の居る家へと足を踏み込んだ。
「おーい……ってあれ、誰も居ない?そんな馬鹿な。優夜達が中に居るはずだが、優夜達は一体何処に行ったんだ?……ん?なんだこの紙は」
エリーは誰も居ない屋敷の玄関に一枚の紙が落ちているのを見つける。
「『ようこそわたしの家へ。喜んでもらえそうなおもてなしを用意してるの。ぜひ楽しんでいってね』か。なんだこれは?そもそも誰が書いたんじゃ?この屋敷の鍵は私と優夜達しか持っていない筈だが。……まあ良い。優夜達が居ないなら私は入り口で優夜達を待ってるとしよ……う!?」
エリーは落ちていた紙を読み終え、外へ出ようと後ろを振り返り仰天する。
「扉が……無い!?」
先程エリーが通った筈の扉が、否。入った筈の屋敷自体が存在を消していた。更には床が草原へと変わり、目の前には城のようなものが建っていた。
「まさかここは……ダンジョンか!?」
エリーは目の前に建つ城を見ながら叫んだ。
【投稿予定】
11/12 103.自我のあるダンジョン