100.優夜念願の家
最終章(多分)開幕です。ここからあと少しお付き合い下さい。お願いします。
「優夜!どこに行ってたの?」
王城からガッハの街に戻った優夜はサファイアの説教を受けていた。
「ごめんってサファイア。サファイアが寝ていたとはいえ行く先を伝えなかったのは俺だから。本当にごめん」
「むう……次からはちゃんと言ってくれる?」
「言う!ちゃんと言います」
「なら良し」
サファイアは満足そうに鼻を鳴らした。
体格の小さな魔族の少女がこの世界では成人している優夜を説教する構図。傍から見たら不思議な、いや異様な光景だろうが、優夜達にとってはこれが普通になりかけている。
それは何故か。……原因はサファイアのプロポーズだ。サファイアは優夜から返事を貰っていないにも関わらず、既に新妻気分なのである。これにはティーネ達女性陣も苦笑いの様子。
「それで、戻って来た訳だが何をすれば良いのだ?」
「ああ、とりあえず魔族達には魔界に帰ってほしんだ。王様も用意をするとはいえ、すぐには出来ない。だから何人かガッハに住ませて残りの魔族には帰ってもらいたい。あと、魔王もその帰ってもらう魔族の一人だからな」
「何?」
場の空気が若干ピリつく。
「いやさ、魔界に帰る人達は少なからず反感を覚えるだろ?それを魔王が鎮めて用意が出来るまで待ってもらうって事。流石に今現在で食料が尽きたとかないよな?まあ、結局王様から支給されるからあんまり変わんないけど」
「成程……。そういう事なら仕方あるまい。了解した。私が責任を持って魔族を帰らせよう。それで勇者。この街に残る者はどう選ぶのだ?」
「え、そんなの強い魔族に決まってんじゃん」
「は?」
「「「「え?」」」」
この言葉には魔王以外にエリス達も声を漏らした。
「だってさ、強い魔族ならもしガッハで襲われても対処が出来るだろ?まあ、そうさせないよう努力するけど。それに、強ければ残った側の魔族もそれなりに納得するだろ。多分……。あ、あともちろんだけど性格がちゃんとしてる奴だけだから安心してくれ」
「な、成程。まさかそこまでしっかりと考えていたとは」
「なるほどねー!優夜くん今日冴えてるね」
「確かにそれは良い案だな優夜」
「ふふっ……私は最初から分かってましたよ。何故なら優夜様の嫁ですからね」
「私だってわかってたよ!だって優夜の妻だもん!」
あれ~、若干二名関係の無い話してませんか?俺を褒めてくれるのは良いけど喧嘩はしないでね。あとサファイアさん、ティーネさん?俺、一回もOKしてないんですが……その件はどうなっているのでしょう?
「なっ……!そんなまだ歳の少ない小童の分際で粋がらないで下さい!」
「むうぅぅ!私もう14だもん。小童じゃないもん。それに、ティーネだって百年以上生きてるおばさんでしょ!」
小童……おばさん……それと声がでかい。
二人は更に言葉に攻め合いを続け、睨みが更に強くなったところで優夜が間に割って入った。
「ちょ、ストップストップ!二人とも使ってる単語が物騒になってるし、それと声でかいから。とりあえず落ち着け!」
優夜は言葉を言いながら視線を魔王に送ると、魔王は察したように動きサファイアを抱きかかえる。それを見た優夜はティーネを抑えた。
「サファイア。勇者が困っているだろう。それと、ティーネにも謝りなさい」
「ティーネもな」
「「はい……」」
しゅんとなった二人を拘束から外すと、二人は近くまで寄り、お互いに頭を下げた。
「「ごめんなさい……」」
二人は謝り、そしてどちらが優夜の伴侶になるかの言い争いは終わったのだった。
「あー疲れた。じゃあ後はひとまずエリスとエリーさんが戻ってくんのを待つか」
皆疲れた様子で優夜の言葉に反対する者は出てこなかった。
◇
「すみません。お母様がなかなか離してくれなくて……ってあれ、優夜様?疲れた様子ですが何かありましたか?」
「ん?ああ、エリスか。まあ、あったと言えばあったかな。……それより、エリーさんは何処だ?」
「ここじゃ。お主には目が付いとらんのか」
優夜が声のする方へ自然と顔を向けると、エリスの隣にエリーは立っていた。
「ああ、すみません。ちょっと疲れてて……、それよりエリーさん。ちょっと話したい事があるんですが……」
「お、奇遇じゃな。私もお主に話したい事があるんじゃ」
「……なるほどの。うむ。良い案じゃな。だが、残すといっても恐らく相当な反感もあると思うぞ?」
「まあ、そこは乗り切ってもらうしかないです。魔族にとっても安全などの為にはやらないといけない事だし、人間も王様の準備が揃ったらもっと多くの魔族が来るから、たった数人の魔族で悲鳴を上げてたら耐えきれないですしね」
「ふむ……まあ確かにそうなるのも仕方なしか……。分かった。優夜の案でやると良い。……それで、じゃ優夜。お主には良い報告がある」
「えっ、なんですか良い報告って?」
頑張った褒美かな?褒美だよな。褒美だな。……やべえ、わくわくしてきた。
「まずは一週間の休暇を与えること。帝国が攻めてくるまで時間が無いとはいえ、体を休ませなければ優夜が壊れてしまうからな。そしてもうひとつ」
「もうひとつ?」
エリーは優夜の言葉に首を縦に振ると続ける。
「お主の……正確にはお主達の家が褒美として無償で渡される事が決まったぞ!」
「…………ぉぉぉおおおお!マジですか!?」
「ああマジじゃ」
「よっしゃ!」
よっしゃ!家だ!この世界にきてからずっと目標としてた家!マイハウス!やったー!
「そこまで喜ぶか……。それでじゃ優夜。今日は日も暮れ始めたから明日、お主の家に行くぞ。今夜はしっかりと寝ておくのじゃ」
「はい!」
ああ、家だ。遂に、念願の!家だ!楽しみ過ぎる!楽しみ過ぎて……今日、寝られるかな……?
【投稿予定】
10/30 101.優夜達の帰る場所