97.ホーラとの会話
優夜がサファイアにプロポーズされた日の夜。
約束通りホーラは優夜の部屋に来ていた。
「で、ホーラ。俺に話って何だ?」
「随分と素っ気無いですね。久しぶりなんですからもう少しお話しましょうよ~」
「もともと勇者にしたのはお前だろ。魔王の封印を解いたのは違うみたいだけど」
「でもあれは仕方のない事だったんですよ~。その節は申し訳ないと思ってますし、どうか私の体一つで許してください!!」
「うるさいって!誰かに聞かれたらどうすんだよ!?」
いやほんとどうすんだよ。ティーネが同じ部屋にいなくて助かったわ。今の誰かに聞かれてたら俺の身が危ない。
「……ったく。それで、話って何?」
「む~、もう少しこのまま話していたいですが、時間も時間ですし、今日の所はこのくらいにしましょう。では本題に入りますね。優夜さん、貴方に話しておかなければならない事があります。……実は、今帝国で災害級――冒険者ギルドで言うならS、SSランク級のモンスターが大量発生しているんです」
「SSランクか……。もしかしてそれも魔王が言ってたSSSランク冒険者が関わってるのか?」
優夜がそう言うとホーラはにこりと笑う。
「ご明察です。帝国が保有するSSSランク冒険者四人の中にはモンスターをテイムする能力に長けている者がいます。今回の件にはその者が関わっています」
え、帝国ってSSSランク四人もいんの?強くね?
「でも、大量発生ってどうゆう事だ?テイムするだけだったら大量発生させるのは無理だろ」
「はい。大量発生はまた別に帝国の軍、正確には公にはされていない裏の軍事組織が起こしたものです」
「なるほどな。それでそのSSSランクの奴がそのモンスター達をテイムしたと」
「はいその通りです」
まだ分からない事はあるけど、早く対処しないとやばいってのは分かった。これはまた明日エリーさんに頼んで国王に伝えてもらうか。
「ありがとなホーラ」
「いえいえ。それでは、頑張ってください優夜さん」
「え?ホーラ帰るのか?魔王の事が終わったからてっきり一緒に居られると思ってたけど、違うのか?」
「いいえ。確かに魔王の事は終わりましたので余裕は出来ました。ですが、まだ帝国などの面倒な仕事が残ってますので。まあ、優夜さんの頑張り次第で一緒に居られる時間は増えると思いますけど」
「はは……。頑張ります」
そうか……。なら早く終わらせて今度こそ一緒にまた居られるようにしないとな。
「はい。その言葉が聞ければ安心ですね。では、もう夜は遅いので優夜さんは寝て体を休めてください」
「神に言うのもあれだけど、ホーラも体に気をつけてな」
「ふふっ。ありがとうございます。……では、色々な人に告白されて大変だとは思いますが、まだ終わりではない事、忘れないようにしてください」
「ああ、分かった。それと」
「まだあるんですか?」
若干呆れ気味に聞くホーラ。
「ちょっ、別に良いだろ。それと、これが終われば一緒に居られるようになるんだよな?」
「はい。そうですよ」
「……分かった。じゃあ、少しの間また会えなくなるな」
「あらあら〜?もしかして優夜さん。私とまた会えなくなる事が寂しいんですか〜?」
「……そうだな。そうかもな」
「え」
予想外の返答にホーラは固まる。
「考えてみればさ、俺が転生した時一緒に居たのはティーネとホーラだったよな。それにホーラは俺に色んな情報を教えてくれた。それに、そもそも俺が今ここに居るのも、今日魔王を救えたのも、全部ホーラのお陰だ。ホーラが居なかったら俺は転生してないし、ホーラが居なかったら俺はあんなチートな力を手にしてない。……ありがとう。ホーラ。俺をこの世界に転生させてくれて、そしてティーネ達に会わせてくれて。……俺、頑張るわ。そんでもってまたホーラと会って今度こそこの世界に来た時の目標を達成する」
真剣な表情で話す優夜にホーラは少し驚いた様子で聞いていた。
「……そんな風に思ってたんですね。……何というか、何と言えば良いか……。………ですが、これだけは言えますね。優夜さん。感謝をするのは私の方なんです。貴方がこの世界に転生して、勇者になってくれなければ今頃王国は魔族に占領されていましたよ」
「そう、か。まあじゃあ、両方とも得してるんだな」
「そうですね」
「……よし。俺はもう言う事は言ったから。いつでも行っていいぞ」
優夜はスッキリした顔で言う。
「うわ……知ってましたか優夜さん。そういう人ってモテないんですよ?」
「うるさい!そんなこと言うんだったら早く行け!」
「まあまあ、そう怒らないでくださいよ。ですが、そうですね。そろそろ行きましょうか。知ってましたか優夜さん。私と優夜さんが会話をしてからもう一時間以上経ってるんですよ」
「えっ……そうだったのか。全然気付かなかった……」
「ふむ……つまりそれほど私との会話に没頭していた、と」
「いや違う……ああ、もう。面倒くさくなるからもうそれでいいや」
優夜は反論を言いかけたが、あくびをしながら頷く。
「おっ……遂に認めましたよティーネさん!」
「え?」
ホーラ部屋の扉に向かって叫ぶと驚いた様子のティーネが入ってきた。
「……ホーラさん。もう遅い時間なんですからあまり大きな声は控えて下さい」
「は~い」
「それと、別に優夜様がホーラさんとの会話に没頭していても何も思う事はありませんから」
「おい、それよりティーネ。今の会話どっから聞いてたんだ?」
もしかして俺がさっき言ってた事も聞かれてたんじゃ……。
「それは結構最初の方からです。盗み聞きしていた事は謝ります。ですが、ホーラさんも優夜様も酷いです!ホーラさんとまた会えなくなる事を私に隠すなんて。私もホーラさんと旅をした仲ですよ。そんなこそこそとされては悲しくなります」
「う……それはすまん」
今のを聞く限りじゃティーネは俺の事は聞いてないのか……。いつかは話すべきだとは思ってるんだけどな。まだ心の準備が出来てない。話したらティーネ達はどんな反応をするのか。それを知るのが怖いんだ。もしそれで距離を置かれたりとかされたらと思うと……やはりまだ口を開けない。だけど……いつか必ず、言わないとな。
「まあもう良いです。それにホーラさんはもう行かないといけないみたいですし」
「あ、そうでした。では優夜さん、ティーネさん。残りの夜を楽しんで下さいね~」
「何もしないわ!」
優夜がホーラに怒鳴るとホーラは逃げるように消えていった。
「え……何もしないんですか……?」
「え……?」
何ですかティーネさん。もしかしてティーネさんはそういう事がしたいんですか?それにはちょっと心の準備が……。
「冗談ですよ。もう遅いですし寝ましょう。ではおやすみなさい優夜様」
「えっ?あ、うん。おやすみティーネ」
優夜に挨拶を言うとティーネは部屋を出ていく。
部屋を出ていくティーネの頬は微かに紅潮していたのだった。
【投稿予定】
10/21 98.人魔戦争、終結
急にタイトルを変更してすみません。