神は熊
ステータスについて攻撃力や防御力についてはなんとなくわかるが、スキルポイントや魔法についてはわからないのでヴィーさんに見せようとすると、「ステータスは通常他の人には見えないから、私に触れた状態で【ステータス開示】って唱えると私にも見えるようになるからやってみて。あ、それと今回はキンジの状況が状況なだけに仕方がないけれど、ステータスの開示は自分の内側を晒すのと同じ行為だから今後は信用してる人が相手だろうとみだりに見せたりしちゃダメよ。」
という説明と注意を受けながらヴィーさんのもふもふな腕に触れ、ステータスの開示をする。
「…………………低すぎるだろこれ…。」
素の声だった。オネエ言葉でもなく、猫なで声でもない。低くてごついオジサンの引いた声だった。
ヴィーさんは数秒固まるとハッとしたように咳払いをした後オネエ言葉に戻し、衝撃の一言を放つ。
「もし私があの時あの匂いに釣られてなければ、キンジは今頃肉食魔獣の腹の中だったでしょうね。」
なにそれこわい。
僕が居たあの森は中央大陸ではいちばん安全な森ということらしい。
しかしそれはこの地に住まう人たちからしてみればの話であり、この中央大陸に居る魔物は他大陸に居る魔物と比べても別格である。それに比例して国民の戦闘力も他大陸の人よりもかなり高い。鍛冶師や服飾師などの非戦闘員だとしてもレベルは120~150くらいであり、冒険者や街の警備隊であれば250~350レベルあたりなのだそう。
そしてあまり表にはでてこないが騎士が居り、普段は街の中心にある城で王族やそれに連なる貴族たちの警護や大陸各地にあるダンジョンの調査と攻略を主な仕事としているとのことで、ダンジョンに関わる騎士のレベルはいずれも500は超えているという。
「ダンジョンってどんなところなんですか?さっきの森はダンジョンでは無いのですか?」
「ダンジョンとそれ以外の違いとしては、その地に元々ある場所か突如として現れる場所かだから、あの森はダンジョンではないわ。」
「突如として現れる場所?」
「例えば昨日まで荒れ果てた荒野だった場所が今日見ると草木の溢れる潤沢な土地になっていたり、何もない草原に扉だけがポツンと立っていて、その扉を開けると全く別の景色が広がっていたりと、そういった現象が起こった場所をダンジョンというの。」
「ダンジョンの攻略は冒険者の方は参加できないんですか?」
「冒険者であろうとそうでなかろうと新たなダンジョンの発見には国への報告義務が生じるの。そして騎士が派遣されるまでの間はダンジョンには結界が張られて立ち入りができなくなるの。
とはいえダンジョンを発見するのはだいたいが冒険者なの。騎士よりも冒険者の方が圧倒的に人口が多いからね。
さっき言った扉が入り口になっているダンジョンであれば誰が見ても異常だとわかるけれども、そうでないダンジョンだと依頼で来た土地勘の無い冒険者はそこがダンジョンであるとは気付かずに入ってしまったりするの。
そういった事故なら不問にされることが大半だけれど、故意に入った場合は厳しい処罰を受けることになるわ。知らずに入ったとしても元々の生態系とは異なる魔物や明らかにレベルの高い魔物が居たりすることも珍しくないからすぐに気づいて引き返すわ。」
とここで「話が逸れたわね。」とひとこと言い話題を戻す。
「キンジが居た場所の推奨レベルは80、森の最深部になると90レベル推奨よ。それでキンジが居たのは最深部。レベル13じゃどう足掻いても瞬殺されるわよ。」
ちょっと待っておくれ。え?あの森ってこの大陸で一番安全なんだよね?一番安全な場所の推奨レベルが80??
おお…神よ……冒険の始まりの地にしてはハードすぎるのではないだろうか?
「ヴィーさん、ホントにありがとうございます。一生ついて行きます。むしろついて行かせてください。死んでしまいます。」
この絶望的なレベル差、攻撃が掠っただけでも致命傷だろう。僕の命はヴィーさんに握られている状態だ。
どこまででもついて行きましょうとも。あ、なるべく危なくない場所でお願いします。うっかりピチュってしまいそうなので。
「そう畏まらなくてもいいわよ。さっき言った通りうちの店に来るといいわ。このまま見捨てるなんて寝覚めの悪いことしないわよ。」
異世界へ落ちてしまった僕の救世主はイケメン勇者でもなく、超可愛い女の子でもなく、熊獣人の漢女でした。