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第8話

「今日は、訓練というよりも実戦だ。先日提出された怪異の発見報告書によると、街の中に侵入した怪異がいるらしい」


「ま、街の中にですか!?」


 驚いた声を上げるのは夕空だけで、他の面々は黙って続きを促す。


「ああ。と、言うのも…どうやら、相手は液状の怪異らしい」


「?」


「報告では、動く水たまりを見た、という話だった。…お前らの中には、見たことある奴もいるんじゃないか」


 それぞれが顔を見合わせる。何人かが頷いていた。


「俺も倒したことがある。…かなり厄介な相手だ。第三神秘で閉じ込めて、地面に埋めちまうか、炎で蒸発させる倒し方を取ったが…倒し方は任せる。とにかく、被害が出る前に叩くぞ」


「「「「「了解!」」」」」


 剣による物理攻撃が通らない相手に対して彼ができることがあるかどうかは疑わしかったが…それでも、0にも-にもならないように動き回ることはきっとできる。


「それから、1人で戦うのは控えること。見つけたら、何かしら合図を送るか、周りの市民に応援を呼ぶように頼むこと。それから、北本は夕空と行け」


「了解」

「了解ですっ!」


 気遣ってくれたのだろう。それとも他に何か意味があるのかもしれないが…。何となく目を合わせづらく、解散する衛士達の流れに従うように、彼は夕空よりも一足先に外へ出た。



 前日に雨が降った時を狙って街に現れるそのタイプの怪異は非常に厄介で、それ故にその発見報告があった場合には神秘使いが1つ1つ水溜まりを消すために町中を歩き回る。


 どこからともなく神秘によって集めてきた土を街路の中央に陣取った水溜まりの上に落とす。反応は無い。ただの水溜まりらしい。


 特に会話も無く確認作業を進めていく。


 八班に分かれての行動。それぞれが町の中央から怪異の捜索を始めている。彼らは中央から真南を担当する。


 街の隅々まで見ていく作業は正直骨が折れる。液状、変幻自在というのは実際とてつもなく厄介だ。


「…そもそも、バッタリ出会った場合の対象方法を決めてなかったが、どうする?」


「うーん…団長が言ってたみたいに、閉じ込めるのが一番じゃないかな。…布の袋とかの方が、汎用性が高い…かな?」


「かもしれないな。…だが、そんな上手くやれるか?やっぱり、周りを第三神秘で囲うのが良いんじゃないかと思うが」


「そうだけど…う~ん…例えばじゃあ、出会ったタイミングで誰かが襲われてたら…、頭を覆うように取りつかれてたりしたら…」


 液状怪異の基本手段はその、顔を覆い窒息させる、という殺し方だ。手で引っぺがそうと、一回引っぺがす間に剥がした水が再度集まってくるのでキリが無い。それぐらい、液状怪異のサイズは大きい。人の頭を二倍程度の大きさにする程には。それも、どこで呼吸しているのか解っているのだろう。口元にその比率は高く設定される。


「…ハンマーの方がいいかもな。作ってくれないか?」


「りょーかいっ!」


 第一神秘の使い道はこういうものもある。ただ、実際の鉱物で造られたものよりは硬度の面で劣るが。


 人の顔サイズほどの先端を持ったハンマーを担ぎ、歩きつつ捜索もしつつ、対策会議は続いた。


 あれやこれやと意見を出し合うが……いや、意見なんて結局出ていなかったように思う。

 相手がどんな性質で、こちらが使える手段はこんなで…というぐらい。


「…顔面スレスレをぶっ飛ばす、ぐらいしか思いつかないな」


「…それでいこっか」


 と、いうよりも…2人の学が足りないだけかもしれないが…。


 窓をワイパーで洗うようにやれば一発、なんて思うかもしれないが、液状怪異には筋力、とでも言うべきものがある。ちぎって捨てる、よりもよっぽど抵抗力がその場合強くなってしまう。物にもよるが、完全な真水のような液状怪異もいるが、油のようなものや、ゼリーのようなもの、泥、粘着性のある液状のノリ、ボンドみたいなタイプもいるらしい。…今回のタイプは真水タイプだと聞いているが。



「まぁ、一体しか報告されてないわけだし、八分の一を俺らが引くことはないだろ…」


「だめだよっ、任された以上はちゃんとやる気ださないとっ!」


 楽観的なそんな発言は、即座に夕空に窘められてしまう。素直に謝ろう…としたその時に。


「あれ?」


 何かに気づいたらしい、夕空は軽く首を傾げると、彼を於いて道路を小走りで駆けていく。

 当然彼もそれを追い…そこに辿り着くまでの僅かな時間、街路の脇、店と店の間のわずかな隙間に目が行き、ふと、考えを走らせる。子供1人ぐらいならこの隙間を通って近道ができるかもしれない。

 実際、この町には同じような隙間が僅かにだが存在し、そこを通る子供の姿を彼女は何度か見たことがあった。


 …そんな考えをする余裕など、時間など無かった。


 近道をしようとしたのか、それとも謎の動く液体を知らべようとしてこの隙間に入ったのか知らないが…1人の少女、まだ6、7歳ぐらいが、隙間で動けなくなっていた。いいや、それだけならいい。少女一人の体を包み込む程の大きさの液状怪異が、既に少女を取り込んでいた。


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