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第7話

 次の日。昨日運ばれていった衛士の殆どは、翌日には目を覚ましていた。それぐらい、この世界の医療技術は高い。というか、とある怪異が持っていた不可思議、薬花による効果のおかげなのだが。とはいえ無理は禁物だ、体力も持っていかれているだろう。一日の休養を貰ったらしい。それ故に、今日は衛士協会の人数が少ない。いずれも、実力者の威風を持つ者達だった。


「今日もやるのか?」


「いいや。こいつらには必要ない。夕空以外の全員、既に大陸巡りを終えている。


「そうか」


「待て。団長」


 試合場の上に衛士達が整列し、その前に立つ団長と北本。


 じゃあ何を?と聞こうとしたところで、1人の衛士がドスの効いた声で秋型を制す。


「俺に戦わせてくれ。そいつに、衛士の強さを教えてやる」


 睨みつける男とは対照に彼は無表情のまま、団長の視線に頷き返した。


 ---------------------------------------------------------


「「…よろしくおねがいします」」


「―――始めッ」


 何の捻りもなく駆け出した男は身の丈ほどもある大剣を振り下ろす。当然、横に避け…抜刀、居合を放つ。

 大剣を振り下ろす速度は心なしか想定していたよりも遅く、それが彼に僅かながらに違和感を与えていた。居合による一撃も、警戒ながらのものになり、いつもよりも7割程度の威力となる。…が、その予感は当たっていたらしい。太刀と男の脇腹の間に、手の平程度の大きさの岩石が張り付いていた。いいや、張り付いていたというよりも…それは、居合が当たる寸前に、出現していた。10割の力でやっていた場合、速度勝負で勝てていたかどうかは五分五分だろう。余力を残していたのはこの隙を狙っていたためらしく、すぐさま横振りが放たれるが、余力を残していたのは彼も同じだ。細い刀身でなんとか受け止め、場外寸前でその場に留まった。


「チィッ…!」


 大剣を彼が、防ぐのではなく避けるのをメインにしているのには理由がある。それは地の第五神秘…“剣が触れた物の重さを増やす”を警戒してのことだった。そして、今までその神秘を使ってきた相手はいなかったが…この男は、使っているようだった。刀の重さが先程よりも少し重い。…1.2倍ぐらいだろうか。


 …攻める手が見つからない。彼にとって最速の一撃が届かない。…だからって、やれることが何もないわけではない。

 体勢、考えを整えさせる隙を与えるものかと、男が叫びながらも距離を詰め、横薙ぎ払い。既に場外一歩手前の彼にはそれを避ける手段が限られている。神秘の同時展開は、不可能ではないがその分頭の容量を使う。今男が使っている候補としては、1と5。次点で2。左から右への振り払いを、彼から見て左斜め前方に滑り込むようにして回避。背中から首にかけてを刀を盾代わりに備えておくと、僅かにだが金属のぶつかった感触に背を押されるギリギリの回避になった。すぐに立ち上がった彼の背後にはすでに男が迫っており、そして彼の目の前には岩石の剣が浮かび上がり、既に発射されていた。


 …さっき、1か5のどちらかを使わず、2に意識を集中していたらしい。読み負けた。

 より重くなった刀を地面に突き刺し、それを軸にして180度Uターン、光速のスライディング。背後から再び迫っていた横薙ぎを潜り抜けて躱しつつ、男の足下真横を通り、首元に全力を込めた鞘での突きをねじ込もうとして…ぴたりと、その勢いを止め、軽く触れるだけで収めた。

 岩の剣は男に当たる寸前で形を崩して地面に落ち、男は意味の解らない、という様子で前に跳び、彼から距離を取った。


「――止め。北本の勝ちだ」


「ま、待ってくれ!意味がわからない。なんで、突きを止めた」


「首の後ろへの強打は、切り傷とは比べ物にならないぞ。意識不明、もしくは死ぬ場合だってある」


「「…」」


 衛士は言葉に詰まり、頭の中を整理しているらしい。少ししてから彼の方を見ると、素直に負けを認めて引き下がった。


「…あいつは、どうだ?」


「…俺が評価できる立場じゃない。勝てたのは、運だ。読み合いでも負けたしな」


 次に戦った場合、勝てる可能性は半分以下な気がする。

 地面に刺さった刀を抜き、納刀。重さは既に元に戻っていた。



 …もっと強くならなくては。



 …何のために?



 …解らない。ただ、戦っている時の自分が、好きなのかもしれない。



 右手を握りしめる。

 その手には…まだ、望んだ物を何も掴めてはいなかった。

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