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第6話

「…とりあえず、全員と戦ってもらおうと思う。医療班も待機しているから、ぶっさしちゃっていいぞ」

 そんな、適当な感じに言われて、了解です!なんて返せるはずもない。が…まぁ、いいか。という、適当でいいなら適当にこなそう、そういう気分の日だった。


「今日の内容は…短期決戦だ。北本、一撃でやれるやつにはやっちゃっていいぞ」


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「よ、よろしくおねがいします」


「よろしくおねがいします」


「…では、始めっ!」


 開始の合図とともに剣を抜く。と、相手の衛士、ガタイは良いが気の弱そうな男の肩が思いっきり揺れた。


 …これ、重症だな。


 不殺宣言当たり前の訓練しかやってこなかったのだろうか。それとも、経験が極端に短いのか。とはいっても、経験年数一年未満の連中は事前に秋型が仕分けしており、一つの懸念が消えた。


「……ぇ」


 一瞬だった。剣が脇腹を貫いた瞬間を知覚するよりも早く、刀が貫通していた。


「…」


 特に言うことも無ければ、感慨も、罪悪感も無い。


 無言のまま剣を抜くと、噴水かというぐらいに血が大量に噴き出し始める。


「…ぁ…ぁは…あ…」


 その場に倒れこみ、1人目の相手は気絶してしまった。


「次!」

「待て」


「…どうした?」


「話にならんぞこれ」


 呆れた顔で試合場の外に腕を組んで立つ秋型を睨む。数秒、目と目が合ってから、秋型は溜息をもらす。


「…ああ」


「あんな、碌に戦ったことのない奴の腹に剣を指しても、良いことなんかないと思うが」


「…あいつはそれなりに怪異とも戦ったことがある」


「…ほんとか、それ」


「ああ。…衛士はお前を見て…どうやったら勝てるか考える。野生の、凶暴なだけの怪異相手なら予測は多少つくがお前は人間だ。フェイントだってある。実力はこの前の剣でハッキリしている。自分では勝てない敵…そういう相手への慣れのための訓練なんだよ」


 他の属性の神秘使いならば、こんな訓練は必要ない。だが、衛士は…各地で門番を務めることが多い、街の守り手。討伐任務なら負けそうになれば逃げればいいが、街の防衛で逃げるわけにはいかない。これはいわば、勝てない戦いへの訓練なのだ



 運ばれていく男を痛ましそうに見つめる彼女は何とも言えない表情をしている。何故って、この訓練は必要なものだと解っているからだ。この場に、腹に穴を開けたい人も開けられたい人もいない。だが…そう。衛士は自分だけではなく仲間、市民も護るような役割を担う。素早い動きの相手に対して、自分をスルーされて仲間から先に殺されるような状況は普通に起こり得る。そんな時、落ち着いて対処するためにも…痛みに触れることは大事な事なのだ。だから…しかたないのだ。


 …今日、街の子供たちの見学を団長が断っていたのをありがたく思う。


 --------------------------------------------------------


 2人目。早速の重傷者に、強張った顔の屈強な男。彼は見たことがある。街の門番として立っていたことがあるはずだ。


「「よろしくおねがいします」」


「――始めッ!」


 試合場に二人立つ。開始の合図が響く瞬間、男は神秘の鎧を纏うと、全力疾走しながら大剣を抜き、彼に向けて振り下ろした。


 鎧を着た男は、それなりには早いが、それでも避けるに容易い速度だった。横に跳んで回避し、一閃。壊せる、という確信を持って臨んだ居合斬りは彼の予想通り、鎧を真っ二つに切断し、男は腹から血を吹き出しつつ膝をつく。その瞬間に神秘の鎧は解除され、男は気を失った。


「運べ!」


 医療班が再び駆け込み、その場で止血を始める。一分ほどで処理は終わり、どこかへ担ぎ込まれていった。


「切れるってよくわかったな」


「鉄板くっつけただけみたいな雑な作りだったからな。動きづらそうだったし」


「…よし、次!」


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 20人目。動きの遅い物には鎧越しに顔面を殴ったり、遠距離主体の者には楽々と回避しつつ接近し切り伏せ、固くも素早い鎧の者には関節を決めるか、繋ぎ目を狙うか。


「…はぁ…っぅ…」


 いい加減息の切れてきた彼は、一度深く吸って、吐く。

 それから…秋型の次の開始の合図を待った。


「今日は終わりだ。シャワー、浴びてこい」


 20人目は苦戦した。大剣を手放して右ストレートが飛んできたときにはやばいと思ったが、回避できてしまえばこっちのもので、剣を手放したことで意味を失った神秘の鎧を真っ二つにした。


 恨めしそうな死に形相で肩を掴まれ、血を大量に浴びる羽目になったが…しかたない。そもそも1人斬る度に、体はどんどん赤くなっていった。


 ぽちゃり、という足元の音に意識を奪われ、目線を下へ。


 血の池ができていた。阿鼻叫喚の光景だった。どうやったらそんなところまで飛ぶんだ、というぐらい、試合場の外にまで所々赤く染まっており、その場に残った全員、顔色が優れない。


 一方、彼はと言えば…確かに一つ、掴み取っていた。


 殺さないぎりぎりの深さで切るということ。そして、人を斬るということに対しての慣れ。後2センチでこいつは助からないな、というレベルの把握。


 視線を感じ、顔を上げる。

 上へと続く階段。絶好の見下ろし位置にいる夕空と目が合う。


 …どちらも、なんとも言えない顔。責めるわけでも、謝るわけでもない。言葉を発することも、頷いたりジェスチャーを返すこともせず…どちらからともなく、目を逸らし…その場を去った。


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