第18話
月日はあっという間に経ち、彼の契約が切れる前日。夕空とはその後も数回怪異討伐に赴いたが、その話はまた別で。
いつものように試合。今日までの戦績は勝率にして7割といったところ。まぁ、こんなものだろう。最初の方こそ殆ど秒殺だったが、命のやり取りにもなれた衛士達は、徐々に彼を追いつめて行った。
無論、彼も与えるだけではない。彼らとの経験を通じ、“大剣”というものがどんなものなのか。そして地神秘というものを理解し…自らの糧とした。
「ぜぇっ…はぁ…」
「ッーー!」
強大な力による大剣の振り下ろし。今までなら横に回避するか、逸らすことを狙うか、懐に入り込むか、だったが…。
修練場の床が僅かに凹むほど足に力を込め、人間の望める最高の高さまで高く跳び込んで、落ちてくる剣を横から叩き切り撃ち落とし、勢いそのままに一回転。バランスを崩し床に落ちた相手へ、連続で大剣を振り下ろした。
首を跳ね飛ばすつもりの一撃。しかし、相手も既に実戦は慣れた身。第一神秘による鎧を首へと一点集中し、その一撃を防いだ。衝撃は殺し切れず、地面を転がるハメにはなったが。
「――そこまでっ!」
秋堅のストップで息をつく。…例え相手が神秘の使い手だとしても、上手く当てられさえすれば、大剣ならば相手の武器を問答無用で破壊できることが解った。剣さえどうにかしてしまえば、後はこちらの物だろう。
持ち得る能力が少ない以上、ある物でなんとかするしかない。
「「――ありがとうございました」」
互いに礼をし、秋堅の元へ。他の衛士達も同様にし、いつものように集合。終了の合図を待つ。
好敵手として仕事を始めてから…5人の神秘使いが“死んだ”。そのどれもが、夜道、街の外、人気のない路地裏での暗殺だった。街の外なら怪異ではないかとも思ったが、隠された死体には、大剣による大きな傷跡があった。
この町にいる残りの地神秘使いは約60人。まだ神秘に目覚める前の大剣使いが30人。大陸全体では、正確な数は解らないが、10倍近くの数がいるはずだ。
「――今日は言っていた通り、北本と夕空の送別会を行う予定だ。いつもの酒場を貸し切りにしといたから、7時頃には集合してくれ」
「おおっ!」「酒酒!暫く呑めてなかったから飲むぞぉ!」「寂しくなるなぁ」「な。まだ一回しか勝ててねぇのに」「一回勝ってんじゃねぇか」「契約更新してくれりゃいいのに」
思い思いに話し始める衛士達。最初こそ疑われることもあったが、これだけ長い期間剣を交えれば、なんとなく相手のことも解る…のかもしれない。(実際には夕空の懐きようによる影響かもしれないが)
「まぁ俺も、色々な所に行ってみたいってのもあるし。………あいつの気が変わるまでは、傍にいてもらうさ」
「おーおーそうしろそうしろ。…しっかし、あんなに大陸巡りを嫌がってたのに、夕空もよく行く気になったよな」「そういえばそうだ」「なにきっかけなんだ?」
「きっかけ……うーん…。やりたかったことを思い出せたから、かなぁ。…それに、北本さん、危なっかしくて放っとけないし」
にへら、と照れ臭そうに笑う少女の笑顔が直視できずに、顔が赤くなる前に彼は目を逸らし、自然体を装ってその場を後にした。
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どんちゃん騒ぎの宴会は、それはそれは大仰に行われた。犠牲者が未だ出続けていることも分かっている。しかし、戦いに身を置く者達だ。休める時に休まなくては、真に必要な時に力を出せない。
仲の良い地神秘使いもそれなりに出来て、楽しく酒を飲み交わし、別れを惜しみつつも未来に想いを馳せるような会話を未熟者同士、大いに語り合った。
「あー…みんな、大丈夫か?」
「うぃ〜」「ぁんぬぅー?」「へいきでーすっ」「あっははははは!!」
酒場を貸し切っての宴会が開始されてから3時間ほど経過していた。
かなり酒が回り倒れ込んでいるのが半数、まだまだ余裕、と言った様子が1/4。若干やばい、が1/4。
「秋堅」
彼はというと、酒はそれなりに飲んでおり、先程まで眠そうに頭を揺らしていたのだが…急にいつもの調子を取り戻し、据わった目で秋堅を呼んだ。
「…気付いたか」
そも、可笑しいと…普通は思う。夜道で殺される事件が多発してる中、宴会だ、などと。客の立場である彼と夕空には教えられなかったが…反対意見が出なかった時点で、疑うべきだったのかもしれない。
二階建ての酒場は100人以上が窮屈せずに飲める程度には広い。地神秘によって作られたその建物は、既に秋堅が”支配”している。具体的に言うと、彼の意思で好きに変形できるように力を巡らされている。なぜそんなことをする必要があるかと言うと…。
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「―――上だ!」
鉄製の天井すらも貫いて見えたのは、幅の広い剣先。しかしそれは彼らの予想に反し…鋭い岩石の剣であった。
「なっーー神秘使いだと!?」
一箇所穴が開けられたのにすぐ続き、岩石の剣が複数本天井から顔を覗かせ…秋型から支配権を奪うと、まるで、ひと回り小さな蓋が鍋の底に落ちる様に…天井が彼らの元に落ちてきた。




