第13話
居間のど真ん中。四角いちゃぶ台に座る狸の向かい側、用意された座布団の上に二人して正座する。
「招待のお誘い、ありがとうございます!私は夕空逢、こっちのお侍さんは北本澪さん」
頭を下げる夕空に習い、軽く頭を下げる。
畳部屋というのが完全に、夏頃に祖父の家に遊びに行く感覚を思わせるが、この世界にそのイベントは無い。
「本日貴方たちをお呼びしたのは…私たちではなく、別の怪異についてなもし」
「ゴーレム、という怪異をご存知なも?」
「あ、はい。確か、衛士の第七神秘のような…」
「なも。一言で言えば、岩でできた人形のような怪異なも。…先日、この村付近に何体も出現しているらしく…」
「…口をはさんで申し訳ないんだが、それって衛士の神秘の可能性は?」
「恐らく無いなも。術者が近くにいなかったなもし」
「うん。…まぁ、得意な人だとその限りでもないんだけど。数がいるなら、衛士協会で何かしら作戦が発令されてるだろうし、私にも連絡が来ると思うよ」
「使えるのか」
「あんまり得意じゃないけどね」
「…お礼はするなも。この村に入ることはないといえ、このままじゃ出掛けられないなもし」
怪異からの依頼…いいや、そもそも、怪異と関係を持つ、ということ自体、彼ら2人には経験がない。「ま、いいんじゃね?」という彼の頭と同じように、人間社会が出来ているのなら楽だったが…。
「お任せください!ね、北本さん」
この場にいる人間は、彼と同じように「ま、いっか」と簡単に引き受ける少女だけであった。
「ああ…ただ、その前に聞きたいんだが」
「なも?」
「お前たちの力はなんなんだ?」
その問に驚いた顔をしたのは夕空だけで、タスキはというと、彼の疑問に眉1つ動かさない。
「化かす力といえば良いか、騙す力と言えば良いか…。私たちは体内から出る煙を用いて、他者の認識を阻害することができるなも」
「あの森の…」
「なも。といってもあの森の物は少し特別で、認識を阻害というより、意識を朦朧とさせるものなのですが…とにかくそういう能力なも」
???といまいち理解していない夕空を見てか、タスキは微笑むと、ボンッ!という音と共にタスキの周りに一瞬にして煙が立ち込め…それが晴れた頃には、70歳程の人間の爺さんが立っていた。
「まぁ、こういうことなも」
「目を閉じてたら効かない?」
「なも。…言わばこれは、煙の衣によって体を覆っている状態なので、効かないと言えば効かないでしょうし、効くといえば効くかと」
今まで上空から侵入者がいなかったのは、恐らく森と同じく霧を張り巡らせているのだろう。夕空の眠ったような状態からして、霧が出たタイミングからすでに引っかかっていたのであれば、霧の前情報が無いことにも納得がいく。神秘使いと非神秘使いだと効き易さに差があるのかもしれない。同時に2人が掛かったら、詰んでいただろう。
「こちらからもお尋ねしたいなも…」
「なんでしょう?」
「…実力者であることは私の目にも解るなも。なも…あなたからは神秘の気配を感じないなも。それに、剣を二本なも」
「…」
先程から黙ったままの夕空の微妙な雰囲気に、しかし確固たる決意を持って、彼はゆっくりと言葉を発する。
「自分は神秘を持ってない。ただ…依頼を果たせる自負はある」
気が付くと胸にやっていた右手が確かに鼓動の声を聞き、はっきりと言い切ったその言葉が、彼の中に木霊する。
「…なも。よろしくおねがいするなも」
改めて頭を下げられ、2人は頷くと立ち上がり、屋敷を後にした。
「…なんだか、少し印象変わったなぁ」
「ふぅん?」
「なんとなく。何がどうってわけじゃないんだけどね」
絶望の色は消えてはいない。彼はまだ、強い。ただ…もしこの依頼を達成できたら、弱くなってしまうのだろうか。でも、じゃあ…達成できなかったら…もっと強くなれるのだろうか。
『何か、絶望の代わりの力の源があればいいのに』
目を伏せ願ったその思いが叶う日は来るのだろうか。




