第1話
「今日も朝から味噌煮込みですたい!」
高カロリーな声で男は叫んだ。
「あいよっ!」
カウンターの婆さんも負けじと応答する。この脂ぎったやり取りを見るためだけに、毎朝ここ『立ち食いウドン粉竜《こなりゅう》』にやってくる客も少なくないらしい。
ベッドタウンの駅前ということも手伝ってか、店は繁盛しているようだ。店構え、店内、ともに昭和そのもの。腰の曲がった皺だらけの婆さんが1人で元気良く客を捌いていく姿はなんとも爽快である。
「味噌煮込み、お待ちィ!」
「っしゃああ! 待ってましたああああ!」
テンションの上がりきった男は勢いよく箸を割り、粉竜自慢の太麺を一気に吸い上げていった。滴り落ちる汗も拭わず、男は一心不乱に麺を啜る。
「うんめええええ!」
毎朝お決まりのガッツポーズも飛び出した。
ここから男のペースは一気に加速する。あっという間に麺を食べ終えるやいなや、器を持ち上げ汁と具を一気飲みし、完食。
「こりゃ参りましたな。完敗でござるよ」
誰に言うでもなく天井を見上げながら呟き、代金をカウンターに置く。
「ごっそさん! また明日!」
男は上着を羽織ると足早に店を出た。時間は8時31分ジャスト、あと1分で電車がやってくる。
「味噌煮込みパワーマックス全開エンジン!」
他人には決して見えない羽のような物を広げた感覚で、男は全速力で走り去った。