武田の家臣は、異世界を生きている。「亜人と歩む!~瑠璃色王のレクイエム~」キャラストーリー
季節外れの寒くなった夜更けに、酒を飲む一人の男。
連れは先に酔い潰れ既に周りには、人が疎らになっていた。
「すまんが、此れに酒を詰めてくれ、たっぷりと頼む」
男は慣れた手つきで注がれる酒を視ながら、考えていた。
知らない異国に初めて来た際に持っていた物も酒と何時も腰に付けている相棒だけで、言葉も解らずに難儀した頃の事だった。
日ノ本にて朝を迎え、頼まれた職務を全うせんと明け暮れた日々を懐かしく思っていた。
「想えば、信濃佐久郡内山城から、永き責務であったのぅ」
「珍しく黄昏ちまってるねぇ、虎さん」
「なぁに、少し昔の事を思い出してただけじゃよ」
「虎さんの昔は遥か昔だろ、ドンだけ爺様してるか考えてみなよ」
「ははは、確かに、既に親方様も御亡くなりになってるだろうなぁ」
「そういやぁ、虎さんは、島人だったな、たまには、虎さんの話を聞かせてくれよ? 一杯奢るからさ」
そう言い一杯の酒を出す店主。
男の生まれは、上総国望陀郡飯富庄、飯富氏の生まれである。
その血は 源義家の血筋にあたる。
享禄4年ーー1531年。
今井信元・栗原兵庫と共に武田家、第18代当主であった、武田信虎に反旗を翻した。『河原辺の戦い』である。
しかし、男達は、敗れ降参する事となる。
その後、信虎に許され臣従した。
「なんか、仰々しい話だな? 虎さんが負けたなんてな」
「儂も、血気盛んでな、時代が見えていなかった、それ以上に親方様は強く賢かったんじゃ」
そう言うと、酒を一口含み、喉にから胃にそそぎ込んだ。
ーー
天文5年ーー1536年。
北条氏綱が駿河国に侵攻する。
男は、信虎と共に今川軍の援軍として参戦し、北条軍を大いに暴れ其れを撃ち破った。
天文7年ーー1538年
男の転機がやって来る。
諏訪頼満・村上義清の連合軍と戦う事になる。
寡兵であるにも関わらず、数で勝る諏訪頼満・村上義清の連合軍を打ち破り、男は首級97を挙げる軍功を挙げた。
ーー
「やっぱり、虎さんだなぁ、まあ、人間が虎さんより、強いなんて考えたくもないがなぁ」
「儂も、彼方じゃ人間だったんじゃ、全ては運も味方につけた奴が生き残る時代だったんじゃよ」
「それからどうなったんだい?」
「儂は、使えていた親方様が日に日に甘くなっていくのを感じたんじゃ、そして、御子息の類いまれなる才能に皆が固唾を飲んだ」
「虎さん? まさか!」
「殺したりせんぞ? 親方様には、恩があるからな」
ーー
天文10年ーー1541年。
武田信虎が家臣と息子の武田晴信、(後の武田信玄)により、隠居させられる。
ーー
「それから、他にも8000の敵を前に800の部下と戦った事もあったのぉ、流石に死を覚悟したが、不思議と勝ち戦になったのは、今も忘れられん」
「スゴいなぁ、それで、どうなったんだい、その後の展開を教えろよ。虎さん」
そう言い酒をつぐ店主は話の続きが気になって仕方ない様子だった。
「儂は、いつしか、晴信様の御子を面倒見るようになったんじゃが、大きくなるにつれて、親子の溝も巨大になっていった」
「また、親子で喧嘩か、虎さんも、大変だったな?」
「しかし、儂は、謀反を疑われてな、無実の罪をでっちあげたのが、弟としり、馬に跨がって山道を急いだんじゃ、それがいけなかった」
「どういうことだい?」
「その日は、生憎の土砂降りでな、昼までに戻ると影武者に言い残し、山を進んだんじゃ、馬ならば直ぐ立ったからな」
男は、急ぐ山道で土砂崩れにあい、馬を操り何とか逃げ延びたが、地盤が緩んでおり、男の着地した地点から更に土砂崩れが起きた。
「儂は、気づいたら知らない島に寝ておった、そして、島が引っくり返ると此方の世界に落とされとった」
「島人は、いきなり此方に来るって聞いたけど、本当なんだな」
「まぁ、儂は、既に死を覚悟していたが、影武者には悪いことをした。よくて追放、悪ければ切腹だ」
男は、酒を飲み干す。
話が終わると男は店を後にした。
「あ、虎さん! 支払いまだだよ!」
「シアンに、つけといてくれ、奴の祝いの祭りだ。文句はあるまい」
「あ、仕方無いなぁ、魔王に支払いをさせる使用人なんて普通いないんだがな、まぁ、虎さんらしいな」
店主は、笑いながら男を見送った。
ーー
男の此方での名は『源朴=虎之介』
日ノ本では、『飯富虎昌』と名乗っていた武人であった。
ーー
「月の綺麗な晩には、口が緩みすぎるようじゃ、今日は四の月か……」
そう言うと肩にかけた、瓢箪から酒を飲みながら、月を眺めるのであった。