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《スピリーム・ゼロ》(旧版)  作者: 五月奏人
第二章《人と霊》
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第二章《人と霊》(第三部)

 悲鳴が聞こえたグラウンドに着くと、1人の女子生徒が今にも邪霊に襲われそうになっていた。魔法を使うか悩んでいた刹那達を置いて、十華は直ぐに魔法を放った。それは見事に邪霊だけを狙い撃った。

「先生方と黒飾君達は、涼風(すずかぜ)さんをお願いします。私は邪霊の方に当たります」

 そう告げると、十華は一瞬にして間合いを詰め、至近距離で土属性魔法の《ストーン》を放った。足腰に力が入らなくなった涼風の腕を肩に回し、歩いていた刹那達はそれを見ていた。余りの実力の違いに驚き、刹那は思わず声を出した。

「生徒会長、凄いですね……」

 それにイリスが答えた。

「あぁ。アイツは、馬鹿が付く程の努力家だからな。それに見合った実力を兼ね備えている。元々、黒飾と同じで精霊力は少なった方らしいけどな、っと」

 涼風をグラウンドから運び、木陰に座らせるとイリスは続けた。

「土属性って、地味な属性によく思われがちだろ?よくある魔法関係の本とか見ても」

「えぇ……あまり、表立った活躍は……」

「アイツは、それが嫌で必死に努力してきた。自分の属性に誇りを持ってるから、かな。その誇りが汚されてるのが単純に嫌だったんだろう」

 刹那達は、十華の方を見て、イリスの話を聞いた。

「アイツみたいになれとは言わない。ただ、努力する事は大切だって事だけは伝えておきたい。それはアイツが証明してるからな」

 話を聞いている内に、邪霊は弱り果てていた。十華は、ただひたすらに相手に隙を見せないよう、逆に相手の隙を付きながら攻撃を与えた。少し口元を緩ませながら。膝をつき、今にも倒れそうな邪霊の前に立ち、十華は右の掌を邪霊に向けた。

「よく頑張りました。でも、まだ実力不足ですね。来世に、またお会いしましょう。《ロック・スピア》」

 石で作られた槍が、邪霊を突き刺した。邪霊は黒い煙を放ちながら、消え去った。邪霊を祓うと、十華は刹那達の元に近付いた。

「ありがとうございます。」

「いや、こっちのセリフだ。それより、よく邪霊だけを狙ったな」

「努力の結果ですよ。どんな状況でも最適な判断が出来るように、日々研究してますからね」

 十華は笑みを浮かべ、そう言った。涼風をイリスとフレイヤが運ぶと言い、今日は解散となった。解散すると、十華は刹那達に話をしていいか尋ねた。

「皆、ちょっといいかな。さっきの話の続きをしても、いい?」

 蒼唯と紅明、ルナはすぐに答えた。

「はい、少しに気になったので」

「はいはーい!問題無いよー!」

「私もー!」

 笑みを浮かべ、ありがとうと言うと、刹那とフラム、リューンの方を十華は向いて改めて聞いた。

「そちらの方々は、どうですか?」

 リューンは、少し睨みながらも、ため息をつき、答えた。

「はぁ……いいわ。好きにして」

 フラムも、少し遅れながらも、答えた。

「う、うん……」

 2人が返事をしても、まだ答えない刹那を、十華は見つめた。

「黒飾君は……どうかな?」

「知りたいです、けど……なんて言うか。まだ知る必要は無いかなって……」

「あら、面白い回答をするね。確かに、まだ知る必要は無いかな。でも、これから戦う仲間の事、少しでも知っておいた方が有利になるんじゃないかしら」

 刹那は、その発言にどう返せばいいかわからず、何かわだかまりを抱えながら、聞くことを選んだ。

「じゃあ、まず初めに《零の人》。黒飾君、君の事だよ」

 再び笑みを浮かべ、刹那を見た。それに関しては、薄々気付いていたのか、皆の反応は薄かった。

「知ってるのは、当然ね。さっき聞いてたはずだからね。なんで《零の人》って呼ばれてるのかって言うと、今までそういった選手が精闘祭に出てなかったから、珍しがってるのよ」

「世界選手権に、無名の選手が出て注目を浴びてる、って感じですかね」

 十華の説明を、刹那が少し言葉を変えて十華にもう一度返した。そんな感じ、と言った具合に答えると、次の説明に入った。

「次に、《神機妙算の狙撃銃》。これは、フラムさんの事よそうよね?」

「はひっ!?はっ、はい……」

 突然名前を呼ばれて、フラムは思わず変な反応を取ったが、すぐに小声で答えた。それには、リューンを除いて驚いていた。蒼唯は、十華に聞いた。

「神機妙算って……神が与えたような、計り知れない策略って意味ですよね?」

「うん。合ってるよ」

「そう言った実力が、フラムさんに……?」

「ある、と言えばある。でも、フラムさん、いつもこんな感じだから、そう呼ばれてる事は皆あんまり知らないの。」

 人見知りの激しいフラムに、そう呼ばれる事になった何かがあるのだろうが、十華は答えなかった。そう言ったことは、本人が言うまで何も聞かない方がいい、と十華は言った。

「ただ、神機妙算って呼ばれることは、その時にそうとまで呼ばれる程の、実力だったって事に変わりはは無いよ。もしかしたら、本当のフラムさんだったのかもね」

 フラムは、リューンの後ろに隠れながら、十華を見ていた。

「じゃあ、最後に……《鬼神の刃》。リューンさんの事よ」

「あんまり、その呼ばれ方好きじゃないのよ。私は鬼神の刃じゃないし、鬼神程の実力もないからね。鬼神に使われたら、柄の部分が折れるわよ」

 どういった鬼神の刃なのか、刹那達は考えていると、紅明が言った。

「あの武器形状って、ある意味最強だよね」

 その発言に、リューンと十華は紅明に寄った。

「「それよ!」」

 リューンと十華は声を合わせてそう言った。

「あれは、私が得た知識を合わせた、近接武器の形を取る私にとって、最善な策よ」

 リューンは、興奮しながら紅明に言った。

「あれを扱える人は、そういないの。両剣って呼ばれる武器があるけど、それがモチーフなの。様々な状況で使い分けれるけど、1つ間違えば、仲間も巻き込みかねない。だから使いにくいの」

 そのまま説明を続けた。

「でも、私はそれを扱える人を待ってた!そしたら、高宮さん、いえ紅明ちゃん!貴女がその魅力に気付いた!それはもう運命だと思った!そして今分かった!貴女にしか、私は扱えない!」

 リューンは、紅明に顔を物凄く近づけていた。紅明は、顔の前に両手を出した。

「う、うん。と、とりあえず、落ち着いて」

 そう言った直後に、十華が話を始めた。

「両剣とハルバードを合わせた、強者が持つかのような武装。かつて、この世界で起きた大戦で活躍した鬼神と呼ばれた精霊騎士が居たの。その鬼神の使ったとされる武装が、リューンさんの武装に似てるの!そう言った経緯があって、リューンさんの事を多くの人が《鬼神の刃》って呼んでるの!」

 リューンと同様に、十華も興奮して紅明に顔を近付けた。更に話を続けようとした2人の姿を見て、蒼唯が止めた。

「ふ、2人共落ち着いてください」

 蒼唯が、リューンと十華の肩に手を置き、そう言った。

「つい……」

「取り乱してしまいました……」

 落ち着くと、十華が最後に話をした。

「さて……そろそろ私は、生徒会室に戻りますね。いろいろとお騒がせしました」

 深々と礼をする姿を見て、刹那達は礼をした。

「あ、最後に1つ……」

 そう言うと、十華に笑みは無く、真剣な表情で告げた。

「精闘祭に出たいなら、今のあなた達には絶対に無理です。優勝を目指すなら尚更です。諦めるなら、今の内に……ですよ?」

 そう告げると、十華は生徒会室のある校舎へと向かって歩いて行った。

 見たことのない表情に、刹那達は少しばかりの恐怖を感じていた様子だった。

「石ヶ原さん……なんだか、怖かったね……」

 蒼唯がそう言うと、リューンが続けて言った。

「十華のあの表情、かなり本気だったよ。あの睨みだけで邪霊殺せそうなぐらいにね」

 十華の表情は、真っ直ぐに相手の本質を見ながら、同時に恐怖を植え付けているかのようであった。当然、フラムはリューンの後ろに隠れっぱなしの状況になってしまった。

 そんな中、あることに気付いた刹那が、リューンとフラムに聞いた。

「ねぇ、知見さんと照屋さん。もしかして、25チームある中の、例外的なチームって」

「石ヶ原十華……を筆頭とした生徒会メンバーで構成されたチーム。今回の精闘祭における、優勝候補。十華の動きを見て分かったと思うけど、あれぐらいの実力が求められるの、精闘祭って。それでも、さっきのあの十華はまだ3割ぐらいじゃないかな。エンハンスも何も使わず、精霊に頼らずあの実力だから」

 計り知れない現実を突きつけられたかのように、刹那達は更に恐怖を覚えた様子だった。

「精霊なくして、あの力。努力家って言われてるけど、努力だけじゃあそこまで強くなれない。何か心に抱えてるから、あそこまで努力出来て、力が付くんだと思う。そこに精霊加えたら……あとはどうなるか、分かるわよね?」

 戦ったことのない刹那達でも、容易に想像は出来た。圧倒的な差に、今の刹那達はただ諦めるという選択肢しか、浮かぶことが出来なかった――

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