第二章《人と霊》(第二部)
イリスの発言に、刹那達は驚いていた。少しの間、沈黙が続いた。それを破ったのは蒼唯だった。
「契約……ですか?」
「あぁ、契約だ。もっとも、仮だけどな」
「仮でも、契約をしたら色々と……」
「確かに、問題はあるだろうな。だが、それは明確なルールが義務付けられていなければ、だ」
蒼唯と紅明、ルナは頭に疑問符を浮かべていた。それを直ぐに理解した刹那は、イリスに聞いた。
「もしかしてですけど……夏の大会ですか?」
刹那の質問に、イリスとフレイヤはニヤリとした。待ってました、と言わんばかりにイリスは説明を始めた。
「刹那の言う通り、精霊騎士協会、通称サンクチュアリ社主催。精霊武闘祭、『精闘祭』に出場する!」
フラムとリューンを除き、4人は唖然としていた。この手の大会は、優秀な生徒を選考してから、行うものだである。しかし、ここは騎士科の担任が決めた生徒3人と、精霊科の担任が決めた精徒3人の計6人を無差別に選んだものである。今回、イリスは自分のクラスから3人を選んだ。対してフレイヤは、学年別に1人ずつ選んだこととなる。
「因みにだが、黒飾と仙娥以外に相性が合う奴はいない。理由は、分かるな?」
イリスが刹那に目をやると、分かったように答えた。
「まぁ……前例があまりないですからね。同い年にいること自体珍しいですし」
過去の文献ではあるが、刹那とルナのような存在は、遥か昔から存在していたらしい。ここ数十年は、そういった事例が無いが為に、珍しい事であるが、初めてではない。しかし、偶然にも対照的な存在が居た為、刹那とルナは必然と組む事となった。
続けて、刹那はイリスに聞いた。
「僕と仙娥さんに関しては、分かりましたが…… どうしてこのメンバーなんですか?」
「不満……と言った表情ではないな。理由は単純。勘だ」
「「えっ」」
その場にいたフレイヤを除いて驚いていた。予想外の質問に、皆イリスに質問攻めをした。落ち着け、と言いイリスは、落ち着かせると順番に話をした。
「まぁ、待て。勘とは言ったが、ちゃんと精霊力を考慮してる。そのうえで、決定した。組み合わせに関しては、蒼唯とフラム。紅明とリューン。これに関しては、勘だ」
この組み合わせに関して、その4人は大丈夫かな、とそれぞれ心に抱いてる様子であった。社交的な蒼唯に対し、人見知りの激しいフラム。何事にも情熱な紅明に対し、冷静沈着なリューン。刹那とルナ同様に、対照的な存在である。そんな心境を見抜いてか、イリスは話を始めた。
「とりあえず、全員思うことはあるだろう。正直、私もフレイヤと最初は馬が合わなかった。人間と精霊は確かに、異なる存在かもしれないが、根本的に内に秘めてるのもは同じだ。それを打ち解けあうか、あわないかは、長い日をかけないと分からない」
その話を、皆真剣に聞いていた。イリスは、そのまま話を続けた。
「相性が合うか合わないかは確かに問題だ。だが、精霊騎士……『スピリットナイツ』を目指す者なら、これぐらいの事は乗り越えなきゃならない。心がある者としてなら、尚更だ」
イリスの話を聞いてか、刹那達の表情は変わった様に思えた。まだ先がある者としての、何かを見出せたのか、6人は顔を見合わせていた。代表してか、刹那がイリスに聞いた。
「イリス先生……契約の仕方、教えてください」
刹那達の目には、はっきりと光が灯っていた。今までの迷いが、無くなった目をしていた。その目を見てか、イリスとフレイヤは、安心したような表情を浮かべていた。早速、イリスが刹那達に契約の手順を教えた。手順としては、大きく分けて、ある
その1、『我、汝との契約を此処に印す』と唱えながら、人は右手で精霊の左手を握る。この場合の手の握り方に決まりは無い。
その2、『魂、汝との契約を此処に印す』と唱えながら、精霊は右手で人の左手を握る。この場合の手の握り方に決まりは無い。
その3、『我魂、此処に悠久の契約を刻む』と唱えると、精霊は本来の武装となり、人の手に握られる。
また、仮の契約の場合、その3にあたる、『悠久』という言葉を『一時』とすることで、仮契約が行われる。仮契約か本契約かの判別は、3日前に生徒に渡された、携帯型電子生徒手帳が判断している。ただ、契約の解除に関する話は、この時イリスからは詳しく伝えられなかった。
刹那達は、仮の契約という手段もあったが、本契約を選んだ。
「「我魂、此処に悠久の契約を刻む」」
蒼唯とフラムが契約をすると、フラムは黄色の光となった。光が蒼唯の両手に収まるような形を作り出した。光が弾かれると、中からスナイパーライフルが現れた。武器の形は、精霊のモチーフと感情で異なる。フラムは太陽がモチーフである。関連性が無いが、感情によって、この形となったのかも知れない。
「スナイパーライフル……初めて持ったなぁ……あはは」
「へ、変な形で……ごめん、なさい……」
普通は、持つことないものを持っている為か、蒼唯は少し苦笑いを浮かべていた。フラムは、それに関して謝っていたが、蒼唯は謝らなくていいよ、と言って互いに謝りあっていた。その近くで、紅明とリューンが契約をしていた。
「「我魂、此処に悠久の契約を刻む!!」」
紅明とリューンが契約をすると、リューンは緑色の光となった。光が棒状の形を作り出すと、さらに変化をしながら、紅明はそれを包んだ。光が弾かれると、両剣の形をした武器が現れた。片方の刃は、大きく、斧と槍を合わせた様な、突きと斬りが出来るものとなっている。反対の刃は、小さく、突きと薙ぎ払いがし易くなっている。この形は、本の精霊であるリューンが自ら見つけた、最善策な形である。使用者の技量は考慮していない様子である。
「でかっ!何これ!両剣!?なんか使いやすそうだな」
「あら。かなり扱いの難しい武器よ?それを使いやすそうだなんて。面白い子ね」
興奮している紅明を見て、リューンは楽しそうにしていた。そんな4人の隣で、刹那とルナが契約をしていた。
「「我魂、此処に悠久の契約を刻む!!」」
刹那とルナが契約をすると、ルナは青紫色の光となった。光が棒状の形となると、反りをつけながら変化する光を、刹那は掴んだ。光が弾かれると、鞘に納められた太刀が現れた。下向きに太刀を抜くと、刃から溢れ出る美しさに、刹那は僅かな恐怖を覚えていた。しかし、直ぐに慣れて行き、ゆっくりと刃を眺めた。この辺りで有名な刃物の町で見た、のたれ波紋があった。眺めているとルナが刹那に照れくさそうに話しかけた。
「あのー眺めるのはいいんだけど、その……結構目線が気になるんだよね……えへへ」
「あっ、ご、ごめん」
武装と言えど、精霊の意思はあるため、こういう反応もあり得る。
それぞれが、楽しそうにしている中、イリスは話始めた。
「よーし、とりあえず、契約は完了したな。じゃあ、本題の『精闘祭』に入ろうか。とりあえず、武装は解除な」
武装の解除は至って簡単で、精霊自身で行えるものである。解除と心の中で念じるだけでいいらしい。6人は席に着くと、イリスは話をした。
「このメンバーで、精闘祭に出るわけだが……。はっきり言うと、このままじゃ出場権は無い。」
「ですよね」
刹那は、それに答えた。
「だから、明日からここで寮生活を送ってもらう。」
「「えっ」」
フラムとリューンを除いて、4人はまたも驚いた。フラムとリューンは、元々寮生活であるが、それ以外の4人は家から通っている。話の急展開に、蒼唯は遂に思考回路が停止したのか、机に倒れ込んだ。
「あっ、蒼唯が倒れた。」
「やっぱり……」
それを見て、紅明と刹那はそれぞれ口にした。ルナとフラムは慌ててる中、イリスは話を続けた。
「っても、親の同意がいるから確定じゃない。この紙に書いてくれればいい。怪しい紙じゃないから」
「いや、はい……」
イリスはそう言いながら、該当する4人に紙を渡した。蒼唯はまだ倒れていた。紙には、様々な事項が書かれており、その上で同意のサインを、となっている。それを鞄にしまうと、イリスは、簡単に精闘祭について話を始めた。
精闘祭。通称、精霊武闘祭。精霊騎士を目指す、学生にとって、重要な通り道であり、目指すべき目標でもある。但し、この道を通ったからと言って、精霊騎士になることが保証されるわけではない。あくまでも、目標なのである。
その精闘祭は、全世界から選りすぐりの精霊騎士見習い、精霊学園の生徒達によって競い合う大会である。毎年一度、夏に行われる。様々な部門に分かれており、その部門をクリアすることで、本格的な対戦が行われる。また、それに出場するために、各校で選抜されている。
今世紀は、日本にサンクチュアリ社がある為、日本は10校から出場する。確定出場権のある精霊学園と、とある学園を除いて8校が加えて出場出来る。各校からは、3チーム、18人が出場。尚、今回外国は、各国にある精霊学園から1チーム、6人が出場。サンクチュアリ社が何処にあるかによって、出場チーム数が変化する。
今回、精霊学園からは3チーム出るが、選抜チームがおよそ刹那達のチームを含めて、22チーム。この中から、3つしかない出場権を取らなければならない。そういった説明を終えると、イリスは刹那達に聞いた。
「まぁざっとこんな感じだ。何か質問は?」
紅明が挙手した。
「高宮、どうした?」
「余裕で負けますね」
「当たり前だ。と言うより、質問になってないぞ。」
「てへ」
思考回路停止から戻っていた蒼唯が、挙手した。
「細流、どうした?」
「どうして、24チームじゃなくて、25チームなんですか?24チームなら、8チームで上手く分けれるのでは?」
「あぁ……それは、とあるチームが絶対に出場できる程の実力と理由があるからな。」
「それって一体――」
続きを言おうとした時、突然扉をノックする音が聞こえた。
「さっきの話は、今度な。どうぞ」
イリスは、話を中断して、ノックした人に入るように言った。
「失礼します」
聞き覚えのある声に、刹那達は驚いた。
「生徒会長の石ヶ原十華です。入学式以来ですね、黒飾君」
笑みを浮かべながら、刹那の方を十華は見つめた。大人びたその風貌、流れるような美しい黒髪に、胸が高鳴った刹那は目を逸らした。
「それに、細流さん、高宮さんも」
そう言うと、2人の方を、笑みを浮かべながら見つめた。深い面識が無い2人は、少し驚いていた。そのことに驚いてか、蒼唯が聞いた。
「ど、どうして、私たちの名前を……?」
「いえ、ただ少し、他の方々と違うなぁと思いまして。それで気になって、資料作成のついでに、調べただけですよ」
再び笑みを浮かべて、蒼唯を見つめた。紅明は、何か勘付いたのか、リューンに耳打ちした。
「あの生徒会長……なんか、違うね。他の人と」
「あら、それに気付くなんて……やっぱり面白い子ね」
そんな中、イリスは十華に話かけた。
「それで、生徒会長さん。何用かな?」
「いえ、特に。ただ……イリス先生とフレイヤ先生が選んだ人が、どんな人かなぁと思いまして。」
「見ての通り、普通。」
そうですかね、と言った感じで首を傾げながら、十華は話をした。
「《零の人》と《神機妙算の狙撃銃》、《鬼神の刃》。ここまで揃えて普通だなんて、隠すの下手ですよ?」
聞きなれぬ言葉に、刹那達は頭に疑問符を浮かべた。
「知らないのですか?では、私から説明」
を――と言おうとした瞬間、近くのグラウンドから悲鳴が聞こえた。
「キャーーーーッ!!」
すぐさま、刹那達は、その悲鳴が聞こえた方へと向かった―――