第一章《零と佰》(第四部 後編)
次の日。登校途中、刹那と蒼唯に少し変な空気が漂っていた。二人の様子を見て、紅明は、マズいな、と思っていた。何か言わねば、と思っているとルナがやってきた。
「やぁやぁ三人方。おはよう!」
「お、おはよう!」
「おはよ」
「仙娥さん、おはよう」
ルナは昨日とは違う三人を見て、疑問に思ったが特に気にせず、紅明に話をした。事実上、刹那と蒼唯だけになってしまった。互いに、話かけたいが少し気まずい雰囲気を、漂わせていた。
しかし、その雰囲気の割いたのは、刹那であった。
「蒼唯、昨日はごめん!」
思いがけない事に、蒼唯は少し戸惑っていた。が、蒼唯もすぐに謝った。
「私も、昨日はごめん!」
突然謝りだした二人に、紅明とルナは驚き、振り返った。それを見て紅明は、安堵の表情を浮かべていた。対して、ルナは喧嘩していたのかな、と言った表情を浮かべていた。それから刹那と蒼唯は仲直りし、四人で楽しく話しながら登校した。精霊科と騎士科は、校舎の関係上、中庭を挟んだ反対側の教室の為、玄関でルナと別れ、三人は教室へと向かった。
教室に入ると、昨日の静けさよりは、少し賑やかな感じではあった。しかし、まだぎこちない雰囲気もあった。席に着いて、それぞれ三人は隣の席の子たちと話をして時間を潰した。刹那の左隣の席の子の名前は、泉清奈。好きなバンドが同じで、話すようになった。後の席の島木凛も、同じバンドが好きで、三人で話すようにもなった。数分後、イリスが入りSHRを終えて、体育館への移動となった。一時限目と二時限目が対面式とそれを兼ねた学校紹介もあるからである。
皆、体育館へと向かった。一年生だけで五百人。全校生徒で千五百人である。これでもまだ少ない部類であるとのこと。体育館前に着くと、一年生は待機するようにと言われた。既に、二、三年生は体育館へと入場完了しており、一年生が来るのを待つという状況であった。数分後、入場するように言われて、一年生は騎士科から順番に入場する事となった。入場すると、先輩や先生達に盛大な拍手で迎えられた。勢いに圧倒されながらも、レッドカーペットに沿って進んでいった。
指定された場所まで行き、その場所に体育座りをした。そして、対面式は始まった。
まず、この学校の特色紹介を精徒会の方から行った。それが終わると、部活動紹介となった。それぞれ個性的な紹介を行っていった。それも終わり、一年生はその場で後ろを向き、二、三年生と対面した。対面式に関しては、一年生代表二人と、精徒会会長とその精霊の二人で行い、対面式を終えた。項目としては少なかったが、一つ一つの内容が濃い為、それだけで二時限目まで終わった。
対面式を終えた後、教室に戻ると体操服に着替えるように言われた。着替え終わったら、体育館左手側にある、グラウンドに向かうようにとも言われた。女子は更衣室に向かい、女子が全員教室を出ると、男子は教室で着替えた。すると、男子だけになった途端、新田や村木が刹那に近付いて来た。
「黒飾君。細流さんと高宮さんとは一体どのようなご関係で……?」
「入学当初から仲良かったから気になって気になって」
二人は、中学時代同じだったらしいが、互いに印象が薄いせいか覚えてないらしい。
聞かれた刹那は、えぇ、と思いながらも答えた。
「幼稚園の頃からの幼馴染だよ。小学校とか中学校でその質問されてたから、もう慣れたな」
笹倉と村木は、そうか、と物足りない表情を浮かべ、席に戻って着替え続けた。
着替え終えると、グラウンド用の靴を持って玄関へと向かった。そこで履き替え、グラウンドに向かった。グラウンド言っても、精霊学園には二つのグラウンドがあり、一つはかなり広く、土地の約四分の一を占めている。途中、蒼唯と紅明と合流し、グラウンドに向かった。すると、既に一クラスの生徒たちが来ていた。それを見て、紅明が二人に聞いて来た。
「そういえば、三時限目って何するんだっけ」
その質問に、蒼唯が答えた。
「必須科目の一つ、精霊の授業だから、騎士科は精霊科の子たちと合同授業をするの。今日は簡単な授業じゃなかったかな」
「へー、寝ちゃいそう」
「寝ないの」
「てへぺろ」
そうしている二人を刹那は見ていると、聞き覚えのある声が三人を呼んでいた。
「おーい! 刹那ー! 蒼唯ちゃーん! 紅明ちゃーん!」
声の正体は、ルナであった。合同授業は精霊科のAクラスと行うらしい。刹那は、あまり大声で呼んでほしくない思いであった。同じクラスの男子にまた何を言われるか分からないからである。そうしていると、イリスと精霊科の担任であろう先生がもう一人やってきた。
「おーい、お前らー、出席番号順に二列でちゃんと並べよー」
「精霊科の子たちもよー」
番号順に並び、挨拶をするとその場に座るように言われた。するとイリスが精霊科に自己紹介を始めた。
「あー、騎士科Aクラスの担任のイーリス・スカーレットだ。イリスって呼ばれてる。よろしくな」
イリスの自己紹介を終えると、続けて、赤いロングヘアーの先生が、騎士科に挨拶を始めた。
「始めまして。精霊科Aクラス担任の、蛍火フレイヤです。精霊での名前は、簡単にN・フレイヤ。ギリシャ神話のフレイヤです。よろしくね」
微笑んで自己紹介を終えたが、騎士科の生徒たちは驚いていた。精霊には、様々な物から成るものの他、神話上の神が精霊として存在している。しかし、日常生活では見ることはない為、本当に居たことに驚いている。フレイヤは続けて話をした。
「因みに、私はイリスの契約者なの。驚きでしょ?」
それには、生徒全員が驚いていた。まだ話を続けようとしていたフレイヤを止めるように、イリスが話し始めた。
「これでも、神の一人なのが驚きだわ……とりあえず、今日は簡単に精霊力と、それを使った事を三四時限目に行う予定だ」
そういうと、イリスは精霊力に関しての説明を始めた。復習も兼ねてか、生徒たちに質問をしていった。説明が終わると、生徒たちに少し離れるようにと言った。フレイヤを呼ぶと、イリスはまた説明を始めた。それは、精霊学園において、騎士科、精霊科にとって最も意味のあるものであった。
「次に、精霊武装。スピリット・アームだとか長い名称のやつだ。略称では、基本的に武装と呼ばれている。例外もあるが、気にしなくていい」
すると、何か疑問に思ったのか、精霊科の一人が質問をした。
「イリスせんせー」
「なんだ?」
「武装にする前に契約を行うって言われてたんですが、それに関しては」
「またあとで説明する予定だ。とりあえず武装に関してを間近に見てもらいたくてな」
そういうと、イリスはフレイヤに右腕を伸ばし、フレイヤがそれを掴むと、瞬く間にフレイヤは赤い光に包まれた。その光は二つに分かれ、一つは右腕を包み込み、一つは左腕を包み込んだ。光が形を作り出し、光が弾かれると中から、赤色の大きな牙と小さな牙が付いた武器が出てきた。
「これが、武装だ。種類としては、ナックルの部類に入る」
それを見て、生徒たちは興奮していた。
「かっけー!」
「赤い!牙大きいな!」
「なんかパイルバンカーみたいなの隠れてない?」
「あー、確かに言われてみれば入ってるな」
イリスは、今どきの子がパイルバンカー知っているのか、と驚いていた。
「因みにだが、この状態でもフレイヤとの会話は可能だ」
「はーい、呼ばれましたー」
「あっ、フレイヤ先生だ」
それを見て、三人もそれぞれ驚いていた。
「にしても、大きいな。あのナックル」
「大きいね。イリス先生ぐらいの身長あるよね」
「重くないのかな?」
それが聞こえていたのか、イリスは答えた。
「精霊力が重量を制御してるから重さは感じられないな。だが、装備しているときは重さを感じないが、装備を外すと、体に負担はかなりかかるから体力作りはいやでも必要だな」
暫くして、フレイヤが元の状態に戻ると、イリスは精霊力を使った技の説明をした。簡単な説明であったが、とても分かりやすいものであった。説明をし終える頃には、三時限目が終わろうとしていた。
「三時限目はここまでだ、続きは四時限目に説明する。一旦解散な」
休憩時間となった。その間、刹那たちはトイレに向かったりしたあと、四人で駄弁りながら休憩時間を過ごした。
休憩時間が終わると、イリスが刹那を指名した。
「刹那、悪いが見学な」
「あー、はい。あそこの木の下でいいですかね?」
「あぁ。悪いな」
「大丈夫ですよ」
そういうと、刹那は一人、木の下へと走って座った。それを見て、精霊科の子たちは何かを言っていたが、特に気にはしていなかった。ルナは走っていく刹那を見て、どうしたのかな、と思ったが、すぐに準備をすることになったため、深く考えられなかった。
予め、線が引かれた場所まで、イリスは生徒たちを4人ずつ並べた。イリスはその並んだ隣に立ち、右手を出して構えた。
「一番初歩的な精霊力を使った魔法を出してもらおうと思う。中学生の時に、精霊騎士から何人か来て、指導はしてもらっているはずだよな?」
イリスがそう聞くと、皆頷いた。
「なら話は簡単だな。あそこに的があるから、そこを狙って打ってみてくれ。学校の方針で、初回の授業ではこういうことをしてくれって頼まれてるからな。面倒だよ、まったく」
教師が生徒に言って大丈夫なのかな、と皆心の中でそっと思った。すると、イリスは続けて打つ時の姿勢などを説明した。
「打つとは言っても、別にどの姿勢でも構わない。右腕、もしくは左腕を伸ばして打ってもいいし、手で銃のように形を作って打ってもいい。とりあえず私からやってみよう……《ファイア》」
そう唱えると、巨大な炎の塊が放たれた。その近くにいた生徒達は、あまりの風圧に押されそうになっていた。放たれた場所から、遠くの位置にいる刹那までも、風を感じる程の風圧であった。肝心な炎の塊は、的を全て壊してしまう威力であった。
「と、まぁこんな感じだ。私のは昔の経験があるから、下級魔法でもあれぐらいの威力にはなる。何事も経験と努力だ。それと、的はデータで疑似的に作られてるから、思いっきり打ってもらっても構わない。それじゃ、フレイヤ、精徒の子の方の記録は頼んだぞ」
「りょうかーい」
のほほんとした表情で返事をした。そうして、生徒たちの今後の授業も兼ねた記録測定が行われた。それを刹那は木の下で見ていた。本当なら自分もあそこに居られたのに、と悔しがっている様子であった。
記録測定をしている生徒達の中には、やはり得意不得意が現れていた。正確に的を狙えられるものや、距離が足りずに消えてしまうもの。はたまた、あらぬ方向に飛んでいくのもあった。そんな中、精徒達の方では、ルナがいた。刹那は、どんなものかな、と少し興味を持って見た。
「じゃあ次ルナさんねー」
「はーい!えぇっと……私の属性は闇だから……《ダーク》!」
ルナの手から放たれた、闇の球体は、イリスのと変わらない大きさであった。それよりも大きく感じられる程のものであった。その場にいた全員が驚いていた。
「おぉ……私こんなに力あるんだ」
また、ルナ自信も驚いていた。全員がルナに興味を持ち、その一時は皆ルナに色々と聞いていた。暫くして、全員分の検査が終わった。すると、次にイリスは精霊武装についての説明をすると言った。刹那はそれも遠くで聞く形となった。
「先程、フレイヤの精霊武装を見せたが、精霊にはいくつもの武装に変化出来るのは知ってるか?」
初めて聞いたような表情をしている生徒もいたが、知っているといった精徒もいた。
「先程のフレイヤの武装は、私と契約を結んだことで、出来る本来の武装だ。他の人とやると、手甲みたいな形になるらしい。所謂、簡易武装と言った感じだ」
生徒たちは、興味を持って聞いていた。
「因みにだが、契約を結んでいない状態で、人が武装をすると精霊力が均衡できなければ……いや、やめておこう。まだ早い」
刹那達のクラスメイトの清奈が先生にそれの質問をした。
「一体何が起きるんですか……?」
「授業が進んだら話す。まだ聞かない方が身の為だ。とりあえず、そういったことが起こらないように、こちらで組み合わせを決めておいた。契約ではないから安心はしな。正式な契約は個々で行うものだからな」
そういうと、イリスとフレイヤが名前を呼んで、組み合わせを発表していった。すると、ルナの名前が呼ばれると、フレイヤが刹那のいる方向を指した。ルナはそのまま、刹那のいる方に走ってきた。刹那はそれを見て、疑問に思った。
「なんでフレイヤ先生、仙娥さんを僕のいるところに……?」
そう思ったころには、ルナが刹那の隣に座っていた。
「やっほー!」
「や、やっほー」
「いやー、精霊力の関係で組み合わせが決めれなかったって言われちゃって」
「精霊力の関係?」
刹那は、更に疑問に思った。明らかに、先程の測定の時に、過剰なまでな球体を形成していた。それほど精霊力があるのに何が問題なのか、と。それを思った瞬間、刹那は何か分かったかのような顔をした。その分かったことをルナに聞いた。
「ねぇ、仙娥さんもしかし」
「あっ、見て、始まったよ!」
ルナは、武装の方に興味を持っていた。後で聞けばいいか、と思い刹那も一緒に見た。それぞれ、盾や小さな鎌、はたまたペンになっている武装もあった。蒼唯が持っていたのは、小振りな刀であった。家事が得意なのを、刹那は知っているが、それを見ていると包丁を持っているようにしか見えなくなっていた。紅明は、手裏剣を持っていた。興味津々に眺めていると、突然それを投げた。その方向は、刹那達のいる方向であった。咄嗟の出来事に、刹那とルナは焦って、互いの頭をぶつけて仰向けになった。間一髪、手裏剣は二人の間を通り抜け、木に刺さった。
「あっ、ごめーん!」
紅明が謝ると、刹那はすぐに体を起こし、紅明に怒った。
「あっ、ごめーん!じゃないよ!?それと投げない!」
肝心な手裏剣は、木に深く刺さっており、ルナと一緒に取り出した。大丈夫か、と刹那は手裏剣の状態の子に聞いた。
「ふぁい……だいひょうぶでふ……うぇ」
目を回している様子であった。すると、ルナが刹那に貸してと言って、手に取った。刹那はまさかと思ったが、すでに渡してしまっていた。
「紅明ちゃーん!返すねー!えい!」
案の定、ルナはそれを投げて返した。紅明が投げたのよりも早く投げていた。
「だから投げるなって!」
思わず、刹那はツッコミを入れてしまった。それより、紅明が大丈夫かとみると、肝心な紅明は平然とそれを取っていた。
「キャッチ!ナイスパス!」
「イェイ!」
二人で楽しんでいた。手裏剣の子は、武装状態から戻ると、倒れ込み、ある意味気絶状態になっていた。言葉にならない言葉を発していた。
「ぁぁっぁい……うぇ……」
イリスとフレイヤに運ばれて、刹那達の元まで連れてこられた。ルナは、大丈夫かな、と言っていたが、こうなった原因は貴女では、と刹那は思った。因みに、彼女の名前は珠玖舞花。精霊での名前は風切螺旋四方剣。甲賀の出身であるらしい。二人は、舞花をそっとしておき、皆の方を見ていた。
刹那は、先程ルナに聞こうとしていた質問をした。
「そういえば、精霊力がどうとかでこっちに来たけど、もしかして、過剰だから……?」
「そうだよ。私、他の人より精霊力が多いらしいんだよね。検査の時も、驚かれちゃった。そういえば、刹那はどうしてこっちにいるの?」
どう答えていいか、刹那は一瞬戸惑った。しかし、どのみち知ることになるであろうからか、隠さず話した。
「僕は、ルナの逆。精霊力が無いんだ。ほとんど」
「えっ、そうだったの。ごめん……」
「いいよ。ただ、具現能力だっけか。それが零なだけで、他のは微だけど、量あるんだ」
「私は、結果見たら、全部百越えてたなぁ。具現能力がちょっと多かったかな」
「それはそれで、凄いな」
自信満々な表情をしたルナをみて、思わず刹那は少し笑ってしまった。
「あっ、笑ったな。このっ」
「ちょ、ギブ、ギブ」
ルナに首に腕を回されていた。そうしていると、ルナが何か閃いて、首から腕を離した。
「あっ、そうだ」
「いいて……何?」
「零と百ってさ。足したら百でしょ?」
「うん。そうだね。いきなり算数がどうした?」
唐突な算数に、刹那は何を考えているんだと思っていた。
「普通の人と精霊って五十同士だから、足したら百でしょ?」
「えぇっと……?」
「精霊力の話だよ?」
「あー……?」
必死に説明しているルナと、理解しようとしているが理解できない刹那。しかし、刹那は何を説明しているかが次第に分かってきて、ルナに言った。
「仙娥さんの言いたいことは分かった。試した方が早いでしょ?」
「うん!」
「でも均衡は……」
「お姉ちゃんから聞いたけど、極端に偏らなければいいらしいよ。精霊に精霊力が傾いてるとか、人に精霊力が傾いてるとか、細かいことはよく分からないけどね」
「なるほど……試しに、やってみるか」
「さっ、来い!」
刹那はルナに右手を伸ばした。その手をルナが掴んだ。突如、ルナと刹那が、轟音と共に強烈な風を放ち、青と紫の光に包まれた。突然の轟音と、巨大な光に生徒たちがその方向を見た。そして、光が弾かれると、刹那が黒紫色の小刀を持って立っていた。その光景に、皆驚いていた。その中でも、蒼唯と紅明は特に驚いていた。
「刹那……?」
「うそぉん……」
精霊力がない刹那だからこそ、有り得ない状況が起きている。イリスとフレイヤはマズいと思っていたが、当の本人らは何も異常が無い様子であった。
「あれ、ルナは……この小刀は……もしかしてルナ?」
「やっぱり!出来た出来た!」
ルナは楽しそうに燥いでいた。その光景を見て、イリスとフレイヤは衝撃を受けていた。
「おいおい……嘘だろ……」
「でも、目の前で起きちゃってるからね……やっぱりやるべきだったんだよ、あの二人で。零と百の可能性を」
「分かってたさ。学校始まってまだ三日目だぞ? 怖くて出来るかっての……」
イリスはそう言って、少しうつ向いたが、すぐに顔を上げた。
「でもまぁ、結果的には良かったか。アイツらが楽しそうにしてるんだから」
刹那は小刀になったルナと話していると、舞花の事に話が変わった。
「あっ、珠玖さん大丈夫かな……まさか何処かに」
「見て見て!あそこの木! 舞花ちゃん干されてるみたいになってる!」
近くにいた舞花は飛ばされており、二つ隣の木の枝にぶら下がっていた。いや、干されてるは、と刹那は思った。近くに来た数名の生徒に手伝ってもらい、舞花を下した。その後、舞花を精徒が二人で保健室まで運びに行った。
イリスが時間を確認すると、既に四時限目が終わろうとしていた。
「よーし、今日の授業は終わりだ。授業の関係上、明後日に2時間あるから、その時にまた別の事」
を――と言い切ろうとした瞬間、イリスとフレイヤはグラウンドのある一点を睨んだ。それを見て生徒たちはどうしたんだろうと、同じ方向を見ると、その一点は少し歪んでいるようにも見えた。次第に、その歪みは大きくなっていった。すると、イリスとフレイヤは生徒たちに離れるように言った。
「早く離れろ!誰か他の先生に伝えてくれ!『校内で邪霊を確認した』と!」
「精徒たちも離れて!」
生徒達にどよめきが走った。事態を直ぐに呑み込めたのか、数名の生徒が、職員室へと向かっていった。刹那や残った生徒たちは、離れて二人を見ていた。
「まさかな……校内に邪霊が出るって話聞いたか?」
「ううん、他の学校でもこんなケースは無かったよ。多分、初めての事だと思う」
「だとすると……まいいか、細かいことは。とりあえず倒すぞ」
「えぇ、分かったわ」
フレイヤは赤い光に包まれ、赤い光は二つに分かれ、イリスの両腕を包み込んだ。光が弾かれると、赤いナックルが姿を現した。同時に、歪みの中から、二メートルほどの大きな邪霊が姿を見せた。生徒達に、更に恐怖が走った。あまりの迫力に震えが止まらない生徒もいた。
「ルナ……アレ、どのぐらいなんだ?」
「下級……って訳でもないと思う。でも下級でも普通に戦っても私たちは負けちゃう」
刹那は何か一人悔しがって、小刀を強く握った。瞬間、邪霊の手にしていた斧とイリスの武装とがぶつかった。火花をまき散らしていた。
「フレイヤ、こいつの名称は?」
「この形態だと、ミノタウロスの部類かもね。これでも幼体だけどね」
「ミノタウロスか……また面倒な部類だな!」
イリスは力を込めて、ミノタウロスを吹っ飛ばした。すると、ミノタウロスは斧を投げつけてきた。それをイリスは避けること無く、左手のナックルで刃を開き、それを掴み壊した。
「時間が惜しい、一気に叩くぞ。《エンハンス・フレイム》、《ヒートアップ》」
付加魔法を掛けると、ナックルは炎を纏い出した。すると、ナックル前頭に付けられた、上下の刃が開き、パイルバンカーが姿を見せた。ミノタウロスはその間、イリスの方へと突進をしてきていた。それでも、イリスは構えたまま、ミノタウロスが近付くのを待っていた。射程圏内に入ったのか、更にイリスは腰を低く落とし、近距離に迫ったミノタウロスの頭に炎を纏ったナックルを叩き込んだ。同時に、パイルバンカーが作動し、それの頭を貫いた。すると、ミノタウロスの体は炎に包み込まれ、灰と化し、灰もろとも消え去った。
「作戦完了……っといけね。昔の癖だ」
「やったね、イリス」
「なんとかな」
二人は、そのまま、生徒達のいる方向へと向かって行った――
同時刻、とある場所にて
「ほう……流石は紅の狂犬だ。お見事」
紫色の髪をした男が、一人モニターを見ながら呟いていた。それを傍で聞いていたもう一人の男が話した。
「何やってんだ。ったく俺らの目標はソイツじゃない、あの黒髪だ」
金髪の男はそう言った。
「分かってますよ。ただ、まずは調査が必要ですから。小手調べというやつですよ」
「チッ、勝手にやってろ」
金髪の男は、その場から立ち去り、何処かへと行った。いなくなると紫髪の男はまた呟いていた。
「全く、これだから喧嘩っ早い人は……にしても……」
映像を止めて、ある部分を拡大して見ていた。
「興味深い人ですね。いや、人達ですか……」
ニヤつくと、紫髪の男も何処かへと向かったのだった。
どうも、皆さん。
突然ですが、皆さんは休憩時間などはどのように過ごしていますでしょうか?僕は大抵スマホを触ったり、友達と駄弁りながら過ごすことが多いです。中学の頃は読書をしてましたね。まぁ、普通の休憩時間を過ごしていました。はい。それだけです(?)。いや、皆さんどのように休憩時間を過ごしているのかなと思いまして。良ければ感想に添えてください(キリッ
さて、本題に入りまして、第一章《零と佰》如何でしたでしょうか?僕自身、初の試みということで、手探り状態で書かせていただきました。そのため、読みにくい部分や理解しにくい、不満点なども少なからずあったかと思われます。その点に関しましては、今後改善していきたいと思いますので、指摘してください。
また、今回の話に関してというよりかは、今後の話に関してですが先に言います。主人公無双は基本的に無いです。そういったものを楽しみにしている方はかなり先になりますが、どうぞよろしくです。そのため、今回は主人公よりも、イリス先生が活躍(?)するような形となりました。皆さんがイリス先生の容姿もですが、今まで出てきたキャラの容姿もどのように浮かべているか、正直楽しみです(笑)
追加ですが、伏線は僕苦手です。はい(!?)。これ伏線だろなぁ、と思っている部分があった貴方。残念ながら伏線じゃないです(おい
起承転結だけ考えて、というよりかは、そもそもそれすら危ういので結局全部その場で思い付いたものを書いています。予め書きたい内容は、書き出してますけどね。サブタイトルもちゃんと回収できてるとは個人的には思っていません。が、今後そういったこともしっかりと回収できるようにしたいと思います。
最後に、改めまして、本作を読んでいただきありがとうございました!第二章でも、新たなキャラが多く登場する予定!
では、次回もよろしくお願いします!