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《スピリーム・ゼロ》(旧版)  作者: 五月奏人
第一章《零と佰》
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第一章《零と佰》(第三部)

 三人が正門を通り抜けると、目の前にはとても美しい光景が広がっていた。大きな道の両横に桜並木がある。数ヶ月前は、葉が枯れ落ちていた為、それほどの衝撃は感じられない道であった。花が咲くと、その存在感、を感じた三人であった。その先を見ると、本校舎が生徒達を迎えていた。三人はそれらの存在感に圧倒されていた。思わず、刹那は声を漏らした。

「凄いな……こうしてみると、本当に来たんだなって思う」

 二人も頷き、話した。

「うん……凄いね」

「後悔は無いけど、なんだか場違いに思えちゃうよね。私達」

 刹那は続けていった。

「いや、たぶん皆少なからず思ってると思うよ。でも、一つの誇りにはなるよね。ここに来て学んだって事を」

「「確かに……」」

 二人は声を揃えて言った。

 それから三人は、桜並木やその間から見える建物を見ながら歩き出した。三人は、他の生徒達を見ながら話しを始めた。

 蒼唯が誰かを見つけたらしく、二人に話した。

「あっ、あの人。この間の大会で準優勝してた人じゃない?」

 紅明が、あっ、と言って話を繋げた。

「えーっと確か……なんとか昴だっけ」

「近衛昴君ね……ピアノのコンクールに出てたでしょ?」

「あー、思い出した。出てたね」

 他にも、様々な方面で有名な人達がいた。外国人も居れば、先程は分からなかった三人だが精霊も実は居た。そうしていると、本校舎へと着いた。

「おー……改めてみると、やっぱり大きいな……」

「五階建てだよね、確か。生徒数が今年は精霊も含めて、500人だったよね」

「そんなに多いの!?」

 紅明が驚きの表情でそう言った。蒼唯は紅明に、入学前にあった説明会での話をしていた。刹那はその間、少し離れた場所から本校舎でも撮ろうとして後ろに下がった。すると、丁度そこにいた白髪の女の子に当たってしまった。

「いたた……もうっ、ちゃんと後ろ見てよね」

「ごめん! 怪我はしてない?」

 すぐに謝り、そう聞くと白髪の女の子は大丈夫と言った様子で手を振った。

「大丈夫大丈夫、ちょっと私も強く言い過ぎちゃった。あっ、また何処かでね!」

 そういうと、両親らしき人と姉のような人の元へ走っていった。誰だったのだろうかと、刹那が思っていると蒼唯と紅明が後ろから見ていた。その視線に気付いた刹那が、突然言い訳を始めた。

「い、いや、その、ね。後ろに下がったら当たって謝っただけで、別にそんなナンパしたとかじゃなくて、えっと」

 一人で勝手に焦っている刹那をよそに蒼唯はそっぽ向いて、クラス発表のされている方へと向かった。落ち込んでいる刹那に対し、紅明が刹那の耳元で(ささや)いた。

「好かれてるね」

 追い打ちをかけるかの如く、紅明はそう言った。その発言が思いの外、心に来たのか刹那はそのまま両膝と両手を地面に付けた。ほらほら、と言わんばかりに紅明は刹那を立ち上がらせて、蒼唯のいる方へと向かった。


 着いた時には、かなりの人がいた。クラス発表をしているが、人が例年より僅かに多いためか、紙に収まるように細かく書かれている。見えにくい為、人が多く残っているのであろう。蒼唯が探している中、二人は蒼唯を見つけて、近寄って一緒に名前を探した。まだ少し刹那と蒼唯には変な空気が漂っていた。

 すると、刹那がAクラスの欄で自分の名前を見つけた。その流れで前後の名前を見ると、蒼唯と紅明の名前も見つけた。それを二人に刹那は伝えた。

「二人共ー、Aクラスに名前が載ってたよー」

「本当に? 良かった。私達一緒で」

「良かったねー、特に蒼唯は」

「どういう意味よ」

 その後、蒼唯は顔を赤らめて、何かを二人に否定していた。蒼唯が否定している間に、聴きなれたチャイムが鳴った。その直後に、女性の声で体育館に集まるように、と放送が入った。それを合図に生徒や保護者達が体育館へと向かっていった。体育館の位置は、本校舎を中心に、左手側に位置している。

 川の流れのように人々が歩いていると、刹那はその先で先生や先輩たちが受付をしているのが見えた。

「ねぇ、受付に先輩らしき人がいるけど、精徒会の人達かな……」

 蒼唯が少し考えてから、答えた。

「多分だけど、こういう行事の時は生徒会の人が行うからね。精徒会の人だと思うよ」

「刹那と蒼唯ーここの生徒会って、生活の生じゃなくて、精霊の精で精徒会だったっけ?」

 その質問に、刹那が答えた。

「うん。精霊に関する学校だから、なるべくそういった表記には、なっているね。他にもあると思うけど細かいところは今後の授業とかで分かると思うよ」

「そっかー」

 話が終わるころには、三人は受付へと近付いていた。

「はーい、次の方ー」

 刹那が向かった方には、少し紫がかったゆる三つ編みが特徴的な人が受付だった。その人は一礼をしたあと受付を始めた。

「クラスはご確認されましたか?」

「はい、Aクラスです」

「お名前は?」

「黒飾刹那です」

「黒飾さん? もしかして、お姉さんいますか?」

「えっ、はい。いますが……?」

 突然の質問に驚いていたが、答えることは出来た。しかし、初対面の人に姉がいるかという質問に刹那は疑問を感じた。すると、その人はそのまま話を続けた。

「詳しいお話は、またいつか」

 その人が微笑むと、刹那は少しドキッとした。そのまま一礼して体育館の中へと、靴を脱ぎ、渡されたシューズを履いて行った。既に二人が待っていたので、近寄り、指定された前の方の席へと向かっていった。席に着くと、三人は受付の事で話を始めた。最初は蒼唯からだった。

「さっきの受付の人、生徒かと思ったら先生だった。紅明より背が低くて、心の中で驚いちゃった」

「紅明も低いけど、それほどか?」

「二人して弄ってるの? ねぇ?」

 刹那と蒼唯は、あははと笑った。そのあと、刹那は先程の受付の人に聞かれたことを二人に話した。

「そういえば……さっき受付の人にお姉さんいますか、って聞かれたな」

「知り合いなの?」

 紅明が聞いて来た。

「いや、一度も見たことない。でも、姉さんたまに精霊学園に来る事があるって言ってたから、それで会ったんじゃないかなって。あと苗字的にも珍しいし」

「なるほど……あれ、紅明もそんなこと聞かれてなかった?」

 蒼唯がそういうと、紅明は頷いた。

「お兄さんいますかって聞かれた。兄ちゃんは、たまに来るとは言ってたよ」

「なんだろうな」

「なんだろうね」

 話に一旦区切りがついてから暫くすると、司会者台と演台のマイクテストが始まった。マイクテストが終わると、入学式が遂に始まった。司会者が生徒や先生、保護者を起立させた。その後、教頭らしき人が、舞台の下手(しもて)にある司会者台に近付き、開式の言葉を言った。

「只今より、平成39年度、精霊学園の入学式を始めます。一同、礼」

 それから、入学式は始まった。校長先生の話や生徒、精霊代表の挨拶、など行われた。精霊代表の挨拶の時、刹那は少し驚きの表情を見せていた。実は、先程本校舎を撮ろうとした時にぶつかった女子だった。彼女の名前は、仙娥ルナ(せんがるな)であった。それと同時に精霊での名前を言っていた。精霊での名前は月神空輝巫女(つきがみそうきのみこ)である。日本の精霊の名前は他の国と比べると一段と長いにが特徴。刹那は、あとでもう一度しっかりと謝っておこうと思ったのだった。

 次に、精徒会長の話となった。そこで出てきた人は、先程刹那の受付をしてくれた人であった。刹那にとっては、驚きの連続であった。その人は、壇上の構台で一礼をしたあと、話を始めた。

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私は、精徒会長の石ヶ原十華(せきがはらとうか)です。」

その後、話を続け、暫くして終えた。それから、校歌斉唱をし、入学式は終わった。少しの間待機するように言われ、生徒と保護者達は待機をした。数分後、司会者台の方から、各クラス担任に付き、教室に向かうように、と言った。Aクラスであったため、他のクラスより早めの移動となった。クラス担任がやってきた。

 外見的に外国人であったが、その時、生徒達は驚きを上手く隠せていなかった。明らかに小学生2粘性ぐらいの幼い体型であった。先生は気にせず、流暢(りゅうちょう)な日本語で話した。

「Aクラスの生徒は付いてくるようにー」

 少し気怠そうな雰囲気で、赤髪の先生は生徒達を先導した。


 教室は、本校舎の2Fにある。本校舎の形が少し特殊であり、五角形の形をしている。そこから、また別の校舎へと繋がっているため、上空から見た写真としては、五芒星にも見えるらしい。教室に着くと、出席番号順に座るように言われた。あとから、保護者達も来た。机には、予めその席の名前が書かれた紙が貼られていたので、すぐに分かった。刹那は、左から二列目の前から二番目。蒼唯は、その二つ後ろ。紅明は、三列目の一番前。

 席に着くと、担任は簡単に自己紹介を始めた。

「あー、私の名前は、イーリス・スカーレット。イリスとは皆に言われている。この痩身矮躯(そうしんわいく)な体型に文句あるやつはちょっとあとで来い」

 最初から、衝撃的な発言をする担任であった。クラスメイト、その保護者は全員、終わったと思ったであろう。その後、また説明を始めた。

「教科は主に、精霊力を使った担当だ。私の契約精霊である、フレイヤがAクラスの精徒担任だから、精霊力を使った授業は主に、Aクラスの精霊との合同になる。あとの詳しい説明は、明日行う」

 気怠そうな雰囲気を出していたが、しっかりと説明は行ってくれたためか、生徒達は安堵していた。そのあと、思い出したかのように話を始めた。

「それと、机に入っていると思うが、その紙を取り出してくれ。その紙に書いてあるが、明日は精霊力の検査をする。たまに精霊力が少ないものがいるからな。そういった場合の授業での対応を変える必要があるから、その辺りは留意しておくように。結果によってやめる生徒もいるからな」

 その話を聞いた直後、刹那は心の中で何かを思った。過去に検査を一度行っているため、自分の結果は分かっている。が、数年前に調べたきりなので少し不安であるが、明日の検査にかけることにしている様子だった。蒼唯と紅明は、刹那の方を少し見て、心配そうな表情を浮かべていた。

 話が終わり、その日は午前中の下校となった。教室を出る途中、刹那に蒼唯と紅明が近寄り心配の声をかけようとしたが、そっとしておくことにした。すると、紅明が思い出したように話を始めた。

「あっ、そうだ。あそこ行こ。蒼唯におすすめしたあのお店! 二人共行くよね!?」

「別に僕は構わないけど、蒼唯は?」

「うん、大丈夫だよ。紅明、休みの日に行くんじゃな」

 かった――と言おうとしたら、紅明が蒼唯の口を塞いで、耳元で囁いた。

「刹那、精霊力のことで気にしてるから、気分転換」

「あっ……うん、分かった」

 刹那は、何話してるんだと言った感じで二人を見ていた。


 それから三人は、駅に向かい、最初の駅へと帰った。そこから近くにある店へと向かい、スイーツを食べた。特に、紅明と蒼唯は沢山食べており、刹那は少し、えっ、とした表情でいた。食べ終えると、三人は共に、家へと帰ることにした。駄弁りながら楽しそうに帰っていた。三人とも、家は近いが、紅明は他の二人より先に家へと着く形となった。

「じゃっ、刹那と蒼唯また明日ねー、ばいばーい!」

「ばいばーい!」

「うん、ばいばい」

 別れの挨拶をしたあと、紅明と蒼唯は大きく手を振り、刹那は小さく手を振った。それからまた駄弁りながら歩き出し、家へと着いた。二人の家は、道を挟んで向かい側にある。

「刹那、また明日ね。ばいばい!」

「また明日な。ばいばい」

 二人は別れの挨拶をして、家へと入った。玄関は開いており、姉さんが既に帰ってきていた。思ったより仕事が早く終わったのであろう。

「ただいまー」

「おかえりー! 刹那!」

 そうして、刹那の一日は終わった。


 十九時二五分、公園にて――

 その頃、あの公園に、綺麗な白髪をした一人の少女が立っていた。

「今日も綺麗だなぁ……こんな日が毎日続くといいな……」

 一人、空を見上げてそう呟いていた。そこに、少女に似た白髪をした、もう一人の女性がやってきた。

「ルナ。もう、またここに居たのね」

「あっ、お姉ちゃん! だってこの景色好きだもん」

「確かに、私も好きよ。でも、だからって毎日来るのは」

 話を続けようとしてる姉を止めるかのように、ルナは話した。

「だって、あの時私は見たから。子供が襲われるのを」

 ルナは過去にあった話をした。

「数年前の? 何も出来なった自分が悔しいの?」

「うん……私たちは精霊だけど、何も出来なかった。助けれてあげれなかったのが悔しいの」

 悔しさを口に出した。しかし、ルナは何かを信じているかのような口調で話を続けた。

「だから、あの時の子がここに来るの待ってるの。助けてあげれなくて、ごめんねって。大丈夫だよ。絶対来るって」

「その自信は何処から来るのやら……ホント、お母さんに似たね、ルナ」

「えへへ」

 ルナは、笑顔で返した。

「ほら、もう今日は帰ろ? お父さんとお母さん心配するから」

「うん、分かった」

 ルナは、姉の手を握りその場を去った。

 そうして、ルナの一日は終わった。

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