第一章《零と佰》(第二部)
暫くして、目的の駅に着いた刹那達。3人が降りる頃には、同じ制服を着た多くの生徒は、既に降り終えようとしていた。これ付いて行く感じで、刹那達は歩いた。駅から出ると、ビルが多く聳え立っていた。久しぶりに見た光景のためか、刹那は少し眩んだ。蒼唯と紅明は、都会慣れしているため、早く早くと言わんばかりに手招いた。
前を行く、同じ生徒に付いていきながら、3人はまた会話を始めた。話は今朝の新聞に載っていた事件だった。蒼唯が話を始めた。
「昨晩、捕まった犯人、逃走したらしいね」
「あぁ、姉さんによると精霊じゃないかなって。邪霊の方だけどね」
この話に、紅明が疑問に思いながら聞いて来た。
「でもさ、邪霊って精霊なのに、どうして分けられてるんだろうね。昔から気になってたんだ」
刹那と蒼唯は答えに戸惑った。しかし、刹那が姉からの話を交えて答えた。
「姉さんが言うには、邪霊も精霊も元々は同じ種族だったけど、人間みたいに感情を持っているのは知ってるよね」
「それは分かってるんだけど、よく分かんない」
紅明は答えながら頷いた。
「その感情の中に、負の感情って少なからずあるでしょ? その負の感情に特化したのが邪霊、って言ってたかな」
紅明は深く頷いて答えた。
「なるほど。よく分かんない。」
「えぇ……」
蒼唯と2人で顔を見合わせて、肩を少し落としていた。どう説明しようか考えていた。刹那は、言い方を変えて説明を始めた。
「じゃあ、今家にいるとして、冷蔵庫の中に大好きな甘い物があったとするね?」
「うん! 甘い物大好き!」
そこまで反応しちゃうか、と言わんばかりの表情をしながらも、刹那は説明を続けた。
「紅明は、すぐに食べる? それとも、何か他の事してからご褒美として食べる?」
「んー、ご褒美!」
なんだか楽しそうになっている紅明を見て、2人は微笑ましそうにしていた。刹那は、そのまま説明を続けた。
「じゃあ、ご褒美として甘い物を食べるとするね? 何か他の事して、さぁ食べようと思った時に、冷蔵庫から甘い物が無くなってました。そんな時、どんな感情を抱く?」
「悲しくなるよ! だって大好きな物が無くなってるんだから! 折角食べようとしてたのに」
演技上手いな、と2人は思っていた。刹那は、説明を続けた。
「そう言った感情に、漬け込むのが邪霊なんだ。」
「あっ!甘い物盗むのが邪霊なんだ!」
「違うよ!?」
分かった反応をしたと思ったら、全く分かっていない反応をした紅明であった。思わず反射的にツッコミを入れた刹那であった。話をまた少し変えて、蒼唯も含めてを説明をした。
「じゃあ、2人共、『六情』って言葉知ってる?」
「んー、知らない!」
「聞いたことは……無いね」
2人共知らない様子であった。いい機会だと思い、刹那は続けた。
「僕も最近、姉さんから聞いた話だけど、『六情』は、よく聞く、喜怒哀楽の他に、愛、憎の6つの感情が総称される事が多いんだって。」
「ほぇー」
「初めて聞いたよ。凄いね、お姉さん」
「僕も最初は、頭の上に疑問符が浮かんだよ」
2人は感心しながら、刹那の話を聞いていた。思わず、刹那も初めて聞いた時の話をした。気を取り直して、再び話を続けた。
「それから、その6つの感情の中でも、怒り、哀、憎しみに邪霊は反応するんだって。」
「どうして……あっ、負の感情に興味があるんだっけ」
蒼唯は、すぐにその話を理解した様子だった。紅明は、まだ少し理解に苦しんでいる様子であった。
「蒼唯、正解。詳しいことは、少し忘れたから言わないけど、そう言った負の感情に反応するんだって。さっきの通り、紅明が甘い物食べられなくて、悲しんだりしている所に、邪霊が来て」
「それで、多くの人は、抵抗出来ないまま、邪霊に身体を乗っ取られて、早く祓わないと身体が蝕まれていく、ってこと?」
「大体そんな感じだね。紅明、まだ分からないとこある?」
「分からないことが分かった。」
2人は、こけそうになりながらも、どうすれば分かるかの話をしようとしていた。話をしようとした時には、気が付けば、学校へと近付いていた。紅明は、その方向を指した。
「あっ、見えた!今日から始まるんだね」
紅明が楽しそうに、そのまま2人の前をスキップしていた。それを見て、先程の話を忘れて、2人共微笑んでいた。
「楽しそうだな、紅明は」
「紅明って、昔っから何事も楽しそうだよね」
紅明は立ち止まって少し考え始めた。それから浮かんだのか、2人の方を向いて話した。
「いやー、楽しくないこともあるよ。でも、いつ何があるか分かんないから楽しんでこうかなぁって思ってさ。えへへ」
言い終えたときに照れ臭くなったのか、思わず照れ笑いをしていた。
それを見て、蒼唯が紅明に飛びついた。
「もうっ、紅明は可愛いんだから!」
蒼唯は、紅明の頬に自分の頬を擦り付けていた。飼い主に懐いている猫のような感じだった。思わず、刹那は目を逸らしていた。
「2人共……一応外だから……というか同じ生徒の人見てるから……」
刹那のその発言に気付いて、2人は離れた。
「あはは……」
「えへへ……」
2人共照れ笑いした。その後、また歩き始めた。
すぐに正門へと着いた。大きく構えている正門。3人共、受験の時に通った時とは言え、まだ少し緊張を感じている様子であった。
「まだ少し緊張するな……」
刹那がそういうと、2人も頷いて答えた。
「だね。でも、しばらくしたら慣れるよ。」
「も、もう。ふ、2人共、き、きき、緊張し、しすぎ、だって、ばっ」
「「一番緊張してるの紅明じゃん!」」
2人で紅明にツッコミを入れた。直ぐに3人共、笑った。
「相変わらずだね、やっぱり」
蒼唯が笑いながら言った。
「確かにな。いつまで経ってもこの調子だろうな」
「まっ、幼馴染だし。こんなもんだよ」
得意げに紅明が言うが、説得力があまり感じられない2人であった。そうしていると刹那が言った。
「じゃあ、そろそろ入るか」
2人共、頷いた。3人、横に並んで一緒に正門に足を踏み入れた。
正門近くの看板には、こう書かれていた。
第80回精霊学園入学式――