序章
昼下がりの住宅街。そこは、様々な人の声で溢れかえっていた。家族連れも多く、散歩をしているといった様子である。そんな場所を、2人の幼い姉弟が楽しそうに走っていた。
「刹那―! 早くしないと行くよー!」
弟――刹那を呼びながらも、先を走っていく姉。
「待ってよー! お姉ちゃーん!」
先を行く姉を、楽しそうに刹那は追いかけていた。
2人が目指していた場所は、住宅街に囲まれた、広い公園だった。公園のある場所は、小さな山にある。富士山のように、少しだけ出っ張りがあるところに公園がある。市と周囲の住民の意見により、3年前に作られた物である。少子高齢化に悩まされる中、こういったものも増えているのもまた事実である。
そこに行くまでの間、姉弟は、色んな人に挨拶をされ、丁寧に返していった。着いた時、既に遊ぶ約束をしていた友達が四人来ていた。2人が来た事に気付いた、赤髪の女の子1人が、大きな声で呼んだ。
「おーい! 真希ちゃーん! 刹那くーん! こっちこっちー!」
それに答えるように、真希は大きな声で返事をして、手を振った。刹那は、大きな声を出さなかったものの、笑顔で手を振った。
それから六人で鬼ごっこや、缶蹴り、滑り台、ブランコなどの遊びをして楽しく過ごしていた。そうして遊んでいると、先に来ていた四人の内、黒髪と赤髪の2人の兄妹が、家の手伝いがあるからと言い、先に帰っていった。兄が皆に手を振って走ると、真希が大きな声で、手を振った。
「また明日学校でなー! ばいばーい!」
「蓮くん気を付けてねー! 紅明ちゃんもねー! ばいばーい!」
後ろの方でも、刹那とその近くに居た2人も手を振った。
2人が帰ったあと、4人でも楽しく遊んでいたが、少ししてから、二人もそれぞれ家の手伝いを頼まれているからと言い、帰るのだった。
「またね、刹那くん。」
青髪の女の子が、笑顔で刹那に近付いて来た。
「う、うん。明日学校でね。蒼唯ちゃん。ばいばい。」
顔を少し赤らめて、刹那は返した。
もう一人の黒髪の女の子も、笑顔で刹那に近付いて来た。
「じゃあね、刹那くん。学校でね。」
「音羽ちゃんも、また明日。ばいばい。」
仲良く、2人が帰っていったあと、真希は刹那を少しからかった。
「何々?モテモテだね、刹那は。どっちが好きなのかなぁ?」
刹那は顔を赤らめて、そっぽを向いた。
それから2人は、4人が帰ってからは、特にすることがなくなった為、公園の上にある、高台に向かった。木で出来ており、木独特な匂いもまだ感じられる。そこからの眺めはとても良く、夕方になると、とても美しく見えるものである。夜も家の灯りや、空の星によって美しく見える。2人はそこが好きで、よくここに来て、少し眺めてから家に帰っていた。丁度、この時は夕方であったため、タイミングとしてはとても良かった。
姉弟仲良く、話をしてから、いざ帰ろうとした時、2人の後ろに黒い布で包まれた男の人が立っていた。それを見て、恐怖感を覚えた刹那は真希の後ろに隠れた。対して、真希は、慄く事なく、その男に話かけた。
「おじさん、誰?」
話かけた真希に隠れていた、刹那が真希の服を掴み、小声で話した。
「お姉ちゃん、知らない人にあんまり話か」
「危険だ。」
刹那の言葉に被せる様に、黒い布で包まれた男の人は、一言目にそう言った。その直後、両手を出した。2人の頭上に手をかざし、呪文を唱え始めた。
何がなんだか分からない二人は、逃げようとしても動けなかった。瞬間、2人はその場に倒れこんだ。2人は気絶させられたのだ。それは、男が呪文を唱え終わった時と同時に起こった。
「悪いな、二人共。特に少年。君の力はとても危険だ。」
両手を、布の中に戻し、2人を背にし、歩き出した。男はそこから一瞬で消え去った。
「あっ……っぁ……」
意識がかろうじて残っていた刹那が、鮮明に覚えているのは、男が最後に放ったその言葉であった。
2人が意識を取り戻したのは、それから数時間後のことであった――