第四話 光
耳の中にいつまでもこだまして僕の中に残ってる
五月蝿い耳鳴りのような、誰かが歌うような
君は選ばなくちゃいけなくなる――――――――
僕は少年が消え去ってから、一ヶ月前と変わらない学校への道を歩き出していた
行かなくなった学校への不安は何故か何処にも見当たらなかった
僕の足は不思議にも前へと進む
景色も風景も何もかもいつも通りで、それが余計に僕を安心させていた。もう遅刻は覚悟だったから、半ばやけになっていて僕はゆっくりと歩いていた。もう遅刻する時間帯だからか通学路には人一人見当たらなかった。当たり前か、と心の中で一人呟いてみる。日頃から車通りも少ないこともあって、通学路はとても静かだった。心の中で呟いたはずなのに、こんなに静かだから誰かに聞かれてしまうんじゃないかと思って、僕は後ろを振り返って誰もいないことを確認した。もちろん、誰もいるはずもなく通学路には僕の影が伸びているだけだった。
いつも通りなら、友達と通うはしゃぐ声や話し声が聴こえている場所が今は僕一人。何処か違う場所にでも来てしまったんじゃないかと錯覚するほど静まり返っている。
少年に言われた言葉の意味も、何もかもわからなかった。図星を言い当てられて、カッとなって胸ぐらを掴み掛かった僕はどうしてあれほどまでも怒っていたんだろう?どうしてあいつは僕のことを知っていたんだろう?なんで夢の中にまで出てくるんだ?
でも今はそれでさえもどうでもいいと思える。僕は何処か違う誰かにでもなったような気がしていた。明後日がくれば、僕はきっと本当に死んだという意味だったのだろうか?それともこれも夢だから全部曖昧な言葉なのかもしれない。覚めることのない夢で終わりがくるなら、僕はこの幸せを最後まで味わおうじゃないか。
不意に遠くからチャイムの音が聴こえた。その音はどうしても僕の足を駆り立てる。急がなくてはいけないような気分が身体じゅうに溢れ出した。ゆっくりと歩いていた足がだんだんと駆け足になっていく。僕は深く深呼吸をして、鞄を抱え込んで走り出した
閉まっている校門をこじ開けて、中へ入った
もう息切れしている呼吸は整え様がなくて、僕はそのまま駆け込んだ
下駄箱で靴を履き替えて上履きに足を滑り込ませる。僕は遅れを取り戻そうと駆け足で自分の教室へと向かった。階段を駆け上って、廊下を右へ左へと曲がって行く。ようやく辿り着いた自分の教室の後ろのドアを開けた
「すいません、遅れました―――――――――」
怖いのか恐ろしいのか、僕は固く眼を閉じていた。誰かの笑い声とか、自分の名前を冗談ぽく呼ぶ奴、担任の呆れたような声がすると期待していた。
「え?」
けれど、瞳を開いて何処を見渡しても、教室には誰一人居なかった。今日は移動教室だったのだろうか?それとも何か集会でもあったのだろうか?拍子抜けしてしまった僕はそのまま教室を飛び出して、思い当たる場所へと走って行った。体育館、講堂、音楽室、美術室―――――――いくらも探して息が切れた頃、僕が見つけたのは誰も居ない空の教室がただそこにあるだけの空間だった
あてもなく探すのに疲れた僕は、職員室のドアを叩いた。きっと誰か先生がいて、僕のクラス日程を知っているだろうと踏んだからだ。コンコン、と軽いノックをして、ドアを開けた
「失礼します、綾瀬ですけど今日――――――――――」
僕はそこまで言いかけて自分の口を閉じた。職員室に誰も居なかったからだ。おかしい、こんなのは・・・・・・・。今日は平日。さっきたしかにチャイムの音も聴こえた
なのに
「どうして誰も居ないんだ・・・・?」
隣のクラスも他の学年も校舎の中には誰一人居なかった。上がっていく呼吸、止まらない耳鳴りのような心音。僕はそのまま学校を飛び出した。
何処か、誰かが居るはずだ。今日学校が休みだったのか、祝日なのかもしれない。僕は学校から一番近くにあるコンビニへと駆け込んだ
「すいません、誰かいませんか?」
自動ドアが開いて、中へ入っても誰も居ない。スーパーも、駅の改札にも、車両の中にも。道には誰一人として歩いていなかった。僕が登校したときも誰も歩いていなかった
ここは何処なんだ
僕の知っている町、風景。でも誰もいない。どうしようもない不安が僕を襲った
夕暮れになるにつれて、それはどんどん色を増して、黒くなっていくのがわかる
空は黒ずんで一人の僕を飲み込むんじゃないかと思うっほどに大きく、広かった
ここは何処なんだ?どうして人がいないんだ?
僕は怖くなって、家まで全力で走った
遠くの方、僕の家の明かりが薄らとついているのが見えた
耳鳴りのような少年の声がまだ残ってる
君は選ばなくちゃいけなくなる―――――――――
僕は一体何を選ばなくちゃいけないんだろう
どうして此処にいるんだろう
なんで僕は今生きているんだろう
誰の為に存在している?何の為に僕は在る?
速度を増していく景色の中で僕は一人走り続けていた