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    第一話 僕

暗い話なうえに更新は酷く遅い気がして成ませんのでその辺はご理解と御協力のほどをよろしくどうぞ。

 生まれた意味は何だろう

 誰の為に存在するのだろう

 そんな取り留めの無いことを思って、僕は屋上へと続く階段を駆け上っていく

 足音だけが確かなこの空間で僕はどれだけの月日を無駄に走り抜けて来たんだろう

 途方に暮れるような、感傷に浸るような

 虚しく、苦しいだけの毎日に誰が僕を僕として認識してくれるんだろう?

 親も教師も友達も 一体彼等の何に信じられるものがあるっていうのだろう

 駆け上っていく足音が次第に速さを増していく

 何も考えられなくなるくらいに、耳の中に息切れと何処か突き放されたような吐息が響いて、耳の中から離れなかった

 どうして、なんで、僕は―――――――――

 取り留めの無いことをただ考える

 ループしていく思考回路、抜け出す方法は見つからない

 一体どこまでいけば僕は僕として認められるのだろう

 遠くの方で明かりが見えた。出口は案外近いらしい。僕は最後の階段を駆け上った

 タンッと運動靴が床に叩きつけられる乾いた音が聴こえて、瞳いっぱいに夕日の色が飛び込んで来て、視界を赤く染め上げた

 感嘆、とまではいかない声が無意識に漏れる

 汗ばんだ身体も、疲れ切って絶え絶えになっていた呼吸のことも忘れて、僕はそのまま前へと前進した

 緑色のペンキが剥がれ落ちたフェンスに身を乗り出して、荒い呼吸を整える

 そのまま、フェンスの向こう側へと降り立った

 数十センチ先のコンクリートの向こう側には何も無い空中があるだけ

 目の前の赤い夕日が沈んでいくのを僕はただ見ているだけだった

 次第に僕の足はじりじりと前へ進んでいく

 ゆっくりと両手を広げてみた

 心臓が肌を突き上げる、そのまま柔らかな空気がいっぱいに胸の中へ入って来た

 屋上からの景色は全てが赤く染まって見える

 もうこの世界に僕は必要ない

 いらないんだ

 何もかも、紅く染まってしまえばいい

 そう

「僕も」

 飛び立とうと、その身を投げ出そうとして前へ進んだその時

 声が聴こえた


「君は、飛ぶの?」


「・・・・え?」

「なら羽がないと―――――翼無しで飛ぶの?」

 振り返ると、一人の少女

 いや、少年が首を傾げて僕のことを見ていた

「君は、飛ぶの?」

 その顔は天使のような微笑みに満ちていた

「それとも――――――君は、落ちるの?」
















 甘いような、辛いような

 よく解らない感情が僕の中に渦巻いて声が出なかった。けれど、確実にその少年の声は僕を飛び降りようとしていた期待感と安心感から遠ざけた

 どうして、ここに人がいるんだろう?

 僕は声にならない疑問を瞳いっぱいに溜め込んで、声の出ない驚いてぱくぱくしている口を手で抑えた。このビルの屋上へ続く階段は僕がわざわざ内側から鍵をかけたし、他にこの場所に辿り着けるような階段も無い。こんな廃虚になったビルのエレベーターは動くわけが無いし、まずこんな場所に一人で来るなんてことは普通に考えてありえない。まずこんな人気の無い場所に来るなんてそんなこと――――――――――――

 けれど、少年はただ僕を見つめて嬉しそうに微笑んでいるだけ

 止めどなく主張を続ける心臓が憎たらしい。僕は上手く呼吸が出来ていなかった。さっきまであんなに紅かった夕日はもう黒く姿を変えつつあった

 僕が視線を離したその時、少年がまた口を開いた

「ねぇ、飛ぶの?」

 嬉しそうに微笑むその顔はどこか残酷さがあって、あどけない顔にほんのりと何かよくわからない奇妙な面影を残していた。僕はそれが少し怖くなって、絶え絶えになる息を整えながら、左手でフェンスと掴んだ

「何、言ってるんだ、よ」

 切れ切れになる言葉の節々が少し痛い。どうして、こんな女の子のような少年におどおどしなければならないんだろう、僕は

 そんなことを考えていると、少年がゆくっりと僕に向かって前進してきた

 咄嗟に身体がビクンッと震える。フェンスをつかむ手ががたがたと震え出した

「―――――――ぉお前!くっ、来るなよ!」

 いくらそう言ったところで少年の足は止まることがなかった

 叫ぶ声が喉の奥に張り付いて、渇いた僕の音には力が無かった

 次第に少年との距離は近づいて、フェンス越しにもう数十センチの所まで来ていた

 今しかない

 だたそれだけ。それだけの衝動が僕自身を突き動かした。今しかない、と思ったから

 だから

 僕はその瞬間、向こう側へと身を投げた

  

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