果物狩り。
「夜闇さん、夜闇さん」
「あんだよ、カスが! 俺に気安く話しかけんじゃねえ。安男」
「は、はい。夜闇さん、すいやせん」
僕は安男、今二十歳だ。夜闇さんはバイトの先輩で、僕に色々と教えてくれる頼りになる人だ。
今度夜闇さんが、誕生日だということで、僕は先輩がどうしたら喜んでくれるのか、と考えていて、いい案が浮かんだところだったのだ。
「何か用件があるなら、とっとと言えよ、安ぅ。そんなぐずぐずして、お前はまるで犬の糞みてえだぞ」
「夜闇さんは、相変わらず口が悪いですね。もうちょっと口調をどうにかして下さいよ」
「うるせえよ。カスが! おめえは俺の意見に口答えするんじゃねえ。クソじじい野郎。アホ、バーカ。早く用件を言えよ」
「は、はい。えっと、夜闇さんって、今度誕生日ですよね」
「ああ、来週の日曜日な。だからなんだよ」
「僕、いつも夜闇さんにお世話になっているじゃないですか。だから、日頃の感謝を込めて、お礼がしたいんですよ」
「お礼? てめえが、俺に? うぬぼれんなよ? カスが」
「そんなこと、言わないで下さいよ。夜闇さん」
「ちっ、うっせーな。じゃあ、カスのお前が俺に何のお礼をしてくれんだよ」
「えっとですね。夜闇さんって、果物とかお菓子が好きじゃないですか」
「ああ、だからなんだよ。簡潔に言えよ。カス」
「はあっ、そのカスっていうのやめてくれませんか? いい加減疲れるんですけど」
「ちっ、分かったよ。早く続きを言えよ、クソが」
「ええ、だから、夜闇さんを来週の日曜日に果物狩りに誘おうと思いまして」
「果物狩り?」
夜闇さんは、そこで初めて、眉根を釣り上げて、僕の話しに興味を示すような仕草をした。
「はい、その果物狩りでは数種類の果物を自分の好きなように食べることが出来るんですよ」
「ほー、クソの分際で面白い所知ってんじゃん」
「カスの次はクソですか。まあ、別にいいですけど。で、夜闇さん、僕と一緒に行ってくれますか?」
「分かったよ。どうせ、断っても、しつこく誘ってくるんだろう? しょうがねえから行ってやるよ。クソが」
そうして、僕と夜闇さんは夜闇さんの誕生日の日曜日、果物狩りに行くことになった。
「はあっ? こんな所で果物狩りが出来るのかよ。ここ建物の中だぜ? しかもずいぶんと狭い建物だぜ?」
「ここで、大丈夫です。だって、僕この間、下見でここに一回来ましたから」
「はっ、クソのお前にしてはなかなかやるじゃねえか」
「ありがとうございます」
建物の中に入ると、受付があり、果物狩りのシステムについて、紙に書かれていた。
「そういうことかよ」
夜闇さんがにやりと笑った。
「ええ、そういうことです」
僕が前に下見に来た時は、果物狩りしかなかったのだが、今回新たに、お菓子狩りも追加されていた。
「じゃあ、まずは桃狩りから行くぞ、安男」
「はい、先輩」
「へえっ、この桃大きいじゃん(笑)」
夜闇さんは、自分好みの桃を見つけたようで、その桃を触り、匂いを嗅ぐと、満足そうにその桃にしゃぶりついた。
「僕も、その桃食べてみたいです。夜闇さん」
僕が言うと、夜闇さんが、僕をものすごい剣幕で睨んだ。
「てめえ、カスのくせに、俺の桃を食べようとするんじゃねえよ」
「す、すいません。夜闇さん、調子に乗りました」
「分かればいいんだよ。カスが」
僕は、辺りを見回して、自分好みの桃を探して、味わった。
桃を満足そうに、食べ終えた夜闇さんを見た僕は、次の果物に夜闇さんを誘った。
「今度はマンゴーかよ」
夜闇さんの、顔は今までに見たことがないぐらい、ほころんで見えた。どうやら、夜闇さんは満足してくれたようだ。
「夜闇さん、楽しんでますか?」
「ああ。サンキューな。俺をここに連れて来てくれて」
「いえ。僕も夜闇さんが喜んでくれてとても嬉しいです」
夜闇さんから、まさかお礼を言われる日が来るなんて僕は夢にも思わなかった。
僕は、心の中が感動でジーンとなった。
そして、いよいよ、最後の狩りが始まった。
「夜闇さん、ここが最後の狩りです。最近追加された、お菓子狩りです」
「言われなくても分かってるよ。てめえは少し黙ってろ」
言葉だけ聞くと、ずいぶんと乱暴な口調だが、でもその口調の中には、ありがとうという優しさが含まれているように僕には聞こえた。
そして、最後のお菓子狩り、プリン狩りエリアに僕と夜闇さんは入った。
「どうですか? 夜闇さん、プリンは」
「ああ、最高だぜ。このプリン。プリンプリンしてよ。はあっ」
夜闇さんが夢心地に浸っている時、無情にも果物狩り終了の時間が来てしまった。
「もう終わりかよ。カスが」
「夜闇さん、ルールはルールです。十分楽しんだんですし、もう帰りましょう。また今度、一緒に、ここに来ましょう」
「分かったよ。帰るぞ、安」
「はい」
こうして僕と夜闇さんの果物狩りは無事終了した。
お店のチラシをもらい、レジで会計を済まし、僕と夜闇さんは店を後にした。
「ありがとうございました!!」
店の外では、店長とみられる男が、深々と僕達にお礼をして僕達を見送ってくれた。
「今日はありがとうな」
店を出て、しばらく歩いていると、夜闇さんが急に僕に礼を言ってきた。
「いえ、いいんですよ。僕も夜闇さんが喜んでくれてとても嬉しいです」
夜闇さんを見ると、夜闇さんはどこか感慨深い表情をした後、言葉をゆっくりと吐き出した。
「性風俗、デザート……か」
夕暮れを背に、僕と夜闇さんは町の中に消えるように静かに家へと帰って行った。




