実家
思った通り、両親は快く承知してくれた。
来る途中、寝てしまったキルヴィを抱きかかえて車をおりる。
門の前ではもう両親が待っていてくれて奥の部屋には布団まで敷いてあった。
「急にごめん」
「別に良いわよ。あんたん家でしょ。いつでも帰ってきて。」
「ありがとう、母さん」
この家に帰ってくるのは、実は八年振りだった。
親子水入らずがよかろうと、ゆりは家で留守番することを申し出たので、今頃は家で寝ているだろう。
「…それで?どういう経緯で預かることになったの?」
「詳しくは、言えないんだけど」
公園で保護したところからかいつまんで話すと、母は厳しい表情でそう、と一言言った。
「どうしたんだろうね」
「さぁ。情報がなさ過ぎる。」
扉の向こうで、咳き込む音がした。
なかなかに激しくて治る気配がない。
「仕事あるから、あいつ、頼んでいいか?本当は放り出すことはいけないんだけど。」
「なぁに、任せなさい。放り出したんじゃなくてわかる人、できる人に任せたと思えばいいじゃない。」
「事情があって普通の病院には行けないから、ヤンって医者のいるとこに行って。後でメモっとくから。」
「ん、わかった」
まだ治らない咳を見かねて、母親は戸を開けて中へ入って行った。
***
母親side
息子が連れてきたのは中学生くらいの、まだ幼さがのぞくような少年だった。
風邪をひいているらしく、気管支系が弱いのか咳が止まらず背中をさすってあげると、
「…ア……ル…?」
潤んだ瞳を向けてきた。
「しんどいねぇ、水飲む?」
「はっ…ふぇっ……」
「え?どうかした?」
いきなり、大粒の涙をぼろぼろ零して、腕にしがみついてきた。
「よーしよし」
具合が悪くて心が弱っているのかもしれない。
特異な状況に置かれているせいもあり、しんどかったのだろう。
「辛かったね、大変だったね。」
「えっ…ひくっ、えっ…」
大声を押さえつけているかのような潰れた嗚咽は、しばらく治らず、治ったのは疲れて寝てしまってからだった。
「よっぽど、大変だったのね。可哀想に。」
そのことがあったせいか、目覚めてすぐから壁を作ることもなく気軽に接してくれて、正直助かった。
熱がなかなか下がらなかったが、彼は慣れているらしく別に気にした風はなかった。
よく笑う、可愛い子だった。
「はぁ…」
あの子のように。