出会い
夜中の公園で、薄黄色い金髪の少年を見つけた。
不自然なほど白い肌で、白人にしたってあまりに生白い。
声をかけると少年は眠そうな目を開きぼんやりとこちらを見た。
(弱ったなぁ)
家を聞いてもまともに答えない。
恐らく名前は本名なのだろうが、ガヴィネル王国など聞いたことがないし、王子と言われても苦笑を浮かべるしかない。
二人一組でパトロールをしているところで、そろそろ先輩がトイレから戻って来るだろう。
「とりあえず、俺と来てくれる?ここじゃそういう規則だからさ。」
少年は素直に頷いた。
家出少年という感じはしない。
服装も、かなりラフではあるがなんとなく高価そうだ。
誘拐の可能性が否定できないので、とりあえず交番まで連れて行くのがいいだろう。
「……」
「…?どうしたの」
地面に足をつけた少年が地面を見てじっとしていた。
「裸足!?」
しょうたは素っ頓狂な声で叫んでいた。
そう、少年の視線の先、彼の細い足は何も纏っていなかった。
その上、ここまで歩いてきたはずが全く汚れていないのだ。
今初めて地面につけたのは間違いない。
(やべぇな。これは本格的に誘拐の線が強くなってきたぞ…)
しょうたは背筋に冷や汗が浮くのが分かった。
彼は交番に勤務を始めて二年の新人で、まだまだ経験が浅く事件らしい事件には携わったことが無い。
少女のような少年に迫っているかもしれない危険に恐怖を感じると共に、警官として活躍の場を得られるかもしれない高揚に胸を高鳴らせていた。
「あの…」
「どうしたの?」
少年がおずおずと、迷いを見せつつ言った。
「あの、僕しばらく歩いていなくて。力が入りません。抱っこして下さいませんか?」
「…………はい?」
「おぶってくださっても、何でも構わないのです。歩けないと思うので…」
「……君、ここに来る前のこと覚えてる?」
「え、ええと、自分の部屋におりました。いつものようにベッドに横になっていて…それから……どうしたのでしょう?あなたに呼ばれて目を覚ましたら、ここに。」
裕福そうな寝たきりの少年。
なおさらにおう状況だ。
「とりあえず、おぶるよ。」
ベンチに背を向けて、もたれかかってきた少年を背負い公園を出た。
パイプ椅子に座らせて色々質問をしてみたが、寝たきりのせいか世間知らずで全く参考にならなかった。
先輩が、
「恐らく。“護衛” はそのままで問題ないな。警備員か何かだろう。で、“ミホロワ” や “セイラ” というのは家政婦。“トルティ” は主治医。“王城” が家。そんなもんか?ガヴィネル…は妄想の産物だろうな。十五、か。気の毒に。うちの娘と同じ歳だ。」
キルヴィと名乗った少年をちろりと見て眉尻を下げた。
少年はぽけーっと空気を眺めている。
「眠いかい?」
「え…?あ、はぁ、ちょっと。…横になりたい、かな、と、思いまして…寝ても構いませんか?」
「んあぁ、しんどかったか。配慮が足りなかったな、ごめんね。」
「いえ、こちらこそ、申し訳ありません。」
それだけ言うと、腕の中に顔を埋めてすぐに寝息をたてはじめた。
「…大丈夫ですかね。もし病気とかあるならこのままだとまずいですよね。」
「そうだな。早いとこどこのうちの子か見つけてやらないとな。」
「ご両親の心配も尋常じゃあなさそうだ。こんな儚い子。僕こんぐらいん時部活で真っ黒だったなぁ。」
「俺も真っ黒だったぞ。運動は出来る方だったんだが何故かモテなくてな。どうしたら女子からモテるのか日々考えてた。懐かしいねぇ。」
「うらやましいです。僕なんか卒業式の後学ラン本体すら持ってかれました。女子の勢いが凄すぎて…その後の学校説明会大変だったんですよ、全く。一緒に撮った写真、勝手にネットに載せられるし。散々ですよ。」
「……」
「先輩?」
「お前は自慢したいのか俺を馬鹿にしたいのか、どっちだ。」
「モテない方が身のためです、と言いたかったんです。良いことなんてありませんから。」
「……」
興味本意で家や家族構成、趣味、ケータイアドレスを探るとは、執着心とは恐ろしい。
不愉快な記憶を思い出して、いや、忘れていた訳ではないのだが、なるたけ目を背けている記憶が蘇ってきて、しょうたは暗い顔でため息を吐いた。
「…本当に思ってるらしいから憎めないんだよなぁ。」
「ふっ、なんですかそれ。」
「悪かったな、くだらないこと言った。」
「僕こそ偉そうなことを言いました。」
しょうたから見れば先輩ほどかっこいい男は存在しない。
強く、逞しく、清らかで、決して曲げない信念を持つ人だ。
しょうたは先輩のような人間になろうと日々努力している、そう言って差し支えないくらい尊敬している。
「清永」
「はい」
しばらくして、連絡を入れていた署から電話があった。
「金髪の少年の捜索願いは出されてないそうだ。そもそもそんな名前の戸籍は無いと。どうなってんだか。お前ん家で少し様子見れないか?」
「え、僕のですか。」
「俺は家庭があるからな。」
「はぁ。え?良いんですか、そんなことして?」
「ここに置いとくか?」
「いやそれは…」
「だろ。頼めるの清永しかいない。帰って良いから、お願いしていいか?」
「…わかりました。」
そこまで言われて断る器ではない。
お前にしか頼めないと言われて寧ろ喜んでいたしょうたは、外に出てにやけながら家へ電話を掛けた。