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超短編2

ある日のできごと。

作者: しおん

 

 私は今、友達とルームシェアをしている。毎日交代で夕食を作ったり掃除をしたり。今日は友達がその当番の日だったから、私は普段しないショッピングなんかを楽しんでいた。流行りの洋服をどうやって見せびらかそうか、内緒で買ってきたプレゼントは喜んでくれるかだとか。本当にくだらないことを全力で悩んでいた。


 バーンと玄関を開けて堂々と帰宅した私には空きっ腹に追い討ちをかける夕食の香りが...しない。あれっ、おかしいなあ。間違えたかな?と小言を口にしながら当番表を確認。でもやっぱりそこに私の名前はなくて、友人が夕食の準備をしていないことだけがわかる。買い物にでも出掛けているのかなと思い室内で大人しくしていたものの、長針が180度回転した頃にはさすがの私も堪忍袋の緒がきれた。


 いったいどこでなにやってんのかと。


 電話をしても、繋がらない。

 メールをしても、返信はない。


 忙しいのかもしれないけれどそれなら先に一言伝えるのが常識というもので、事後報告されたところでこの空腹は埋まらないのですよ?と、誰もいない虚空にそんなことを呟いた。


 もう腹が立ったと外食しに行きがてら友達を探しに出掛けようとした私の前には、私の靴ともうひとつ友人の靴がそこに並んでいた。靴があるということはあの子は帰宅しているというわけで、もし家内にいなかったら誘拐されたかもしれないという最悪の状況が頭をよぎる。


 ドタバタト近所の迷惑の考えずに踵を返すと、まずは友人の部屋へ突入した。


 そこにあったのは袖口を赤く濡らした友達の姿。誘拐されていなかったという安堵と、くたっとして生命力のない友人の姿への恐怖が同時に私に襲いかかる。


 まずは何をしたらいいんだっけ。


 冷静になりきれていない私の頭は、その答えを出すことができない。普段なら救急車だとか、手当てだとか。当たり前だと言わんばかりに即答していたのに、肝心なときにこれだ、つくづく自身が情けなく思えてくるよ。


「おかえり」


 この状況で先に動いたのは彼女の方で、目の前に広がった光景に目を奪われていた私を現実に引き戻すには十分な出来事だった。


「おかえりじゃないでしょう。ちっ、ちっ、血っ!今、なにしてるかわかってるの?」


「んー。りすとかっと?」


 疑問に思う余地もないほどに完璧なリストカットですよ。それよりも問題は、


「何でこうなったのよ」


 この友人が色々と不安定なことは知っている。特に、交友関係においてそれは顕著に現れて、悪口やら陰口やら喧嘩に敏感に反応する。

 今までもそれで何度かこんなことがあったから、どうせ今回も似たようなものなんだろうけど......どうも様子がおかしい。


「いらないって」


「え?」 


 言っている意味がわからなくて聞き返すと


「あの人がいらないって言うから。私も自分なんかいらないし...だから、捨てようって思ったの、いらない私なんて」


 ぽつり、ぽつりとこぼれる声に、私は目をみはった。友人には彼氏がいる。いや、いた。それはもう優しくて賢くて、ムカつくぐらい良い奴が。友人はそんな彼を大切に思っていたし、彼も同じぐらい大切にしあっていたと思う。だからだろうか、いつからか友人は彼に依存していた。でも、こんなにも深く強いものだなんて思ってもいなかったから、甘く見ていた。恋人だった奴なんていう赤の他人の言葉で自殺を考えてしまうぐらい、この子は彼に依存していたのだ。


 代わりが欲しい。


 彼女は目でそう訴えていた。一人では、生きていけないと。でも私にはできない。この子の友達である私は、親友にはなれど恋人にはなれないのだ。でも、


「生きて!」


 これは切実な願い。

 どうしようとないけど、どうにかしたい私のわがままな願い。


「他の誰がいらないって言っても、私には必要よ。だから、どうかお願い。生きていて」


 代わりなんてない、私の大切な友達として。



















「さ、夕飯にしましょう!今日の当番はそっちなんだから、ちゃんと作ってよね」


 つとめて明るく、そして厳しく。怪我?そんなもの一々気にしてなんかいられない。変に気にされても困るし、それよりも私の腹の虫の怒りを鎮めることがなによりも優先。

 結局は自分がかわいいのよ。



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