ノーマルが総受け展開から転じて最強女子の友人になった件について
※血濡れ表現あり。
人混みの中、人にぶつかりながらも、全速力で走る。
「っ」
目的地はない。
とにかく逃げなければ。
「はぁっはぁっはぁっ……、クッソ!」
左手から見覚えのある髪色が見え、右へと進路を変える。
「なんで…、なんでこんなことになってんだ!!」
ヤツらに追われる羽目になった原因を、俺は思い出していた。
※※※※※※
「城崎さん」
「「しろちゃーん」」
「幸太郎ー!」
「シロ公」
「こう…たろ…」
「城崎ぃー」
「………何だよ」
滅べ!と言いたくなるようなイケメン共が俺、城崎幸太郎を思い思いに呼んだ。
正直これに返事を返したくないが、しなかったら文句を言われ絡まれ脅され、下手したら軟禁。
一言言っておこう。
コイツらは犯罪者予備軍だ。
「幸太郎、今日うちに寄ってかね?」
「「あーズルイ!しろちゃんは僕たちと遊ぶのー!」」
「シロ公は俺様とホテルに行くんだよ」
「城崎さん、僕と図書館に行きませんか?」
「こ…たろ、…庭園」
「城崎ぃ、テメェは日直として担任のオレの下僕だぁー」
幼馴染みに、生徒会の双子会計、俺様会長、腹黒副会長、口下手書記、ダルデレ担任。
それぞれ、これはデートのお誘いのつもりらしいぞ。
ちなみに軟禁の前科持ちは………全員だ。
コイツらはそれぞれ金持ちで、一般庶民の俺には逃亡を図れない。一度ガチで逃げようとしたら権力をフルで使ってきやがった。クソ怖ぇ。
「どれも嫌だよ!」
いつものように心の底から断る。
すると。
「……ふぅ」
いつもなら、コイツらん中のその日の勝者(?)が、強引に、悪あがきと分かっていても本能的に全力で逃亡する俺を軽々捕まえ、隙あらばセクハラ、そして犯そうとしてくるのだが、今日の反応は違った。
揃って、諦めのような、嘆息を吐いたのだ。
あ、諦めてくれたのか!?(喜)
「もう、仕方ありませんねぇ」
「幸太郎は優柔不断だから…」
「な、なんだよ…?」
諦めたのなら、早くそう言ってくれ!
「こう…たろ、…あの、ね…」
「最近なぁーコイツらと話し合ったんだわぁー」
「は?」
滅茶苦茶、仲悪いくせに?
「それで、決めたんですよ」
「中々選んでくれないからさ」
「「しろちゃんは♪」」
「俺様たち全員で、共有しよう、とな」
うっそりと恍惚とした顔でイケメン共はそうのたまった。
※※※※※※
こうして、最初に戻る。
俺は必死に足を動かしていた。
かつてないくらいに走っている。
それくらいしないと、俺に未来はない。
「「しーろーちゃーん!」」
「城崎ぃー、今すぐ止まんねーなら捕まえた時、即犯すからなぁー」
「幸太郎~、何で逃げんだよー?」
「まっ…て?」
「最後の鬼ごっこですからね。城崎さんの気が済むまで付き合いましょう」
「シロ公、俺様から逃げられると思うなよ?」
怖い恐い怖い恐い怖い怖い怖い怖い怖い恐い怖い怖い怖い怖い怖いッッ!!!
俺がどれだけ必死に走っていても、ヤツらは余裕で追いかけてくる。
クソッ、これまで呪ってきたヤツらの足の長さとハイスペックが俺に牙を剥くとは!
チラリと先の道を見、人混みが途切れそうなのを確認した俺は路地裏に入り込んだ。
※※※※※※
ドガッ
バギッ
ボキョッ
鈍い、変な音がした。
「はぁっはぁっはっ……な、何だ、これ…」
辺りはまさに、血の海だった。
倒れる人、人、人、ひと。
「うぇぇ…っ」
鉄臭さに鼻を抑えれば。
「んー?」
その血溜まりに1人、立っていた奴がこちらを振り向いた。
沈みかけの太陽が仄かに照らす光で、容貌が明らかになる。
真っ直ぐでサラサラそうな黒髪には血がこびりつき、返り血が飛び散った顔で、きょとんと真っ黒の瞳を瞬かせ、こちらを見ていた。
「随分と息切れてるけど…。アンタ、大丈夫?」
白地に赤黒のプリントがされたパーカーの、女の子がいた。
でも。
血の池だとか血濡れだとか、そんなことどうでもよくて。
そんなこと、どうでもよかった。
もう、何もかもが限界で。
ヤツらの実家とか権力とか、今まで逃げたくても逃げられなかった理由が頭から消え去り。
俺は必死に空気を吸い、掠れた声で、ヤツらみたいな濁った熱のある目じゃない、普通の、何の含みもない目で俺を見てくれた、その女の子に縋った。
「――たすけて…っ」
たすけて。
このじごくから、ぼくを。
たすけだして。
「幸太郎ー!」
「「みーつけたー♪」」
「城崎ぃー、手間ぁかけさせんなよなぁー」
「フフフ、鬼ごっこは終わりですか?」
「こ…たろ、いっしょ…いよ?」
「とんだ逃げ癖のある飼い犬だな。なぁ、シロ公」
ヤツらが現れた。
「ヒッ」
「誰?」
女の子は首を傾げていたが、その質問に答える余裕は俺になかった。
そんな女の子に隠れるようにくっついたら、ヤツらの目が細まった。
「…幸太郎?その女、誰?」
「「しろちゃんに悪い虫がー!!」」
「チッ、目を離すとすぐこれだぁ」
「全く、困った子ですね」
「こ、たろ…メッ」
「シロ公……、お仕置きだ」
なんだよ、それ……。
もう、ホント何なんだよ、何で俺を追いかけて来るんだよ、俺は男だぞ、何で…、何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!
何で俺に執着するんだよ!!!
「んんー?…あ、もしかして助けて欲しいのって、アイツらから?」
ヤツらのセリフで何かを察したのか、今度はそう女の子が訊いてきた。
俺は首を縦に振る。
すると、女の子はじぃっと俺を頭からつま先まで見て、言った。
「…アンタ、男だよな?」
「紡うことなく男だ!!」
ただの平凡顔男が何が悲しくて性別を確認されなきゃならんのだ。
「んんー…。いいけどよ、あたしのお願い聞いてくれるか?」
「おね、がい…?」
血の気が引く。
まさかこの子まで…。
「あたしと一緒に遊んでくれるなら、たすけてやる」
「遊ぶって…、どんな?」
『遊ぶ』。
その単語だけでも、戦々恐々だ。
「え?フツーにゲーセン行ったりカラオケ行ったりとか?そーゆーの?」
ほっ、と心の中で安堵の息を吐く。それなら。
「わかった。でも、そんなんでいいのか?」
「それがいいんだよ」
女の子は髪にこびりついた赤黒いモノをバリバリと掻きながら言った。
「おい、キサマ。シロ公から離れろ」
「幸太郎、そんな女なんかと喋んなよ」
「「しろちゃん、浮気はだめだよー!」」
「こうたろ…、おい、で…」
「雌豚が、城崎さんを離しなさい」
「この状況からしてもよぉー、ケーサツ呼んでやろぉーかぁ?」
「おいおい、な〜に言ってんの?たすけてって言われたのは、あたし。大義名分はこっちにあるんだよ」
カラン、と落ちていた鉄パイプを拾う。
「成敗、ってな」
ニヤリと、悪どく、楽しそうに、女の子は笑った。
………血濡れになりながら「アハハハハハッ」と心底楽しそうに高笑いする人ってホントにいんだな、って思いました。
つか、スッゲェ怖かったんだけど!
俺、ホントにこの子に頼ってよかったのか!?女の子に頼ってる時点で男の矜持はないにも等しいけどよ!
「んー、よし!じゃあ行くか」
「あ、うん……、イつ!」
「んー?ああ、足ケガしてんじゃん」
「必死だったから、気付かなかった…」
「うちで手当てしてやるよ。よいしょっと」
「うひゃあ?!」
ひょいっと俗に言う……ぉ、お姫様だっこ…をされた。
か、軽々と…。
「軽っ。ちゃんと食べてんのかよ?」
「グハッ」
た、確かに、ヤツらに追われ始めてからストレスで小食気味で、拒食症一歩手間だったけど…、女の子に「軽い」って…軽いって……!
俺はダメージを負いながら、その状態のまま運ばれた。女の子の家まで。
俺は知らなかった。
山奥に隔離された学園には入ってこない、街の、裏の、噂。
男だろうが女だろうが権力だろうが、立ちはだかるものは全てを力で圧倒し、捻りツブす、とある女の噂。
その素性は、極悪極道一家の一人娘。
先月、街の裏にフラリとやってきたと思ったら瞬く間に裏を支配し、もはやその女にかなう者は一家でも片手で数えられる程度。
泣く子を大泣きに変える、恐ろしい恐ろしい女の噂を。
そして、女は全てを捻りツブしまくり、ふと気紛れに、友人と呼べるものが欲しいと思った時、現れたのが、俺だったことを――。
※※※※※※
気色悪いことこの上ないヤンデレ逆ハーレムを何故か作ってしまった俺、城崎幸太郎は、
ヤンデレ共以上にとんでもない(色んな意味で)九頭竜華恋ちゃんの友人になったのだった。
終わり
部下「お嬢、おけぇりなせぇやし!」
華恋「おう」
部「そのなよっちい男は誰ですかぃ?」
華「あたしのダチ。おい、誰か救急箱持ってこい」
「「「ダチ?!」」」
「て、天変地異の前触れか…?」「明日は槍が降るぞ!」「孤高のお嬢にダチ…、嘘だな、うん」「どこか頭でも強く打ったんですかぃ!?」
華「るせぇハゲども!黙って救急箱持ってこいボケェ!!」
「「「はい!」」」
幸「(うわぁ、マジモンのヤ○ザじゃん…怖ぇ~、つかお嬢って…)か、華恋ちゃん」
華「あん?ああ、今手当てしてやっからな」
幸「いや、あの、………もういいや、どうとでもなれ」
幸太郎は色々諦めた。
※※※※※※
・城崎幸太郎
平凡顔の一般庶民男子。
BLゲーの主人公のごとくイケメンたちを助け、惚れられ愛され、病まれ、必死の逃亡劇を繰り広げた人。
普通の行動をしただけなので、何故執着されているのかは分かっていない。それが余計恐怖を煽る。
最近、女友達ができ、自分の運命を受け入れた。
・九頭竜華恋
極悪非道と名高い九頭竜組の組長の一人娘。
可愛らしい名前に親の希望が詰まっているが名前だけだった。
大変、凛々しく雄々しく格好いい男前。
腕っぷしが強い。父親にはまだまだ勝てない。
気紛れに幸太郎を拾って友達になる。今のところ飽きてない。
飽きたらツブす予定だったが、2人の友人関係はこれから先も続いていく。
・九頭竜組
極道一家。
裏世界のドン。
色々やらかし過ぎて権力もひれ伏す組。
悪いこといっぱいやってるヨ☆
組長の一人娘は組長に溺愛され、組員にも慕われている。
過去に娘を拐って組を脅そうとした輩もいたが、当時小学生のその娘にツブされた。
ヤンデレストーカーたちの実家は適当に甚振られ弱体化した。