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雑用と筋肉

五月も終わり、湿った季節が曇っている天気ともに幕を開ける。

「隊長。少しは動いて下さい、掃除の邪魔です」

大日本帝国軍非学部門第五部隊事務室。

現在、星下幻徒が隊長命令で部屋の掃除を任されている。

「隊長は普段働いてるから、動かなくて良いんだよ」

その隊長は自分の席にだらしなく座って、漫画雑誌を読んでいた。

「また明さんに怒られますよ!それでも良いんですか!」

「家の娘の名前を気安く呼ぶな!まったく、うるさい奴だな。お前は明二号か…」

いい歳をした大人が口を尖らせ、拗ねて見せる。

「拗ねても駄目ですよ。隊長が僕に命令で掃除してるんですから」

少し口を歪めて、口を開く。

「ここは良いから、向こうで書類整理でも…」

風斗が口を開くと同時に出入り口の扉が開く。

「失礼します。八雲明、ただいま戻りました。まだ、掃除をしているのか?星下」

何時も通りに明の雷が落ちると思ったが、今日は様子が違うようだ。

「え?そうですけど…。僕に何か用ですか?」

自然に答えると明がため息を吐く。

「説明してなかったんですか?隊長…」

「え?そうだったかな?」

とぼけて、その場を乗り切ろうと視線を反らす。

「星下、今日から貴様は訓練施設に行ってもらうぞ」


訓練施設とは、大日本帝国非科学部門訓練施設の事である。

この施設は非科学部門が所属する兵士が入隊すると同時に利用する事になり、二種類の技術を学ぶのである。

一つ目は知識である、魔術を基礎から学ぶ。

二つ目は戦闘訓練と体力作り。

「ここだ」

明が幻徒を連れて、施設の玄関前に立ち止る。

「へぇ~、凄く広いんですね」

関心していると冷たい声が聞こえて来る。

「関心してないで、早く行くぞ。時間がないのだからな」

足早に自動ドアをくぐり、中に入る。


足を踏み入れ、視界に入ったのは近未来的なエントランスと人の多さである。

今日から自分もここ訓練すると実感を得た瞬間、少しの緊張感と少しの高揚感が混じる。

『訓練生の皆様、おはようございます。今日も一日、怪我のないように頑張ってください』

いきなりアナウンスが流れ、少し驚くがこれも新鮮だった。

「何、呆けているんだ。行くぞ」

この声で背筋が真っ直ぐになり、思わず声を上げる。

「は、はい!」

さらに奥に足を進めると、受付がある。


「予約した、第五部隊の者だが」

明が声をかけると、受付の女性は笑顔で対応する。

「はい。星下幻徒訓練生ですね、ではこちらに部隊名の記入とサインをお願いします」

何かを記入をしているようだが、幻徒には些細な事でしか映らなかった。

「はい、確かに。では、あちらの階段で二階にお進み下さい」

受付に言われるままに階段に足を進める。


「あの~、明さん。これから、どこに行くんですか?」

幻徒が何時もの用に声をかけるが何時ものように答える。

「黙って、付いて来い。付いてくれば解る」

冷たく、返される。だが、幻徒はこの会話が嫌いではなかった。


二人はたどり着いたのは学校の教室を連想させる部屋だった。

「ここだ。第五部隊隊長代理八雲明、星下幻徒。ただいま到着しました」

「どうぞ」

「失礼します」

教室に入る。そして、最初に入るのは白髪が混じる頭と前時代的な丸眼鏡。

「空いている席に座ってくれ」

二人は言われた通りに適当に座る。

「君も大変だね、明君。風斗の代わりなんて」

眼鏡の位置を人差し指で少し整え、口を開いた。

「いえ、何時もの事ですので教官が心配することではないです」

何時ものように、冷たい口調で口を開く。

「君も変わらないね。それより彼だね、新しい訓練生って言うのは?」

「はい、一週間前に入隊したばかりです」

何時も思うのだ。どうして、明は他人と距離を置きたがるのか不思議でしょうがなかった。

それに隊長達以外の人間と話す時は言葉の一つ一つが冷たい。

取るに足らない些細な事かもしれないが、幻徒は少しだけ明の事が気に掛かっていた。

「君、名前は確か…」

目の前に居る、幻徒に声をかける。

「は、はい!自分は星下幻徒訓練生であります!よろしくお願いしゅ!」

緊張で語尾が可笑しくなっているのを気づかないまま挨拶をしてしまった。

「あっははは!君は面白い人だね!今まで、出会った事ないよ!失礼、僕はこれから君に魔術基礎を教える佐々木だ。よろしく」

「こ、こちらこそよろしくお願いします…」


自己紹介が一通り終わった後、授業が始まる。

「え~、授業に入る前に星下君魔石と言う物質は知ってるかい?」

魔石とは大日本帝国が現在、使用している技術開発や研究に使われている石である。

現在では魔石の種類は大まかに四種類。火石、水石、風石、土石である。

「へぇ~、そんな物があるんですね~。初めて知りました」

「え?風斗から何も聞いてないかい?まったく…。彼らしいよ」

幻徒の言葉を聞いた直後、嘆息を吐く。

「え?隊長もここに来てたんですか?」

「当たり前だよ!非科学部門に入隊したら、必ず受けるなければいけない訓練の一つだからね!風斗君の事は置いといて、魔石の説明をするよ」

初日の魔術基礎は終わり、次は実戦訓練だ。


実戦訓練を受けるためには魔術基礎を習っている学問棟から一回外に出る。

幻徒が外に出ると、明が落ち着きがなさそうに中の様子を覗いていた。

その様子を少しだけ眺めて、可愛いと思い自然と微笑む。

「明さん、ここで何をしてるんですか?」

声をかけると驚いて、素っ頓狂な声を上げる。

「べっ、別に何もしていない!訓練が終わったから、たまたま通りかかっただけだ!」

その表情は今までの冷たい物ではなく、恥ずかしさが前面に出ていた。

「そうなんですか?まぁ~、いいですけどね。実戦棟って、どっちに行けば良いんですか?」

彼女自身、こんな気持ちになるのは初めてで自分でどうしたら良いか解らずにいるのだ。

第三者から見れば意中の異性の事が気になっている、年頃の乙女にしか見えない。

「こっちだ、付いて来い」

「明さん、どうしたんですか?体調が悪いんですか?顔が赤いですよ?」

「別になんでもないと言ってるだろ!?私はたまたま通りかかっただけで、貴様の事が心配で来たわけでは…」

「あれですか?実戦棟って?」

本人はまったく気にしていないようだ。

「あぁ…。そうだな、あれだな」

内心、聞かれなかったと事に胸を撫で下ろす。


実戦棟の目の前まで到着。その直後、勇ましい声が聞こえて来る。

「後、三セットだ!気合を入れろ!貴様らこんなぬるい訓練で一人前になれると思うなよ!」

どうやら、教官が訓練生達に激を飛ばしていた。

「明さん、ずいぶんと熱血な教官がいるんですね…」

いきなり聞こえた怒号に似た声に驚くか明はまったく気にしていなかった。

「あぁ、あれは別部隊の隊長だろう。本来ならば各部隊長が訓練生を指導するんだ」

「え?そうなんですか?でも、隊長は僕に何も…」

明の言葉を聞いて、違和感を隠せずにはいられなかった。

他の非科学部門部隊は規模が大きいため、隊長達がグループを作り予定を全て作る。

だが、幻徒が所属している第五部隊は十年前に出来たばかりで、

人員が少ないため他の教官に依頼するか自主的に訓練をするしかないのだ。

「内の部隊は人数が少ないんだ、仕方がないんだ」

「でも、明さんは訓練はどうしてるんですか?」

「私はもちろん教官に依頼しているぞ。貴様も教官に依頼してある、しっかりやるんだぞ」

二人は実戦棟の中に入る。

学問棟よりは人が少いが、雰囲気がまったく違っていたのだ。

汗の匂いが鼻に付き、すれ違う人間の顔付きが険しい。

「どうした?早く行くぞ」

「は、はい!」


実戦棟は二ヶ所に別れている。筋力を鍛えるためのスポーツジムや各シュミレーションを行う施設や汗を流すためのシャワールーム。

そして、走り込みなどを行う総合グラウンドがある。

「広いですね~」

「関心している暇などないぞ、行くぞ!」

その後ろ姿は何時にも増して、嬉しそうだった。

幻徒との二人で一緒に居る時間が幸福に感じ始めていたのだ。


耳に入ってくる音は兵士達の雄雄しい声と歯を食いしばる音。

視界に入ってくるのはお互い汗を流し、切磋琢磨してる光景。

少年は今まで、住んでいた世界では無縁だった場所にいる。

これらを肌で感じて、実感を得ていた。

これから、自分もこの兵士の一員としての一歩を踏み出す。

これだけで、身が引き締まる。

「付いたぞ、ここだ」

「え?」

二人が立ち止まったのはグラウンドの隅っこに立てられている小さな道場だ。

しかもボロボロで、人が利用しているとは考えられない。

「失礼します。第五部隊、八雲明。星下幻徒、到着しました」

扉を開けると衣服の着替え途中の女性がいた。

「その辺に座っててもらえる?」

「きょきょ、教官!?何て、はしたない格好を!?事前に連絡してはずです!星下、お前は外で待ってろ!」

いきなり動揺をして、幻徒は外に締め出されてしまった。


「改めまして。私は女性専門で実戦訓練を教えている、黒川です。よろしくね、星下幻徒君」

「は、はい!こちらこそ、お願いします!」

第一印象は長身で細身、何より美人であるが左目に眼帯をしている。

「聞いてたよりは、普通の子ね。星下君って、何か残念」

初対面で、失言を言われたのは今までの人生で初めての経験だ。

「勘違いしないでね、風斗の奴がすごい新人が入ったって自慢しててね。この間、魔術師をたった一人で撃退したんだってね」

耳に入った、言葉が幻徒は空いた口が塞がらなかった。

「隊長がそんな事を!?あれは僕一人の力じゃありませんよ、まぐれですよ」

褒められたのは、久しぶり照れてしまった。

「何?照れてんの?可愛いわね~。純粋な少年はいいわね~」

さらに顔が赤くなって行くのが理解出来た。

照れているのが原因で緊張している。

「教官…。いい加減、本題に入ってもられませんか?」

隣に座っていた、明が怒りの声が聞こえ来た。

これは不味い。明が怒り始めると、幻徒では止める事は出来ない。

「もしかして、星下君にちょっかい出されて妬いてるの?」

顔に少し笑みを浮かべる。

「妬くって、星下とは別に恋仲など!?」

「ふふっ。やっぱり、明ちゃんもお年頃なのね。私も戻りたいわ」

「教官…。私は他の仕事があるので失礼します。おい星下、明日から私も一緒だからな。覚悟しておけ」

その瞳は洗礼された刃のように鋭く、動く事が出来ない。

言葉だけを言い残し、道場から去って行った。その背中に殺気を纏いながら…


「では、星下君。まず、君の身体能力を見たいと見たいと思います」

明が去った後、黒川教官と幻徒はグラウンドに足を運ぶ。

「え?それって、学校の体育では?」

素直な疑問が言葉として、口から零れる。

「そうね。それと似てるわね、星下君は何を想像してたの?」

「う~ん。軍隊なんで、もっときつい訓練を想像してました」

「最初は誰でも思ってる見たいだけど全然違うから、初めから飛ばさないから。私は女訓練生専門だからね、男と違って女の子は繊細なのよ」

「え?そうなんですか?女性専門って?僕は良いんですか?」

「風斗から頼まれたのよ、面倒見てくれって。特別って…、訳ではないんでけどね。単純に私が暇だったってだけ」

「そうなんですか」

この時、幻徒は何も考えずに黒川の言葉を聞いていた。彼女の表情が薄っすら笑っていたのを知らぬまま。

「早速、やっようか。最初は百メートル走ね」

手にストップウォッチを握り、ボタンを押すと同時に合図を声に出す。

幻徒は走り出すが、一瞬だけ教官の顔が視界に中に映ったのだ。

その表情は明を遥かに凌駕する、鋭さだ。目を合わせば、殺されると思ってしまった。

そんな事を考えて内にあっという間にゴールに辿り着いた。

「十四秒か…。普通ね」

そう呟いた、黒川は世界新記録を若干期待していたのだ。

風斗が魔術師を高校生が撃退したと聞いて、どんな化け物が来るかとわくわくして待っていたのに、蓋を開けて見れば少し好みの男の子だった。

「星下君。次は反復横とびね」

学校で行っていた、項目を焼き回しで行い嫌気が指しいたがいつの間にか終わっていた。

「今日はこれで終わり。明日に備えて、ゆっくり休んでね」


本格的な訓練が始まって、一週間が経過。

「明さん、待ってくださいよ~」

情けない声がグラウンドに響き渡る。

「軟弱者め!それでも日本男子か!気合を入れろ!」

二人は現在、千五百メートルを走っている。

「明さんが早すぎるんですよ~」

「私は先に行っている、貴様は倒れない程度に走れ」

そう言うとさらに速度を上げて、走って行ってしまった。

「はぁ…。やっりすごいな明さんは」

訓練が始まって幻徒は少しづつではあるがなれて来たが、明には驚かされる事ばかりだ。

三年も軍隊に居るのだから、当たり前なのかもしれないが単純に幻徒は明の事を尊敬している。


「はあっ…。はあっ…」

なれたつもりだが、辛いものは辛いのだ。グラウンドの隅に腰をかける。

一日に千五百メートルを数回走れば誰でも息を上げる。

「ん?」

誰がの気配がどこからかするが気のせいだろうと。

ドリンクボトルを口に運ぼうとした、瞬間。

頭上に大きな物が迫っているのをはっきりと察知して、その場から飛び出すように逃げ出した。

それと同時に轟音が鳴り響き、土煙が舞う。

「危なかった…。間一髪」

そして、その土煙の中から姿を現したのは黒川教官だった。

「やっぱり、避けたわね。さすが、第五部隊期待の大型新人ね」

あまりの衝撃に幻徒は口が塞がらなかった。

「教官、一体何をしているんですか!?」

たまたま明が通りかかりるが状況を把握出来ていないようだ。

「明ちゃんもいたの?星下君が一人の時を狙ってたのに…」

「教官、これは一体…」

殺されかけた、本人が口を開く。

「説明するから、二人は汗を流して道場に来なさい」


「二人とも、揃ったね。何故、私が星下君に奇襲をしかけたかって質問だけど…」

あれは奇襲ではないだろう、クレーターが出来上がって始末である。

「あの~、黒川先生。あれは奇襲なのでしはょうか、あれはし襲撃なのでは?」

「あら、星下君。そんな言葉だけ知ってるの?関心ね」

「本題がずれてます教官。何故、星下を襲ったのですか?」

「ん~。黙ってろって言われてるんだけどね…」

黒川が口を開くと同時に道場が揺れたのだ。

「「えっ!?」」

三人同時に声を上げる。

『緊急事態発生、緊急事態発生。各部隊長、教官は至急検問所に向かわれたし。所属不明の魔術師により、襲撃を受けている。繰り返す』

非科学部門の施設に緊急事態を知らせる、放送が響く。

「二人はここで待機していなさい!私は、現場に向かうわ!」

「え…。先生、僕も付いてっても良いですか?」

何も考えていない、幻徒が口を開くがもちろん教官が止める。

「星下訓練生。命令を聞いてなかったのか?私は待機してろと言ったはずだ」

この言葉でここは組織なのだと実感してしまう。今まで学校で生活していたのだから、仕方ないことたろう。

だが、幻徒はこの位では引き下がる男ではない。

「解りました。待機してます」

素直に聞き入れ、この場をやり過ごす。

「では私は現場に向かう。安全が確認さけるまで二人はここに待機。明、星下君を頼む

この言葉だけを言い残し、道場を後にした。


事態発生五分前。

一人の巨漢が大日本帝国軍非科学部門検問所の前に立っていた。

「仕事に失礼する。一つ尋ねたい事がある、星下幻徒はここにいると聞いたんだが?」

兵士はこの大男に違和感を感じられずにはいかなかった。

どう見てもただの一般人にしか見えないのだ。

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。通りたければ、許可証を提示しろ」

何時ものように同じ言葉を口にする、すると男は口を開く。

「それは知らなかった、許可証が必要だったとは。私もうっかりしていた」

「すまないが、引き返えして…」

兵士の視界には何が映ったのだろう。本人も理解出来なかった。

ただ理解出来たのは自分が座っていた椅子が宙に浮いて、地面に叩き付けられた。

「自分で探すとするか…」

巨漢は小さく呟いて、消え行った。

兵士は朦朧としている意識の中、トランシーバーに手を伸ばした。

「き、緊急事態発生!聞こえますか!本部、聞こえますか!」

『こちら非科学部門本部、状況を知らせろ』

消えそうな声で兵士は最後の力を振り絞って声を出す。

「所属不明の男が中に侵入しました!かなりの大男で魔術師のようです!」

『了解。ただちに対処する』


「あ~、なのだ?さっき、すごい音が聞こえたよな?せっかく、寝てたってのによ。誰だよまったく…」

近くの屋根上で昼寝していた、雷火が目を覚ました。

「ちょっと、様子でも見てくるか」

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