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第五話覚醒を始める力と決意

背後から迫る、赤い影から必死で逃げていた。だが、逃げても解決にはならない。

どうするか、頭の中で思考を巡らせるが良い答えは出てこない。

ただ、恐怖から一時的に逃げても何を変わらないのを知っている。

だからせめて、あの人の言葉を信じて立ち向かおう。

「いつまで、走ってんだ!体育の時間じゃなぇんだぞ!」

背後から、高熱の球体が高速で迫って来る。だが足を止めて、振り向く。

「お!戦う気になったか?何!?」

振り向いた瞬間に地面に雷を纏った(まとった)槍が刺さる。

「困るなんだよ~、身内に手を出されると…」

声の主は第五部隊所属、天ノ雷火だった。

「雷火さん!来てくれたんですか!?」

「まぁな、隊長命令でな。それに星下、内の部隊に入るだろ?だったら、助けるのは当たり前だろ?」

「もう、話が伝わってるのか…」

話が早くてため息が出てしまうが、助けに来てくれて本当に良かった。

「それにな一般人に手を出す奴が俺は一番気にいらねぇんだよ!」

雷火がこの言葉を聞いた瞬間に幻徒は感動を覚えたのだ。この現代にこんな事を言う人が実在したなんて、世の中捨てたものではない。

「はっははは!お前、面白い事を言う奴だな!今時、漫画でもそんな事を言う奴いねぇ…」

赤髪の男が言葉を最後まで良いかけた時だった、男の頬に赤い線が走っていた。

「今のは挨拶代わりだ。俺の名は天ノ雷火だ、お前の名は?」

それはまさに神速、幻徒には全く見えなかったのだ。おそらく、敵も視界で確認する事が不可能なのだろう。

「くっ…、俺の名は…。いや、コードネームファイヤーだ」

この時、雷火と幻徒は同時に同じ事を言う。

「「ダサいな…」」

口にした時に熱を帯びた物が高速で二人の間を通り過ぎる。

「あつ!」

男は表情に笑みを浮かべて、口を開く。

「これもあいさつ代わりだ。行くぞ!」

この声が開戦の狼煙となり、コードネームファイヤーは自分の手から火炎の玉を生み出し雷火に向ける。

「おい、星下。これをお前に渡しておく」

雷火は刀を手に取り、幻徒に渡す。

「え、これは?」

目の前の刀がいったい何か、幻徒は理解していないかった。

それもそうか。普通の高校生が刀を渡されても、どうしたら良いか解らないのが当たり前だ。

「もう、忘れたのか?切り裂きジャックと戦った時に使ったやつだ。受け取れ」

刀に目を移すと、幻徒が使った時と同じの物だった。この刀を手に取り、口を開く。

「は、はい…。でもこれで、僕にどうしろと?まさか、戦うんですか!?僕が!?」

刀を渡された瞬間から薄々気づいていたが、やはり今回も巻き込まれてしまった。

「それとその刀はどうも、お前じゃないと抜けない見たいだ」

面倒事を上塗りをされてしまったようだ。幻徒にしか扱えない刀、それは専用の武器を意味している。

「話は済んだか?待ちくたびれたぜ!」

再び、高熱を帯びた玉が二人に目掛けて高速で向かって来る。

「避けろ!星下!」

この声を聞いた時に幻徒の身体が突き飛ばされ、地面に這いつく。

「雷火さん!」

火の玉が爆発し、雷火の姿が炎に飲み込まれる。

「こんなの隊長の拳に比べたら、眠くなるぜ」

煙の中から、無傷の雷火の姿が現れる。

「なかなかやるじゃなぇか!お前も魔術師か?」

無傷の雷火は身体には、金色のオーラが漂っていた。

「まぁな、一般の奴と同じくらいは訓練したつもりだ」

その声色は何時のもと違い低く、まるで臨戦態勢の獣。

「いいね…、好きだぜ。お前見たいな奴は!戦うのが楽しみだ!」

コードネームファイヤーは声を荒げると、再び火炎の玉を生み出し雷火に放つ。

「俺にそんなもの、当たるかよ!」

だが雷火は神風のような速さで火の玉を砕き、ファイヤーに接近する。

「俺の魔力を槍で砕いただと!?めちゃくちゃな野郎だ…」

雷火の行動にファイヤーは動揺を口にするが冷や汗一つ、額に浮かべていないが雷火の姿が視界に入る。

「これで、終わりだ!」

稲妻をまとい、懐に飛び込もうとした瞬間だった。音が聞こえた。

「そんな事で俺がやられるかよ」

音と同時に雷火の身体が爆炎の衝撃で吹き飛ばされる。

「ぐはっ!」

雷火の身体が地面に転がる姿を屋上から、スコープ越しから覗いている人物が一人。

「さて…。次はお前だ、星下」

ファイヤーが幻徒の方へと足を向けたその時だった。

「今だ!明、撃て!」

冷たい引き金に指を掛ける。その瞳には得物を映し、殺意が宿っていた。


熱気が漂う屋上で的を見ていた、何時ものように引き金を引くだけだ。

それで、今回の出来事も終わりを迎える。そして、少し目を瞑り相手の冥福を祈る。

この行為は、彼女が狙撃する度に行うと決めている。

「すぅ…」

覚悟を決めて引き金を引く、その時ライフルの銃口から爆発した。

「何?!」

何が起きたのか頭では理解したが、動揺して身体が動かなかった。

『おい、どうした?!明!応答しろ!』

耳元で声が響き、我に帰る。

「す、すまない…。不足の事態が起きて、武装が爆発してしまった…」

『何!?』

雷火の動揺が声を通して伝わって来る。どうやら、予定が狂ったようだ。

「これから、そちらに向かう」

動揺で手の振るえが止まらない、今まで自分が体験をした事がなかった。

明が父親。八雲風斗の部隊、非科学部門第五部隊に所属して約三年。

魔術に関わる人間を数え切れないほど関わって来たがあんな破天荒な人間は初めてだ。

しかもライフルの銃口が爆発したなどと受け止めたくなかった、何かも現実離れしていた。

焦りで呼吸が荒くなるのがゆっくりと頭で理解して行く。

「はぁっはぁっ…」

無意識に胸を抑える。結界内の効果なのだろうか、身体が熱い。

目が霞む、手が震える。ドアまでの短い距離が遠く感じる。

いつの間にかドアノブに手を掛け扉を開けて一歩を踏み出す。

その一歩は鉛のように重かった。


「嘘だろ…。あの距離で?こいつは化け物か…」

雷火の言葉が静かな悲鳴となって、赤い魔術師の耳に入る。

「どっかに鼠が紛れ込んだらしい。忘れたのか、ここは俺の結界の中だ」

土と血が混じる。その味が失敗と悔しさと変わり、奥歯を噛み締める。

「それとも、俺があの位の事を察知出来ないと勝手に予測したのか。そんな事はどうでも良い」

コードネームファイヤーは先ほどと、まったく雰囲気が違った。

身体の周りには、淡い赤色の気が漂っていた。まるで、炎その者だ。

「さて、目的を果たすか」

幻徒に視線を鋭く向け、足を向ける。

「刀を抜け!星下!」

雷火の叫びは幻徒の耳には届いていなかった、視界の映った現実で身体中が震える。

「おいおい。びびって、動けねぇなのか?その得物は飾りか?さっきの勢いはどうした?逃げ回ってた時の方が元気があったぜ?」

右手の中指と親指をこすり合わせ、火炎を作り出す。これは指で小さな摩擦熱を魔石をしようしたグローブで熱を増幅して生み出す。

「動け!俺の身体!」

ボロボロの身体で這い上がろうとするが、雷火の身体は重度の打撲と軽度の火傷を負っている。

普通の人間なら口も動かす事も出来ないが雷火は意識が途切れそうな中、歯を食いしばり声を搾り出す。

「さっきからお前、うるせぇな。大人しく寝てろよ」

視線を再び、雷火に向ける。

「てめぇ!」

すると、雷火の身体に変化が起こる。

「しばらく、地べたに寝てろよ。雑魚が…」

吐き捨てると、幻徒に視線を向けて睨みつける。


目の前の現実を目の辺りにして動けずにただ震えている。

普通の高校生だからと言い訳を楽になれるのだが、それでは前と一緒だ。

巻き込まれた人間と友達を助けたくて、この状況を何とかしたくてここに立っているのではないのか?

自分に自問自答をする。答えはもう出ているのに怖くて身体が動かない。

握っている刀を強く握る。すると自然と身体の振るえが無くなり、刀を無意識に鞘から抜いていた。

ただ、目の前に傷ついている人達を助けるために赤い魔術師に刀を向ける。

「そうなるのを待ってたぜ!命令では抵抗するのなら手段は問わないって、行ってたしな!」

赤い魔術師は指を鳴らし、火炎を生み出す。そして幻徒に向けて、投げられた。

その高熱を帯びた玉は高速で迫って来るがなぜか、動きが遅く見えるのだ。

幻徒にも一体自分の視界で何が起きているのか理解できなかったが、だだあれを避ければ良い事だけは瞬時に理解した。

「何?!あれを避けたのか…、まぐれだろ」

放った火炎の玉が幻徒に避けられたのが予想外だったらしく、軽く表情を歪ませる。

「はっはっ…、今のは一体?」

幻徒自身も自分の身に何が起きたのか理解出来ないまま、呆然と立っている。

「やはり、今の動きはまぐれだったようだな!これで終わりだ!」

声を荒げ火炎を五つ作り出した。そして宙に舞い、幻徒に向かって放たれる。


少年は空に浮かぶ五つの死を司る赤い星を瞳に映していた。

この時確信した自分はここで死ぬんだと。考えただけで、口の中が乾いて全身から冷や汗が流れる。

気づいた時には赤い星は直ぐ傍まで迫っていた、その高熱を感じれる距離まで。

これで自分の存在が無になるんだと、確信した時。

『危険を察知しました。これより、防衛機能を起動します。第一防衛機能、身体機能向上。魔力を生成開始』

どこからともなく機械的な声が響く。その声が流れた後、視界に映る物が遅く感じた。

これなら、あの「死」から逃れられると確信した。

「な、何が起きてるんだ!?漫画の世界はここは?!避けられるわけないだろ!?」

幻徒は空から降り注ぐ火炎の玉を後ろへ下がり避ける事に成功する。

その動きは、赤い魔術師でも目で追う事が出来ないほどに高速だった。

しかし、幻徒の身体に大きな負担が掛かっていた。

「うっ…」

相手の攻撃を避けたのは良かったが、高速の動きに身体が付いて行く事が出来ずに胸を押さえる。

「使い魔も消したのもまぐれじゃなかったのか?それじゃ、本気で行くぜ…」

拳を強く握り走り出した、距離は余り離れていない。

魔術師は向かってる時、頭の中で数日前で自分達が使用していた使い魔が撃破された事を考えていた。

なぜ魔力も無い一般人が自分達が使う使い魔を倒す事が出来たのか。そして隊長達があの一般人を狙うのか、謎は深まるばかりだ。

「はっ…、はっ…」

霞む視界の中で敵が迫って来るのを捉えるが身体が言う事を聞いてくれそうにない。

あの動きで体中が悲鳴を上げているが、ここで動かなければ自分には「死」が待っている。

それに、学校中の人命が掛かっている。だから、自分が倒れる訳には行かない。

奥歯を噛み足に力を入れ、刀を強く握り。そして、敵に向かって走り出す。


その速さで景色が流れて行く。今までに感じた事がない速さに戸惑うが今はどうでも良い。

ただ、目の前の敵を切るために走っている。なぜ、自分がこのような超人的な力を持ってるのか。

今、刀を振り下ろす。

「早くなっただけで、調子にのるなよ!俺が付いて行けないと思ったか?」

魔術師は振り下ろされた刀を軽々と避けた。

「くっ…。うっ!」

今の斬撃を避けられたのがさらに負荷を掛け、身体が軋むが敵を無意識に睨みつける。

「その目付き。いいな!燃えてくるぜ!」

耳元から何かを弾く音が聞こえた。その瞬間、爆発が起こる。

「ぐっ…」

潰れた声と同時に地面に投げ出される。

「おいおい!もう、お終いかよ!もっと、楽しませてくれよ!早くしないと、お友達が死んじまうぞ!」

魔術師は恍惚な笑みを浮かべ、歩みを進める。

そして歯を食いしばり膝を突きながらも、立ち上がる事が出来た。

「はっ…、はっ…。あんたは戦うのがそんなに楽しいのかよ!」

刀を構え、怒りの篭った言葉をぶつける。

「はぁ?お前。こんな力を持っていて、試したいと思わないのか?さぁ、もっと力を見せてくれ!」

魔術師は両腕を広げて、戦闘意欲に満ちた声を上げる。

「うぉぉぉぉぉ!」

目の前の敵に向かって、走り出す。

「良いね!燃えて来たぜ!」

十個ほどの赤い玉を両腕で作り出し、幻徒に向けて放つ。

自分に向かって来る、火炎の玉を避けるが限界がある。

そんな時地面に落ちていた、刀の鞘が視界に入る。

「今度はどうする?見せてくれ、お前の力を!」

とっさの思いつきで拾ってしまったが、どうするか考えていなかった。

これはただの鞘であるため。火炎の玉を防いだら、直ぐに壊れてしまうだろう。

だが向かって来る、火炎の玉を左手で握っている鞘で砕いた。

「何!?お前、めちゃくちゃな野郎だ!」

なぜ、鞘で火炎の玉を砕く事が出来たのかは今は追及している場合ではない。

向かって来る、火炎の玉を右手の刀で切り裂く。真っ二つになった、獄炎の塊が通り過ぎて行く。

左手の鞘で身を守り灼熱の玉を砕いて行く。ばらばらになった、塊が地面に散らばる。

気が付くと、魔術師の近くまで近づいて刃を力一杯振り下ろす。

「褒めてやるよ…。俺にこれを抜かせた事を」

目の前には、炎で刀が防がれていた。一体、どうしたら炎で物体を受け止めきれるか。

驚きを隠せず、一歩後ろに下がる。

「何が起きてるか解らないって顔してるな。一つだけ、教えてやる。こいつは炎剣えんけんって言うんだ」

炎剣。純度の高い魔石だけで作られた、短剣である。少しの摩擦だけで炎を作り出し、それを圧縮。

それを刃にする事も可能である。

「ふぅ…、ふぅ…」

息が上がっているのが理解出来た。そろそろ限界が近づいて来ているのも理解出来た。

膝が笑っている。視界が霞む。腕が震えている。これ以上、立っているのも無理だ。

「そろそろ、限界のようだな。素人にしてわ、楽しめたぜ。終わりに…、何!結界を破ってる奴が!三人だじゃなかったのか!クソっ!引くしかない!」

霞む視界の中で魔術師の姿が消えた様子を映した。


暗がりにあった、視界が明かりを取り戻す。消毒液の独特の匂いと多くの人の声が混ざる。

一瞬自分がどこにいるか。解らなかったが、白い服装をしている女性が視界に入り理解した。

ここは病室のようだ。

「目が覚めましたか?ここは病室です。解りますか?」

看護婦の暖かい声が耳に入り、生きている実感を味合う

「あ、あの僕はどうしてここに?」

素直な疑問を看護婦に問いかけると、少し困った顔している。

「熱中症で運ばれてきたのよ。君は全身に怪我をしていたけどね。どうして、君だけがあんな大怪我をしていたのか解らないけど」

この幻徒はこの言葉を聞いた時、おかしいと核心した。自分だけが、大怪我をしている。

あの戦闘で怪我を負っているのは自分を含めて、三人いるはずだ。第五部隊の雷火と明である。

「あの、他の人達は?僕の他にいたはずですが?」

疑問を隠せずに言葉にしてしまう。

「学校のお友達ですか?それなら、むこうの大部屋に…」

看護師の言葉に疑問を持ってしまった。確かに学校の生徒達と教師達は倒れていたが、幻徒が聞きたいのは雷火と明の安否だ。

「いえ…。一緒にいた、男の人と…」

口にすると、看護師は急に笑顔になり口を開く。

「お連れの男性ですよね!ちょっと、待ってて下さい!心配してたんですよ!」

この人は人の話を聞いていないと核心した。


「どうぞ、お入り下さい」

顔を輝かせて連れて来たのは第五部隊、東雲風斗だった。

「どうも、ありがとうございます」

風斗が看護師の目を見た瞬間、何かを感じた。あの時と同じ感覚だ。

「私これで、他の患者さんがいますから。これで失礼します」

一体、何が起きたのかはだいたい察しが付いた。魔術で暗示をかけて、この部屋から退室させたのだ。

「さて、幻徒。まず先に君に謝らなければならない」

風斗がまず、最初に行ったのは幻徒の謝罪だった。

「隊長さん…、頭を上げて下さい。今回は僕がお願いした事です。それに戦ったのは僕の意思ですから」

余りにも冷静な言葉に風斗は思わず、目を丸くした。

「はっはは!そうか!星下君、君は器がでかい男だな!魔術師とやりあった、後とは思えないな」

突然の笑い声に驚いたが、幻徒の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。

「そういえば!あの赤髪の魔術師はどうなったんですか?」

話題を変えた瞬間、風斗の表情が険しくなった。

「あの後…」

言いかけた時だった、病室の扉が力任せに開いた。

「幻徒!無事か!」

夫婦と思われる、男女が息を切らせて病室に入って来たのだ。

「父さん、母さん?!どうして、ここに?」

驚きと安堵が心の中で混じる。だが、両親の表情はまだ不安が残る。

「病院から、連絡が来たんだ!気を失って運ばれたって!身体は大丈夫なんのか?!」

どうやら、病院に運ばれた理由は気を失って倒れたと言う事になっているらしい。

「大丈夫だよ…。今はなんとも無いから」

少し呆れるが、心配されるのは不謹慎だが嬉しかった。

「そう。なら、良いのだけれど」

両親二人共、心配性は抜けないらしい。

「星下夫妻少しお話があるので、外に出ませんか?」

少し、険しい表情で風斗が口を開く。それを察したかのように二つ返事で了承する。

「あ、はい」

風斗と夫妻は病室を後にする。


誰もいない待合室で大人が三人、無言で顔を突き合わせる。

その空気は気まずいと言うと言うより、張り詰めていた。当たり前か、自分の子供が病院に運ばれて正気でいられる親はいないはずだ。

「まず先に名乗らなかった事を謝罪します。私は八雲風斗と言い、軍の関係者です」

軽々と口を開く。そして、両親の表情が曇り始める。

「あ、あのどうして家の子が軍の関係者のあなたと一緒に?」

これが、普通の疑問だろう。親が心配するのも無理もないだろう。

「まぁ、まず話を聞いて下さい。奥さん。今日、幻徒君が通う学校が魔術師に襲撃されました」

二人は急に口を閉じる。魔術師と言う、単語を聞いて思考ん゛停止してしまったのか。こんな、突拍子もない事をいきなり言われていれば無理もない。

「そうですか…。おかしいと思ったんだ」

だが、二人は冷静だった。鼻で笑う事もせずに耳を傾けていた。

「失礼ですが、お二人は星下家の人間ですね?魔術師って、聞いても全く動じない」

自分の推測は正しかったのだと、胸の中で確かな自信となる。

「はい。私達は確かに星下家の人間ですが、分家ですので魔術師とはあまり関わりが無いんですよ」

確かに、魔術に深く関わっていれば一般の学校に幻徒が通っているはずがない。

それは違うだろう、正しくは幻徒の事を知らずに通わせていたのだろう。

「それでは、幻徒君が魔術師に狙われている事も心当たりがないと?」

二人の表情が少しだけ硬直したのだ。これは何を意味しているか解らない。

「幻徒が狙われている?それはどう言う事でしょうか?!」

母親から、不安の声が漏れ出す。当たり前の話だろう、我が子の命を狙われていると聞けば不安になるのは自然の反応だ。

「私もおかしいと思ったんです、一般高校生が魔術師に狙われるなんて…。気になって調べてみたら、何も出てこない」

淡々と語るその口調はあまりにも重苦しい。

「そうですよ、幻徒は普通の子ですよ…。ねぇ、あなた」

この二人さっきから、様子がおかしい。風斗は二人の微妙な変化も見逃さなかった。

「もう、隠さなくて良いですよ。幻徒君がお二人の子ではないのでしょう?苦労しました、あの出生届けも戸籍も全て偽造された物だ。なぜ、そこまでする必要があったんです?」

急に二人の顔色が変わった。そして、風斗を睨み付け口を開いた。

「どこから、調べたんだ!あんたは一体何者なんだ、幻徒をどうする気だ?!」

「お父さん、落ち着いて下さい。私は幻徒君を守る側の人間だ」

「そんな事、突然言われて信用できるか!何が目的だ!」

「仕方ない…。身分を隠していた事を謝罪いたします。軍の規則なのですが、この場合は仕方ない」

冷静な口調と堂々とした、態度で言葉を並べる。

「私は大日本帝国軍非科学部門第五部隊隊長、八雲風斗であります。噂くらい、聞いた事はあるでしょう?」

この言葉を聞いた瞬間、父親の表情が冷静さを取り戻する

「非科学部門?あ!これは失礼な事を…。それでは獅子王さんのお知り合いですか?」

この言葉を聞いた時、風斗の方が戸惑っていた。

「え?!あのじじ、じゃなくて。獅子王将軍が?何か幻徒君と何か関係が?」

思わず本音が漏れそうだったが、それよりも星下家ど言う関係だったのかが気になった。

「今から、十年前の話なんですけどね。覚えてますか?星下家大火災」

それは今から十年前の事だ。星下家の本家から火災が発生、消防が駆けつけた頃には建物は全焼と言ってほど焼けていて。

周囲数キロまで被害を出した大火災だ。その原因は解明出来ずに調査を打ち切り。

被害者達の話によればいきなり空が赤くなり。爆発音が聞こえ、気が付けば周りは火の海だったそうだ。

それは当時、救助任務に付いていた風斗が一番知ってた。

「あの時、私は家内と家に居たんですけどね。突然インターホンがなったんですよ…。そしたら、金髪でスーツ姿の大男が小さかった幻徒を抱えて来たんですよ。それでこう言ったんです」

『突然の無礼をお許し下さい。星下家当主の遺言ですので、何かありましたら連絡を下さい』

「そんな事があったんですか…。だから苦労したのか」

「はい。あの時、驚きはしましたけが嬉かったんですよ。私と家内には子供がいませんでしたから天からの贈り物だと思いました」

嬉しく語る二人は子を大事に思う親なのだと痛感した。自分も人の親だ、子に何かあれば必死になるのは当たり前だ。

「お二人が幻徒君を大事に思っているのは良く解りました。それで相談なのですが、幻徒君を私に預る気はありませんか?」

「は?それは、幻徒を軍隊に入れると言うと事でしょうか?」

両親の表情が険しくなっいた。

「はい。それには、ちゃんとした理由もあります。今日の魔術師襲撃も幻徒君が撃退しました」

「え?!あの子がそんな事を!虫も殺した事が無いんですよ!?」

「お子さんをわざわざ危ない所に入れる親はいないでしょうが…。今日の襲撃で確信しました、切り裂きジャックとあの魔術師は裏で誰かが操っています」

風斗の胸も痛むがこれは両親に伝えなければいけない事だ。

「え?それでは幻徒はやっぱり魔術と関係があったんですか?」

この言葉が気になるが、今は自分が知りえる情報を口にする。

「はい、今ははっきりと言えませんが幻徒君は魔術との関係性はあります」

「そうですか…。やっぱり、星下家の血筋なんですね。あの子には普通の人生を送って欲しかった」

俯き、その姿は風斗の目に寂しく映る。

「気休めにしかならないでしょうが、幻徒君は私が必ず守って見せます!」

その瞳には嘘偽りが一切無く、星下夫妻はこの人は信用出来ると確信した。

「私達ではあの子を守ってやれません。だから息子を、幻徒をよろしくお願いします」

父親が頭を下げる。本音は自分の子を危ない場所に行かせたくないのだろうが、今の状況を理解してくれたのだろう。

「はい、私が出来る限り尽力する事を誓います」

この時、八雲風斗は人生で二回目の誓いを立てる。


そして、帝都高等学校魔術師襲撃事件から二日後。

「よし、入れ」

非科学部門第五部隊事務室。古びた扉が開く、そこには一人の少年が立っていた。

軍服に袖を通し、少し緊張した面持ちで歩き出す。

「今日、配属になりました、星下幻徒です。よろしくお願いします」

少年は初めてする、敬礼に少しだけ頬を赤らめる。

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