金縛り初体験
お騒がせな者達が、オレ専用プライベートルームから消え去った日常。
それは唐突に訪れた幸運の日々の始まり。のはずだった……
ううー
なんか重い
あいつらはいないのに……なぜ……
ま、まさか……
これがいわゆる金縛り!!
字面は良いよな。だって、お金の「金」の字入ってるし。
いや、金に縛られるって事は、今のオレみたいに金欠でうなされることなのか?
恐る恐る目を開けると、何かが足の上に乗っていた。
すぐに目を閉じたので、それが何かはわからなかった。
金縛りなのか?
マジで?
物思いに耽っていると、ぺちぺちと腹の辺りを叩かれた。
可愛らしい音を響かせているのは、どうやら小さな手のようだ。
子ども?
「おい、起きぬか!これ、早う起きぃ」
聞き慣れない女の子の声だ。
「うー」
悪い夢だ。
きっとそうだ。
現実逃避癖が幻影を呼んだんだ。
そんないつもの調子で起きるのを渋っていると、業を煮やした幻は典型的な起こす側専用起床手段を使った。
「いい加減に起きぬかっ。馬鹿者――!!!」
きーん。と耳が痛くなる。
木霊する感覚に反射的に起き上が……れなかった。
オレのお腹の上に幼い女の子が座っていたのだ。
「ギャー!!!」
「起こしてやったというに、その叫び方はなんじゃ?」
奇声を上げたオレと違い、目の前にいる女の子は全く動じていなかった。
「失礼なやつじゃのう」
「すみません。って、違うよ!」
あまりにも淡々とした口ぶりに謝ったはものの、降りそうにない女の子を見つめる。
「君、誰?っていうか……早く降りてくれないかな」
やれやれ、しかたがない。と言いたげな、のろのろした動作でようやく女の子は降りてくれた。
「まったく。お前が起きぬからいかぬのじゃ。わざわざ来てやったというに。信じられんやつじゃのう」
巫女服の裾を払いながら、女の子は溜息を吐いている。
おかっぱ頭の黒髪に黒い瞳。
白と赤の巫女服を着て、薄く紅をひいた朱色の唇が大人っぽさを演出している。
「来てやった?」
怪訝に思い聞き返すと更に呆れた様子で踏ん反り返り、こう言った。
「何を今更。お前がわらわを呼んだのじゃろうが」
「えーー!!!」
急いで記憶を探す。
あーでもない。こーでもない。
ん?
んん?
何も呼んだ覚えなんてないぞ?
あれ?
首を傾けながら聞いてみる。
「あのう?」
「なんじゃ?」
何事も確認は大事だ。
この女の子は事実を誤認しているだけかもしれない。
「本当に、呼び、ました?」
「忘れたのか?呼んだじゃろう。ええと……」
「二日くらい前じゃったかの?いずこかは知らぬが、わらわに助けを求めたじゃろう?」
「二日前?」
詳しい日付が判明したことで、オレはもう一度記憶を辿ることにした。
読みづらい言葉遣いの女の子の正体は次回に持ち越しです。