ちょっぴりほっとな幸せday
バレンタインほど嫌な日はない。
彼女がいない奴にとってはあまり意味を成さない日だ。
しかも、大学生になった今、サークルなんかで親しくならない限り女子との接点も少ない。
そして、オレが勇気を出して告白した彼女も、今じゃオレの友達の彼女だ。
あんな男のどこがいいんだ?!とも思うが、それなりにいいやつだし、男としてもまあ、もてるほうだろう。
平均的でアルバイターなオレと比べたら、付き合いやすいに決まっている。
それにしても、今日のバイトはきつかったな。
コンビニでバイトして、ファミレスでバイト。
コンビニはいつもと変らない気もしたけど。その後がきつかった。
よりにもよって、なんであのファミレスなんだ!
思い出すだけでも腹立たしいっ!
二十四時間営業のそのファミレスは、日が日だけに混んでいた。
見るからにカップルが多い。
客が多ければその分仕事も多くなる。
ここまでは予想通りだった。
そう、ここまでは……。
あのヤロウさえこなければなっ。
入り口で見かけた時から嫌な予感はしてたんだ。
いろんな店がある中で、わざわざここを選ぶなんて……。
独り者に対する『あてつけ』としか思えない。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「あ、やっぱり今日バイトだったんだぁ」
「な、言ったとおりだろ。こいつのことだから、稼ぎ時にはしっかり出てるって」
こいつら~!!!
いや、彼女は悪くない。
悪くないんだ。
すべての元凶はやつ~~~。
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか」
ムカつきを覚えつつ、なるべく平静を保って言った。
「それじゃあ。私は がいいな」
「んじゃ、俺はこれね。あとさ、やっぱこういう時はこれなんかもいいよねぇ」
「うんうん。それじゃあ、やっぱり私はぁ、これをやめてこっちにする」
こんなトークがその後、しばらく続いた。
なんなんだ?
こいつら、わざとやってんじゃないだろうなあ?!
いい加減、他の客待たせるわけにもいかないんだけど?!!
「後ほど伺いに参ります」を突きつけようかと思い至ったその時。
「じゃ、以上で」
「シンシン。なんかサービスしてよ」
「え」
「無理だって。この店厳しいし。こいつにとってはバイト料が命綱だからさ」
「そっかぁ。ごめんね」
その後。
「以上でご注文の品は全部揃いましたでしょうか」
「うん。ありがとね。バイトがんばって」
うわあ。『がんばって!』とか言われちゃったよ。
すっげー嬉しいかも。
「にやけてミスるなよ」
余計なお世話だ!と心の中で呟いて二人の席から離れた。
時々会話が聞こえたけど、なんかムカつくからやめた。
そんなこんなでバイトを終え、現在時刻は一時過ぎだ。
帰宅途中に何組かカップルを見かけたけど、やっぱり独り者には寂しい。
ま、家に帰れば賑やかだろうけどさ。
「ただいま~」
「あ、おかえりなさいませ」
「おかえり~」
玄関口に立つオレを見て、口々に挨拶してくれる。
「あの」
おずおずと、出迎えに出てくれた悪魔が一歩前に出る。
「ほら、お前いけよ」
「だって。そんなぁ」
「じゃあオレが」
悪魔の後ろで、なにやらひそひそ言いあっている。
「なにやってるの?みんな」
オレの言葉に驚いたのか、みんなが一斉にオレを見る。
そして、
「あの。お、お仕事おつかれさまです」
「え」
そう言って天使に差し出されたのは、可愛くラッピングされた小さな箱だった。
想定外の出来事にオレは一瞬唖然となった。
「これって、もしかして……」
受け取らないでいると、天使の両サイドからも次々声が入る。
「いつも遅くまでがんばっていらっしゃるので」
「わらわたちからの感謝の気持ち、のつもりだ」
「受け取ってください」
みんなが見守る中でオレはその箱を受け取った。
「ありがとう」
オレが一言御礼を口にしただけで、みんなが嬉しそうな笑顔になった。
手のひらサイズの箱を見て、ちょっとにやける自分がいる。
箱は小さくても、みんなで選んでくれたから。
それに。よーく考えたら、こういう品を彼女達から貰うのは初めてかもしれない。
独り者だけど。
日付も変わっちゃってるけど。
なによりここにいるみんなの気持ちの詰まったものだ。
嬉しくないわけがない。
たとえまだ、苦労の日々は続くとしても……
翌日、さりげなくロゴを確認。
箱の小ささに対し、はるかに高いチョコであることに気づいてしまった。
気づいて、しまったんだ……
金の出所がオレの財布ではないことを切に願いたい。
そして、貰ったということは、来月自腹を切らねばならないということだ。
それも、全員分。
ということは……
ええと、ホワイトデーの金額は、バレンタインデーの何倍必要でしたか……?
……
…………保留。
お読みいただき、ありがとうございます。
遠い昔に書いたヴァレンタインSSです。
*お蔵入りになっていた話なので、これまでと性格が違う方がいたかもしれません。
次回更新時期は未定です。