超多忙!にくきゅうは縁起を担う?
前回の続きです。
姫神と狐をつれて、福猫神社を訪れた。
三が日の最終日だけあって、盛況な賑わいぶりだ。
「おう!よく来たな」
本堂脇から黒猫が顔を覗かせた。
約束どおりの差し入れを片手に、行き交う人を避けながら近づいた。
「儲かってるなぁ」
「繁盛繁盛」
「でも、お願いは聴いた先から抜けていってます。いくら書いても書いても、終わらない」
嬉しそうに笑う黒猫とは反対に、三毛猫は手帳片手に疲れた顔をしている。
「休憩しない?」
「いえ、仕事中ですから」
誘ってはみたものの、そう言われると無理強いはできない。
「じゃあ、ここに置いておくね」
「ありがとうございます」
においにつられるように黒猫は、包みに近づき鼻を寄せた。
「いいにおいだな。お前達は食っていかぬのか?」
「家で食べたから」
「右に同じじゃ」
「そうか。では、何か願い事を聴いてやろうか」
「お礼です」
顔をあげた黒猫と三毛猫が揃ってオレを見上げている。
「いいよ。忙しいんだろ。本当に叶えて欲しい時にまた来るから」
「そうか。それもよいやもしれぬな」
オレの言葉に黒猫は頷いているが、三毛猫は手帳をめくり始めた。
「予約でいっぱいじゃなきゃいいのですけど……」
「願い事叶えるのって予約制なの?!」
「一応順番があるんだよ」
「へえ、そんなシステムになってたんだ……初耳だね」
「叶えられる者もおれば、叶わぬ者もおる。全ては無理じゃからな」
「こうしてメモを取って、願いの強い順に並び替えるんです。本当に幸せな人の願いは、私たちが叶えなくても自然とやって来ていますからね」
「ふうん」
神様たちの共通認識ってやつか。
頼れば何でも叶うっていうのは、人間の勝手な言い分なんだな。
「困った時の神頼みっていうけど。やっぱり神様は気紛れなんだね」
「そうですね」
「お、また強い願いの持ち主が来たぞ」
「めもめもですね」
黒猫と三毛猫が何かに呼応したように耳が動き、オレたちのことなど忘れたように集中している。
「忙しそうだね」
「始めからそう言っておろうが」
「お邪魔みたいだし、帰ろうか」
「だからそれも」
「言ってたよね」
「そうじゃ」
姫神が頷く。
「帰ろっか。みんな待ってるし」
「そうじゃな。今年もよい年になるといいのう」
「うん」
境内の隅には狐と見知らぬ子どもの姿があった。
「おい、狐、何をしているのだ?」
「迷子の子ども達をかえしてあげてるんですよ」
「ほう、さすがはお狐様。親切だな」
「わしには遊ばれておるようにしか見えぬが?」
「ははっ。ちゃんと面倒みてるじゃん」
姫神がいぶかしんでいる通り、狐は尻尾をひっぱられたり、耳に触られそうになったりと、忙しそうだ。
気に入られているのか、遊ばれているのか、一目では区別がつかない。
「ん。迎えが来たようだぞ」
姫神の言葉通り、母親らしき女性が近づいてきた。
「ありがとうございました。ほら、お姉ちゃんにバイバイして」
「ばいばーい」
小さな手に応えるように狐も手を振った。
それに合わせるように、尻尾もゆらゆら揺れている。
「かわいいですね」
「そうだね。じゃ、今度こそ本当に我が家に帰ろうか」
「はい」
「さっさと帰って餅を食うぞ」
「あんまり食べ過ぎるなよ。太るぞ」
姫神は正月早々から、雑煮を気に入り、食事のたびに「餅はまだか?」とねだってくる。
おかげで、追加注文の電話をしたところだ。
「それにしても、お前の実家の餅とやらは上手いな。作り手の愛情が籠もっておる」
「そうなの?気に入ってくれてよかったよ」
「私も好きですよ~ふっかりあまあまですう」
「……」
褒められているのはわかる。
狐の言いたいことはなんとなーく伝わるが、狐の言葉を言葉として理解するのは難しいものがある。
「わしらに旨いと言わせるのだ。これからも期待しておるぞ」
「うっ、オレには無理かも。あの味出せるかなぁ」
「努力すればいつかは実る。大丈夫じゃ」
「だといいけどね」
姫神様のありがたい御言葉を頂いた気がする。
だから、それを信じたい気持ちはある。
だけど、信じるものは救われない。
いろんな存在と出会ったけれど、それで何を得たのか不明だ。
そんな俺にはちょっぴり痛いセリフだよ。
今年もまた振り回されるのかなぁ。
でも、一人よりかは楽しいから、いいか。
たまにはこういうのも悪くない。
が。
ずっと続くのは、やっぱり勘弁して欲しい。
更新遅くなりました。
時期外れの正月ネタは次話に続きます。